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1勅令
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国王に呼ばれていった父が帰ってきた。だが暗い顔をしている。
「あなた、どうなされたのですか?」と母のアナが聞いていた。
「実はな。うちの娘を国境の王に嫁がせるようにと言われたのじゃ。嫁がせる前に釣り合いがとれるように私を公爵に任命してくれるとも言われた」
「それは、いい話ではありせんか」と母は賛成の声をあげ、私の方を見た。
私はナターシャ。父はライズ王国の子爵ルソン・デオ・ブレード。子爵と言っても、城下にある借家で暮らしている。収入のメインは2ヘクタールの土地から上がる地代だけだ。祖母が街の住人たちを相手に治療院をやっていて、私はそこの手伝いをし、そこで得た賃金も家の生活費に入れていた。
「お前たちも聞いたことがあろう。北辺の国境を担当している小国家カルゾのことを」
「えっ、カルゾですか?」と言った母の顔が曇った。
カルゾはライズ王国の従属国家ではあったが、親交国として外部からくる敵を何度もしりぞけライズ王国を助けてきていたのだ。だが、魔人のいる国が攻めてきた時があった。その時も、カルゾの王や騎士たちは、戦い相手をしりぞけていた。だが、敵の中に魔女がいた。魔女は殺される前に、王と騎士たちに多くの呪いをかけた。
その中に人でありながら人でないものにする呪いがあった。それは彼らを人狼(オオカミ男)にすることだった。
呪われた者は人と思えないほど毛深くなり、夜になると本物のオオカミになってしまう。オオカミは人を襲う。そんなところに、誰も行きたいとは思わない。
「つまり、誰も行きたがらないので、私のところに回って来たということですね。ところで、国王様が、私を嫁がしたいと思う相手は誰なのですか?」と訊いていた。
「リチャード様だよ」
「えっ、リチャード様」と、私は声をあげた。
リチャードが八歳の時に、ライズ王国の城に彼の父とともに表敬訪問をしにきていた。その時に、城内の庭で私はリチャードと出会い、少しの間であったが話をしていた。リチャードの髪は少し赤く、私を見つめる目は黒いひとみが輝やいていた。やさしい笑顔のリチャードとの会話は楽しいものだったことを覚えている。
その時の胸の高まりが今思えば、初恋だったかもしれない。
「おまえが、いやだったら、断ってもいいのだよ。お前が嫌がることをさせる訳にもいかない」
父はそう言ってくれたが、私は首を左右にふっていた。
私の中に、リチャード様ならば、もう一度あってみたいという淡い気持ちが生まれたことは間違いない。
だが、もっとも大きな理由は、王の言うことに逆らって、地位をうばわれたり、断頭台に送られた者がいたことを見聞きしていたからだ。王の見かけのやさしさに騙されてはいけない。王は油断のできない人だったのだ。
「いえ、おうけいたします。お父様やお母様を守ることが、私にとって大切なことですもの」
「あなた、どうなされたのですか?」と母のアナが聞いていた。
「実はな。うちの娘を国境の王に嫁がせるようにと言われたのじゃ。嫁がせる前に釣り合いがとれるように私を公爵に任命してくれるとも言われた」
「それは、いい話ではありせんか」と母は賛成の声をあげ、私の方を見た。
私はナターシャ。父はライズ王国の子爵ルソン・デオ・ブレード。子爵と言っても、城下にある借家で暮らしている。収入のメインは2ヘクタールの土地から上がる地代だけだ。祖母が街の住人たちを相手に治療院をやっていて、私はそこの手伝いをし、そこで得た賃金も家の生活費に入れていた。
「お前たちも聞いたことがあろう。北辺の国境を担当している小国家カルゾのことを」
「えっ、カルゾですか?」と言った母の顔が曇った。
カルゾはライズ王国の従属国家ではあったが、親交国として外部からくる敵を何度もしりぞけライズ王国を助けてきていたのだ。だが、魔人のいる国が攻めてきた時があった。その時も、カルゾの王や騎士たちは、戦い相手をしりぞけていた。だが、敵の中に魔女がいた。魔女は殺される前に、王と騎士たちに多くの呪いをかけた。
その中に人でありながら人でないものにする呪いがあった。それは彼らを人狼(オオカミ男)にすることだった。
呪われた者は人と思えないほど毛深くなり、夜になると本物のオオカミになってしまう。オオカミは人を襲う。そんなところに、誰も行きたいとは思わない。
「つまり、誰も行きたがらないので、私のところに回って来たということですね。ところで、国王様が、私を嫁がしたいと思う相手は誰なのですか?」と訊いていた。
「リチャード様だよ」
「えっ、リチャード様」と、私は声をあげた。
リチャードが八歳の時に、ライズ王国の城に彼の父とともに表敬訪問をしにきていた。その時に、城内の庭で私はリチャードと出会い、少しの間であったが話をしていた。リチャードの髪は少し赤く、私を見つめる目は黒いひとみが輝やいていた。やさしい笑顔のリチャードとの会話は楽しいものだったことを覚えている。
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父はそう言ってくれたが、私は首を左右にふっていた。
私の中に、リチャード様ならば、もう一度あってみたいという淡い気持ちが生まれたことは間違いない。
だが、もっとも大きな理由は、王の言うことに逆らって、地位をうばわれたり、断頭台に送られた者がいたことを見聞きしていたからだ。王の見かけのやさしさに騙されてはいけない。王は油断のできない人だったのだ。
「いえ、おうけいたします。お父様やお母様を守ることが、私にとって大切なことですもの」
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