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16夢魔
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「夢魔は妖精の一種だが、人の夢に入りこみ、気ままな夢を見させようとする奴らじゃよ。つまり、いたずら好きなのだ」と、サマンサは言っていた。
「そんな妖精を使うと、後で大変なことが、また起きるのじゃないの?」
ユリアの頭の中で、ゴブリンが現れた時のことを思い出していたのだ。
「難しいのは、そこじゃ。夢魔を呼び出し、ちゃんとした契約を結べば、自分の言うことを効かせることができる」
「どうすれば、夢魔を呼び出し、契約をすることができるのよ?」
「古い魔法を使うことになる。それゆえ、古書を読んで覚えてもらわないとならない」
そう言ったサマンサは、白い壁に向かって手を伸ばすと、そこに棚が現れ、その上に鹿革で作られたカバーのかかった古い本がのせられていた。
サマンサはその本を手に取りユリアに渡してよこした。
「その本の十五ページから二十ページまでの呪文を暗記してもらわないとならない。それができたら、次のページに描いている魔法陣を床に描いてもらう。描いた魔法陣を前に呪文を唱えると夢魔が現れる。そこで自分のして欲しいことを言って契約を結ぶ。夢魔にやってもらうことは、ジョン王夫妻にリチャードが双子で生まれていたこととして夢に見させることだよ。同時に二人のリチャードにも同じ夢を見させて、過去を変えてもらう。簡単じゃろう」
「どこが、簡単なんですか!」
「手順は簡単だと言っただけだよ。ともかく、この長い呪文を覚えて、唱えなければならない」
「間違えないで言うことなんて、できるのかしら?」
「そうだね。まずその本を読んで覚えることじゃ」
「呪文をとなえる時は、この本を見ながらしてもいいのかしら?」
「それはかまわんが言いよどんではいけない。それをしたら、もう一度やりなおしをしなければならない」
「わかったわよ。まず本を読んでスラスラと言えるようにならないといけないのね」
ユリアは、サマンサを睨みつけていた。
「そうじゃ、忘れておった。願いを頼む時に、夢魔にお礼だと言ってこれを渡すとよいぞ」
そう言ったサマンサは、白い壁にむかって手をあげると長楕円形の果実が棚にのっていた。それをつかみ取りユリアに手渡した。すぐに棚はいつものように壁の中に消えていった。
「なんですか、これは?」
「マタタビの実じゃ」
マタタビは、ネコたちを酩酊させるほどネコが好きな食べ物だ。マタタビについての知識も前世の純子だった時に得たものだった。だが、何故それが夢魔の報酬になるのだろう?
もうサマンサは、ユリアに興味を失ったように、横を向いている。その顔に向かってユリアは軽く頭をさげて、魔法相談屋をでた。
屋敷の自分の部屋に戻ったユリアは、さっそく本を開き、呪文の暗記を始めた。何回も読んでみたが、言葉が書いてあるだけで意味はまるでわからない。丸暗記をしようとしたが、やはり長文でそれはできそうにない。本を見ながら唱えればいいと言われたので、声に出して朗読をすることに専念をした。本を両手で開き、大声を出して読む練習を始めた。だが、何度やってもうまくできないので、声優や朗読を商売としていた人のことを思い出し尊敬をしてしまっていた。
ひとまず、それはおいておき、魔法陣を描くために床にしかれていた絨毯をはがして、脇に寄せた。床を木の板だけにしたのだが、そこで魔法陣を描くためには、描くことが出来る物が欲しい。だが部屋の中にそんなものはない。そこで一階にいきトムから燃えた木で炭になっている物を分けてもらった。自分の部屋に戻ると、それで魔法陣を描いて、その上に絨毯を戻しておいた。
夕食の後、いつものようにリチャードの部屋にいき、リチャードが本を読んで疲れて眠りに入るまで、ユリアはつきそっていた。リチャードが眠ったのを確かめた後、ユリアは自分の部屋にいき、絨毯をめくって床に描いた魔法陣を出していた。その前で本を手に呪文を読みあげた。必死に行ったので、つかえることもなくできたのだ。
すると、辺りがゆらぎ出し、魔法陣の中に見知らぬ者が立っていた。間違いなく人ではない。鼻は象のように伸びていて、耳は大きくコヨーテを思わせた。服などは着ておらず、灰色の毛が体じゅうにはえていて、黒い水玉模様が全身に散らばっていた。
「あんたが夢魔なの?」
「そうだ。私を呼んでどうしようというのかね?」と、夢魔は人のように話をしていた。
「やってもらいたいことがあるのよ」
そこで、ユリアは、リチャードが双子で生まれたとする夢をジョン王夫妻に見させ、二人のリチャードにも、同じ夢を見せて欲しいと頼みこんだ。
「四人みんなに、そんな夢を見させて、なんの得が私にあるのかね?」
そこで、ユリアは包んできたハンカチからマタタビを出して夢魔に見せた。マタタビを見た夢魔の顔はだらしがなくゆるみ、口から唾液をたらし始めたのだ。マタタビを見ただけでこんな顔をするところを見ると、夢魔は猫の一種だったのかもしれない。
「わかった。王夫妻には双子のリチャードを産んでしまったと思わせ、二人のリチャードにはともに育ったことがある記憶を作ればいいのだな」
そう言った夢魔はユリアの手からマタタビをすばやく奪い取ると、すぐに口の中に押し込んでいた。しばらくの間、ユリアは、恍惚とした夢魔の顔を見続けることになった。
突然、思い出したように夢魔は最初の顔に戻っていた。そして背中に羽をはやすと窓から飛び出していったのだ。
ユリアは、満月にむかって飛ぶ夢魔の黒い姿をしばらく見続けていたのだが、やがて夢魔は点となり夜の闇に消えていった。
「そんな妖精を使うと、後で大変なことが、また起きるのじゃないの?」
ユリアの頭の中で、ゴブリンが現れた時のことを思い出していたのだ。
「難しいのは、そこじゃ。夢魔を呼び出し、ちゃんとした契約を結べば、自分の言うことを効かせることができる」
「どうすれば、夢魔を呼び出し、契約をすることができるのよ?」
「古い魔法を使うことになる。それゆえ、古書を読んで覚えてもらわないとならない」
そう言ったサマンサは、白い壁に向かって手を伸ばすと、そこに棚が現れ、その上に鹿革で作られたカバーのかかった古い本がのせられていた。
サマンサはその本を手に取りユリアに渡してよこした。
「その本の十五ページから二十ページまでの呪文を暗記してもらわないとならない。それができたら、次のページに描いている魔法陣を床に描いてもらう。描いた魔法陣を前に呪文を唱えると夢魔が現れる。そこで自分のして欲しいことを言って契約を結ぶ。夢魔にやってもらうことは、ジョン王夫妻にリチャードが双子で生まれていたこととして夢に見させることだよ。同時に二人のリチャードにも同じ夢を見させて、過去を変えてもらう。簡単じゃろう」
「どこが、簡単なんですか!」
「手順は簡単だと言っただけだよ。ともかく、この長い呪文を覚えて、唱えなければならない」
「間違えないで言うことなんて、できるのかしら?」
「そうだね。まずその本を読んで覚えることじゃ」
「呪文をとなえる時は、この本を見ながらしてもいいのかしら?」
「それはかまわんが言いよどんではいけない。それをしたら、もう一度やりなおしをしなければならない」
「わかったわよ。まず本を読んでスラスラと言えるようにならないといけないのね」
ユリアは、サマンサを睨みつけていた。
「そうじゃ、忘れておった。願いを頼む時に、夢魔にお礼だと言ってこれを渡すとよいぞ」
そう言ったサマンサは、白い壁にむかって手をあげると長楕円形の果実が棚にのっていた。それをつかみ取りユリアに手渡した。すぐに棚はいつものように壁の中に消えていった。
「なんですか、これは?」
「マタタビの実じゃ」
マタタビは、ネコたちを酩酊させるほどネコが好きな食べ物だ。マタタビについての知識も前世の純子だった時に得たものだった。だが、何故それが夢魔の報酬になるのだろう?
もうサマンサは、ユリアに興味を失ったように、横を向いている。その顔に向かってユリアは軽く頭をさげて、魔法相談屋をでた。
屋敷の自分の部屋に戻ったユリアは、さっそく本を開き、呪文の暗記を始めた。何回も読んでみたが、言葉が書いてあるだけで意味はまるでわからない。丸暗記をしようとしたが、やはり長文でそれはできそうにない。本を見ながら唱えればいいと言われたので、声に出して朗読をすることに専念をした。本を両手で開き、大声を出して読む練習を始めた。だが、何度やってもうまくできないので、声優や朗読を商売としていた人のことを思い出し尊敬をしてしまっていた。
ひとまず、それはおいておき、魔法陣を描くために床にしかれていた絨毯をはがして、脇に寄せた。床を木の板だけにしたのだが、そこで魔法陣を描くためには、描くことが出来る物が欲しい。だが部屋の中にそんなものはない。そこで一階にいきトムから燃えた木で炭になっている物を分けてもらった。自分の部屋に戻ると、それで魔法陣を描いて、その上に絨毯を戻しておいた。
夕食の後、いつものようにリチャードの部屋にいき、リチャードが本を読んで疲れて眠りに入るまで、ユリアはつきそっていた。リチャードが眠ったのを確かめた後、ユリアは自分の部屋にいき、絨毯をめくって床に描いた魔法陣を出していた。その前で本を手に呪文を読みあげた。必死に行ったので、つかえることもなくできたのだ。
すると、辺りがゆらぎ出し、魔法陣の中に見知らぬ者が立っていた。間違いなく人ではない。鼻は象のように伸びていて、耳は大きくコヨーテを思わせた。服などは着ておらず、灰色の毛が体じゅうにはえていて、黒い水玉模様が全身に散らばっていた。
「あんたが夢魔なの?」
「そうだ。私を呼んでどうしようというのかね?」と、夢魔は人のように話をしていた。
「やってもらいたいことがあるのよ」
そこで、ユリアは、リチャードが双子で生まれたとする夢をジョン王夫妻に見させ、二人のリチャードにも、同じ夢を見せて欲しいと頼みこんだ。
「四人みんなに、そんな夢を見させて、なんの得が私にあるのかね?」
そこで、ユリアは包んできたハンカチからマタタビを出して夢魔に見せた。マタタビを見た夢魔の顔はだらしがなくゆるみ、口から唾液をたらし始めたのだ。マタタビを見ただけでこんな顔をするところを見ると、夢魔は猫の一種だったのかもしれない。
「わかった。王夫妻には双子のリチャードを産んでしまったと思わせ、二人のリチャードにはともに育ったことがある記憶を作ればいいのだな」
そう言った夢魔はユリアの手からマタタビをすばやく奪い取ると、すぐに口の中に押し込んでいた。しばらくの間、ユリアは、恍惚とした夢魔の顔を見続けることになった。
突然、思い出したように夢魔は最初の顔に戻っていた。そして背中に羽をはやすと窓から飛び出していったのだ。
ユリアは、満月にむかって飛ぶ夢魔の黒い姿をしばらく見続けていたのだが、やがて夢魔は点となり夜の闇に消えていった。
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