刑事殺し・リスト・憎悪

矢野 零時

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2立ち会う

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 八斗交番は、大沢駅から三キロほど北にある旧市街にあった。旧市街地に高い建物はなく、平たい古い家並みが続いている。品田町から車道を走らせていると灰色のコンクリート壁にはひびが入っている建物が見えてきた。玄関口の上に八斗交番と筆字で書かれた看板がかけられている。
 俺がこの交番に寄りたいのは、沢田真治がいるからだ。
 沢田は若い巡査だった。沢田を見ていると、俺が子共だった頃、生きていた父を思い出させる。そうなのだ。俺は生きていた昔の父、潤一郎に会いに行くのだった。
 父も警察官だった。困って交番にきた人たちに対して、親身になって対応しようとする男だった。簡単にできないことだと分かれば、警察官でもそれをしようとはしない。だが、父は違った。自分の生活を棄ててまでも、解決をしようとしてしまう。そんな父を思い出させるのが、沢田だったのだ。
 竹内がさらにスピードを落とし車を八斗交番に近づけて行った。すると、歩道を歩いていた男とすれ違った。男は黒いコートをはおり、黒いソフト帽をかぶって杖をついていた。俺の記憶に残ったのは、男が顔の色を失なったように青白かったからだ。この後、何もなければ、明日には俺の記憶から男は完全に消え去っていたかもしれない。
 
 八斗交番の前には少しの空きがある。ちょうど車2台ぐらいは停めることができる広さだ。竹内はそこに車を停めると、俺たちは車からおり、交番の中に入っていった。
 人の気配がしない。見回りにでかけていて、交番に人がいないことはよくある。そんな場合には、入り口の机の上に、厚紙が立ててあって、そこに連絡先が書いてある。ようは、急ぎの要があれば電話で呼んでくれということなのだ。だが、そんな厚紙も立ててはいない。
 おかしい? 床を見て、俺は「あっ」と声をあげた。人が倒れていたからだ。それも警察官の沢田だったのだ。
「どうした、おい」俺はかがみこんで、沢田をゆらし、背後からだきあげた。
「沢田、沢田!」横から、竹内が声をかけた。すると沢田からは軽いイビキが聞こえてきたのだ。
「眠り薬を飲まされたな」俺は沢田を抱き起しにかかった。床にころがってるマグカップを竹内がハンカチを出して、それでくるむようにして机の上に置いていた。俺は沢田の腰に拳銃が無いのに気がついた。
「沢田、拳銃はどうした?」俺は大声をあげ、沢田をゆすった。沢田に意識が戻り眼を開けた。
「拳銃だよ。拳銃がない」俺の言葉に沢田の顔色はどんどんと蒼くなっていく。
「何かあったんだ?」
 沢田が話だす。
 落とし物を拾ったという年老いた男がやってきたそうだ。男は喉をつまらしているような声をだしたので、沢田は紅茶を入れてやった。二人で紅茶を飲んでいるうちに沢田は眠くなりだし、寝てしまったのだ。
「ともかく、署の方に報告をしといたほうがいい」
 俺がそう言うと沢田は「とりもどさなくちゃ」と譫言のように言い続けている。
「まずは、署に報告するのが先だ」
 俺がもう一度言いなおすと、沢田は小刻みに震える手で電話のダイヤルを回していた。沢田が報告を始めると、署の刑事課強行犯係に電話は廻され具体的な説明をさせられていた。すぐに強行犯係の斎藤係長がやってきた。俺たちの顔を見ると、明らかに不機嫌になった。斎藤にいやがれながら、いつまでも俺たちはいる気はない。
 俺たちが署に戻ると、署長からすぐに署長室に来るように呼ばれた。
「八斗交番から拳銃が盗まれた現場に立ち会わせたそうじゃないか?」
「偶然ですよ。午後二時ころですね。顔を出しに行った時に倒れている沢田を発見しただけですよ」
「ともかく、あんたらが第一発見者になる。その時に、誰か見なかったかね?」
 俺は腕を組んで首を傾げた。たしか、八斗交番へ向かう時に車の中から男とすれ違ってはいる。それを署長に伝えたりはしない。それを告げれば、事件を知る前のことなのに、「なんですぐに捕まえなかったんだ」と大声を出されてしまう。馬鹿な話だ。すれ違っただけでは、交番から出てきたかどうかも、わからない。署長は竹内にも何か聞こうとしたのだが、竹内は両手を前でクロスしブロンズ像を演じていた。つまり、答えることを拒否してみせたのだ。
「まあいい。沢田は、薬を入れた男は老人であったと言っているし、ソフト帽をかぶり、黒いコートをはおっていたとも言っているそうだ。今、強行犯の斎藤たちが捜査してくれているからな」
 署長が楽天的に見ていることは明らかだった。
 署長室を出て、俺たち歩きながら話をした。
「ともかく、警察官が拳銃を奪われたんだ。このことは、大きなニュースになるだろうな?」俺がそう言うと竹内も頷いていた。だが、その日のテレビのニュースにも次の日の朝刊にも八斗交番から警察拳銃が盗まれた報道はなされなかった。警察お得意の隠蔽いんぺいが行われたのだ。拳銃をとられただけなら見つからなくても、事件扱いにならなくてすむと思っていたのだろう。

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