そこは夢の詰め合わせ

らい

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けり

151.何にも染まらぬ透明なひととき

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今日声は聞こえない。
もう声は届かない。あの人にはもう。
ずっと思い続けてきた。ずっと考えてきた。
ずっとこの深い深い森の中で。
陽の光も当たらない暗い中で。
逢いに来てくれたのはあなただけだったから。

「もう声は・・・聞けないのね・・・」

あの人の優しくて暖かい声。
届かない陽の光のように暖かく、優しい声。
の中に暖かさを与えてくれたあの人の声はもうワタシには聞こえない。

ワタシがあの人に伝えようとしても霧散して声は消えていく。透明な言葉を放ってしまったように。

「━━━━━━━━━━━━━━」

言えない。何も、言えない。
言いたくないのか、言えないのかワタシには分からないけれど。伝えられない。
言いたいのに。言えない。

一筋の涙がすっと頬を伝う。
その時思い出したのはあの人と遠くから見た夕焼けの景色。あんなにも美しく綺麗だった。でもワタシは何もあの人に伝えられてない。好きだと言うことさえも。

自分の感情が「好き」だとわかった時にはあの人はもう星になっていた。空に美しくきらめくあの星のどれがあの人かなんて分からないけれど。

「きっとあなたは星になっても誰かを救っているのでしょう?」

そう信じて。彼女は星に向かって呟くのだ。

「大好きでした。親愛なる貴方へ」

緑の目を細め、羽を揺らした彼女はそういうと俯いた。その涙をあの人に見せないように。


親愛なる貴方へ
誰かがきっとこの話を語り継いでくれる事を願ってこの話を残します。
ワタシが言えなかった言葉を多くの人に言って貰って貴方に届くように。
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