そこは夢の詰め合わせ

らい

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けり

150.「寂しい」と、その一言で

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いつ頃だっただろう。
それは遠い遠い昔の話。
ヒトとは違う、「」の話。

それは一人の男と仲が良かった。
その男は彼女が自分とは違う恐れるべき存在である事を知っていながら隣に居た。
男はそれで良かった。
男は彼女と過ごせるのならそれで何も要らなかった。欲しくなかった。彼女との平穏な日々が送られるのなら。

しかしそれは夢半ばで絶望に変わる。
彼女が近くの村の住人によく思われていなかったようで、男が帰ってきた時には息も絶え絶え、もうすぐ生きる事も出来なくなってしまうだろう。

「ゴメン・・・俺がもっと傍に居れば・・・」

「ううん。いいの・・・貴方は優しかった」

「でも・・・俺はもっと君と・・・」

「ダメなの・・・きっと・・・」

彼女のが弱々しく揺れる。
彼女のが少し動く。
彼女の綺麗な眼から一筋の雫が零れる。
彼女は手を彼の顔へ持ってくる。
そして彼女は彼に最後の力でキスをした。

「きっとこうなる運命だったのよ・・・」

「でもっ・・・こんな・・・ことって・・・」

「大丈夫、貴方なら・・・大丈夫よ」

そう言った彼女の手が彼の顔から離れ力なく落ちていく。重力に逆らえずストンと。
そして彼女は最後に言った。

「あぁでも・・・やっぱり・・・悲しくて、悲しくて、寂しいね」

それだけ言って彼女は眼を瞑った。
その眼は永遠に世界を見て輝かせる事は無いだろう。一筋の雫の跡を陽が輝かせて見せた。

美しいモノノケは寂しさと悲しさを胸にこの世から消えた。美しいモノノケを愛したただ一人の男は静かに涙を流した。
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