呪いで人狼(オオカミ男)になった王の所に嫁いで行くことになった件

矢野 零時

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22泥棒市場ふたたび

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 やがて、月一回の泥棒市場が開かれる日がきた。
 その日が来ると、街道ぞいにいつの間にたくさんの店が並び、そこに街ができてしまうのだ。私は下男で調理人のサブを連れて行った。いつもならリカードに来てもらうのだが、いまは兵士の鍛錬に専念していてリカードに余裕がないのだ。
 サブは大柄で力持ちなので、背中に革で作ったリュックを背負ってもらい、その中に金貨がたくさん入っていた。
 今回は、とにかくクリスタルの購入だ。すぐに宝石を置いている店に飛び込んでいった。そこは大粒の宝石が無雑作におかれている店だった。
「クリスタル、大粒でなくていいのかね?」と言って、店主は二十センチ四方の木箱をもってきた。箱をふると、中に入っているクリスタルのぶつかりあう音が聞こえる。
「何個入っているんですか?」
「二百個は入っているかな。だが、形が悪く、かけている奴もあるな」
「買わせていただくわ」
 私がそう言うとサブがリュックから店主の言い値の分の金貨を出して渡していた。
 私は店主から手渡されたクリスタルを肩からさげてきたバッグに入れた。隣の店に行って、そこからクリスタルを五十個買った。

 そんな時に、向かい側の店から、リデが出てきたのだ。すぐに私は顔を見られないように目の前にある店に入り込んだ。ノレンの間から見ているとリデの側に頭巾を深くかぶった男がつき添っていた。背が高い。不吉な予感を覚えて、私はその男の顔を見つめた。
 私は思わず、声をあげそうになった。だが、そうならないように息を飲んで押さえた。
 その男はゾンド国の魔将軍ヤガラだったからだ。城の中でヤガラの遺体は焼いて灰にしたはずだ。
 だが、ヤガラは生きている。それも、恐ろしい顔になっていた。額にも口がついていて、顎の上にある口と合わせると二つの口がついていたのだ。これでどちらかの口を無くしても、間違いなく呪いを唱えることができる。
 ポーマル国のストール王子が危ぶんでいたとおりになっていた。ルイスに切り取られたヤガラの腕をソンド国の兵士たちは持ち帰り、リデが持ち込んだポーションを使いヤガラを蘇らせたのに違いない。
 
 二人が人混みの中に消えた後、彼が入っていた店に入ってみた。
 その店は、薬屋だった。
「今出て行った男は何を買っていたのかしら?」と、私が聞いた。薬屋の店主はにやりと笑った。
「ただでは、教えられないね。それなりの授業料が必要だろう」
 そこで、私はサブに言って、金貨を三枚を薬屋の店主に渡していた。
「人形草を勝っていったのさ」
「人形草とはどんなものですか?」
「それを絞った汁を剣に塗って、剣を交える時に相手の死を願えば、必ず相手を殺すことができる。つまり、ただの剣を魔剣に変えることができるものさ」
 私は顔を青くしていた。月のしずくは呪いをかけられた後に、なおす薬だ。だが、すぐにかけられた魔術をふせぐことはできない。魔術をかけられたすぐに剣でおそわれたら、どんな剣士でも倒されてしまう。
「それを防ぐ方法はないのですか?」と私は聴いた。店主は首を左右に振って「薬ではないと思うよ」と言って、笑っていた。
 薬屋を出た後、私はさらにクリスタルを勝って、四百個を集めることができた。
 
 だが、ヤガラが人形草を買っていることを知っていて、なにもしないで帰ることはできない。
 どうしたらいいのか? 私は判断することはできなかった。
 すると、前に泥棒市場に来た時に行った占い屋を思い出していた。
 ミイラをおいていた店との間を通っている路地に、曼荼羅という占いをしてくれる店があったはずだ。
「ここですか」と言ったサブは不安そうだった。私は前の記憶をもとに路地を進むと奥に吊り下げられたノレンが見えてきた。
 近づきノレンをあげて、私たちは中に入った。
 前に来た時と同じに中は薄暗く丸いテーブルの上に燭台にのせられたロウソクがおかれていた。その横に大きな水晶玉がおかれている。その水晶玉の半分ぐらいしかない顔の老婆がこちらを見ていた。
「ほう、やはりあんたかい」と老婆は声を出した。
「また来ると朝方の占いで出ていたんでね」
「前に占っていただき有難うございました」
「その顔では月のしずくは見つかったようだね。私の占いが役に立った。で、今度はなにかね?」
 私が話し出そうとすると、その前に老婆は手を出した。
「前にも言ったろう。まず前金だよ」
 私はサブに言って、金貨10枚を出してもらい、それ老婆に手渡した。
 そこで、私はゾンド国の魔将軍ヤガラが蘇り人形草を買っていき、魔剣を作ろうとしていることを話した。
「それを阻止するには、どうすればいいのでしょうか?」
「それは、もうパープルクリスタルを身につけるしかないね」
「パープルクリスタルって、なんですか?」
「クリスタルではあるが、うっすらと紫色を帯びているクリスタルだよ」
「そのクリスタルを売っている店を捜して、買いとればいいんですね」
 私がそう言ったんだが、老婆は何も言わなかった。
 その後、私は占い屋を出て、宝石店を見つけるとすぐに入って聞いてみた。だが、どの店にもパープルクリスタルは売ってはいなかったのだ。

 しかたがなく私はまた占い屋に戻ることにした。
「パープルクリスタルはどこにも売っていませんでしたよ。どこに行ったら買うことができるんですか?」
「やはり買うことはできないかもしれんな。非常に貴重な宝石じゃからのう」
「じゃ、どうすればいいのですか?」
 すると、老婆はふたたび手を出して、私に平をみせた。
「金貨十枚でよろしいですね?」
「いや、二十枚だよ」
 私はサブに金貨を出させて、老婆に二十枚渡した。老婆は受け取って金貨をテーブルについていた引き出しを開けて、そこにお金を入れていた。
 その後、老婆は水晶玉をじっと睨みつけていた。
「見えてきたぞ」
「どこに、パープルクリスタルはあるんですか?」
「見えて来たな。偉大な人物がいて、彼がもっているな」
「それは、誰ですか?」
「リア王様じゃよ。あなたも聞いたことがあろう」
「たしか、伝説の人ですよね。さすらいの王とか言われていて、魔人たちをたおして、いろんな国を放浪していた。
でも、どこに住んでいるのですか? いえ、まだ生きているのですか?」
「高い所で霧の中にいて、まださすらっている」
 老婆は顔をあげた。
「これ以上は、何も見えん」
 老婆の占いはそれで終わりであった。

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