二次創作小説

らい

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千雨

千の雨が降る

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それは数十年に一度。
数十年に一度の年に会えるもの。
それは浴衣の時も、近代的な服の時も、探偵のような服装をしている時もあるという。

千の雨が降る年を千雨ちさめという。
その一年の間に会える男がいるという。
都市伝説だ。
そう周りからは片付けられていた。
数人を除いて。

「もうすぐ会えるね」

「待ちきれないよ~!」

丘の上に一本だけ大きく育つ桜の木。
そこで毎年毎年、今か今かと待ってる人影が数人。
千の雨が降る日は。あの人に会う人はいつか。
いつでもいい。いつまでも待つ。
そんな気持ちで数人の人影が立っている。

そしてそれから数年後。
あの年が来た。

人影は走る。あの桜の下へ。
そこで待っているから。
が。

丘の上に走りきった数人が人影を探す。
そしてそれは確かに居た。
それはこちらに気がついてふっと笑うのだ。

「千雨!」

「ただいま。」

静かな優しい声が久しぶりに耳へ届く。
あぁ・・・帰って来たのだ。家族が。

「おかえりなさい」

泣きそうになる目を抑えて、人影達がそう答える。

千の雨が降る年にだけ現れる。
誰かも分からないという都市伝説。
それは衣装だけは変わっていくもの。
その声は、顔は、優しさは変わっていない。


『     千雨の時間にだけ
     見つける事ができる泡沫の人。           』


泡沫の時間のようにあなたとの時間は溶けてしまうけれど
あなたを待つ時間は鉛のように重く、とても長い。

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