そこは夢の詰め合わせ

天川

145.鉄の耳

どこかで人が泣いている。
人間の子供の声がする。
本当に耳をすませば聞こえる声、どれだけ耳が良くても聞こえないほどに小さくすすり泣く声。それが彼女にははっきりと聞こえた。

「こんなところで一人？どうしたの？」

彼女はそっと近づき、その男の子に話しかける。男の子は少し泣きやみ、そっと彼女の顔を伺い、小さな小さな声で答える。

「なんで分かったの・・・？」

「それはね～？こんは耳がいいんだ！機械だからね！こんはすっごいんだよ！」

むん！と自分の胸を張る。この世界は現在二人が出逢った森を覗いて全てが機械に変わった世界。酸素も二酸化炭素も全て管理ができる。そして人型のアンドロイドも開発された。それが彼女、人をベースに耳は狐の二足歩行アンドロイド天川こん。

「そっか、お姉ちゃんもアンドロイドか・・・」

「アンドロイドは怖い？」

一定数、やはりこの世界にもアンドロイドが怖いと思ってしまう子供が居る。だから、そんな子供は自然へと逃げてくる。それが唯一森という最後を保っているこの自然公園だ。

「仲良くしたいけど・・・怖い・・・」

アンドロイドは高圧的な者が多い。
性格が安定してないのが難点だろう。

「そっかぁ。でも大丈夫、アンドロイドは怖くないよ？なんてたってこんもアンドロイド！こんは怖くないでしょ？」

「うん。怖くない」

「なら大丈夫！さぁ立って！たくさんお話しておいで！アンドロイドは怖くないよ」

さぁ！って男の子を励まし、彼女は家へ帰る勇敢な彼へ手を大きく振りながらまた森の中へ帰る。

『また話したくなったら、怖くなったら、誰かに話したい事があるならおいで。こんはいつでも待ってるよ！』

振り返る彼にそう語りかけたような声が。
前を向き走る彼の顔は笑顔だった。