ドール

矢野 零時

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4帰郷
 吉田がいなくなってひと月後、四日間の年休を会社から取ると弘子は郷里にもう一度帰ってみた。すぐに弘子は大友公園に行ってみた。公園にそって歩いてみたが、ナナのことが分かる手がかりは何も見つかりはしなかった。
 突然の弘子の帰郷に、驚いた母は「どうかしたのかい?」と聞いてきた。
「お父さんとお母さんに会いたくなったのよ。悪い?」
 母は笑って、それ以上のことを聞いてこようとはしなかった。
「お母さん、ナナちゃんのこと覚えている?」
「だれ?」
「ナナちゃん、岸本ナナ。私が桜坂小学校に入った時にいた子よ」
「思い出した。近くの家にいた子だね」
 そう言った母は、遠くを見るような眼をしていた。
「でも、かわいそうな子だよ。小学校に入ったばかりで、車にはねられてしまった」
「そうなの。いつの間にか、ナナは学校に来なくなってた」と弘子は話を合わせた。
「事故のあと、あの家族はすぐに引っ越してしまったからね」
「どこへ行ったのかしら?」
「そこまでは、お母さんも知らないわ」
「じゃ、知るには、どうすればいい?」
「そうね。やっぱり、その頃の学校の先生にでも聞いてみるしかないわね」
「小学校一年の担任は福本先生だったわ。ともかく、明日、桜坂小学校に行って、福本先生が今どうしているか聞いてみるわ」
「福本先生?福本先生かい。そうだ。この町に戻ってきているんじゃなかったかしら。川沿地区に息子さんが住んでいて、その家に同居しているみたいだよ。隣の奥さんが詳しいから、ちゃんと聞いてあげるよ」
「じゃ、住所を後で教えて、行ってみるから。でも、先生、私を覚えているかしら?」
 そう言って、弘子は首を傾げていた。

 次の日、街中で和菓子の詰め合わせを買うと、それを手土産に福本先生の家を訪ねた。
「やあ、弘ちゃんか、覚えているよ」
 髪が白くなったことをのぞいて、福本先生の顔は変わっていなかった。そして、福本先生はわざわざ弘子にお茶を入れてくれた。
「先生、すいません。岸本ナナのこと。覚えていますか?」
「桜坂小学校の一年四組に入学してきたナナちゃんかい?」
「はい、そうです」
「そうだね。たしか、きみと同じ所に住んでいたね」
「ナナちゃんに会いたいんですけど」
「交通事故で頭を打ってね。脳神経病院のある葉山市に転居して行ったよ」
「じゃ、今は?」
「私もナナちゃん本人に会ったわけではない。でも、お祖母ちゃん、岸本ツネさんが、毎年年賀状をくれているんだが。それを読むと、ナナちゃんは、頭の怪我もなおって、今は銀行に勤めているようだね」
「本当ですか。それは良かった。ナナちゃんはどこに住んでいるのですか?」
「それは、年賀状に書いてないので分からないよ。でも、ツネさんの住所なら知っている。ともかく、ツネさんを訪ねてみれば、分かるんじゃないのかな?」
 そう言って、先生は、岸本ツネからもらった年賀状を出してきて見せてくれた。住所は友川市から記載されていた。弘子は手帳を出して、その住所をメモしていた。

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