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らい

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序章

縁結びの神社

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『恋愛成就』それは恋が叶うためのものである。そしてそれを願うと叶うと言われる神社も確かにある。
しかしそれは願った人の頑張りなのか?それとも本当にその神社の、神のお力なのか?はたまたそれは別なものなのか?さて、どう思うのか。それは千差万別であろう。

これは恋愛成就の神社から始まる、一人の女性と1匹の神のお話である。


ある晴れた日のこと、青々とした葉が風に揺らされ綺麗な音を奏でていた。それはさざ波のような、そしてその陸のさざ波を聞いていた狐の面をした男が居た。男は狐の面の下、人間なら左目の場所に眼帯を付けていた。

風がいきなり強くなり木々が激しく揺れる。
木々にあった葉が数枚その風に乗って旅に出る。ゆらゆらと波に乗ったのように。風が凪いだ後、その狐の面の男はいなかった。あったのは数枚の葉だけであった。



━━━━━━━五月十日━━━━━━━━



「ねぇねぇ!縁結びの神社とか行っとこうよ!ご利益あるかもじゃん!」

放課後、天井を仰いでいた私に話しかけてきたのは中学からの友達咲夜さくよ小町こまちである。

彼女には好きな人がいる。想い人がいる。
むすび柚希ゆずきというクラスの中でも色々な女子から一目おかれる優しい男子。

気さくで誰とでも仲のいいムードメーカー。
明るい彼に引き寄せられるのも無理は無い。
そして小町は彼と仲良くなりたいようだ。

そこでこの街でご利益のあると噂の神社へ行きたいと、なんでもできることはしておきたいと思うのが恋心なのだろう。私、宵待よいまち月乃つきのには恋がなんなのか分からないため、友達の心情より恋というものは分からないことである。

私達は靴箱に上履きを入れ、昇降口を後にする。数々の運動部が部活で優勝を目指し練習している中、私達は恋愛成就を目指している。

その神社は少し離れた丘の上にある。
軽トラックが行き来する畑の中の道を抜け、少しガタついた石段を登る。少しの時間石段を登りそっと振り返る。
そこには手前に大自然とも呼べる木々や草原が、奥には高層ビルなどの住宅街が、一度に見える世界だった。

そんな世界に私が見とれている時横で小町は何かを拾うように腰を落とした。靴紐でも解けていたのだろうと思い、深く気には止めなかった。

「さぁお参りしよ!」

立ち上がった小町が神社の奥へと手を引いてくる。私は引かれて彼女の後ろを歩く。
木々に囲まれ、何か神々しい鳥居をくぐり、賽銭を入れ鐘を鳴らす。鐘のすぐ近く、私達が手を合わせている横にひとつ、狐の像があった。

右眼の淡い青がこちらを見た気がした。
光の差し方だろうとその時は思った。
私は小町の恋愛成就をひとしきり、彼女は自分の恋愛成就をひとしきり願った後、神社を去った。

その日の夜、白い月を見ながら考えていた。
あの目の光はほんとに偶然だったのだろうか?本当にあれは無機物なのか?

考えれば考えるだけ色々な感情と疑問が生まれて来る。明日もう一度神社に行くことを決意した。

━━━━━━━五月十一日夜━━━━━━━━

「あれは確かに私を見つけた目をしましたね。もしかしたら近いうちに逢えるのかもしれませんね。」

虫をも空気を読んだかのような静かな夜。
どこからそれは聞こえたのか定かでは無いが、確かに静かな夜に響いた。

全てを真実へと帰還させる月の光が神社を照らした時、大きな大きな影が現れた。しかしそんなものは見つからない。では何故影があるのか?さぁ何故だろうか。影はにんまりと微笑んだ後、神社へと消えた。

その後、神社は何事も無かったかのように元に戻った。淡く白い月の光も、静かだった虫も、神社の周りに生えている木々も本当に何もなかったかのようにそこに戻った。

誰も見ていないのに。誰も居ないはずなのにそこには何故か不穏と張り詰めた空気が渦巻いていた。それは数刻の間そこにあったが、誰も居ないことを確認したかのように静かに消えた。

━━━━━━━五月十一日━━━━━━━━

次の日は暖かい日だった。校庭にある桜の季節は終わり、ピンク色の花弁の代わりに青々とした葉を身体にまとい風に揺られていた。

『あの目は本当に気のせいだったのかなぁ』

それは一日中私の心を蝕んだ。
一日の授業を上の空で聞いてしまった。窓の外、神社が小さく見える。月乃はそれを見る度ににあの青い目を思い出す。
興味は時に毒となる。放課後の私は小町の話を聞かず神社へ走っていっていた。

走る。走る。昨日は二人で話しながらゆっくり歩いていた道を倍のスピードで走る。なにかに呼び寄せられるように。幸い追い風であったので体感だが早く着くことができた。

石段を一気にかけ登り神社の目の前に立った。しかし思っていたより何も起こらなかった。苔の生えた少し滑りやすい石畳も、周りに生えている青々とした木々も、少し塗装の剥げた大きく赤い鳥居も、何一つ昨日と変わっていなかった。

「きのせい・・・だったのかなぁ・・・」

その時風が消えた。
なにかの前兆のように。
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