呪いで人狼(オオカミ男)になった王の所に嫁いで行くことになった件

矢野 零時

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21同盟成立

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 カルゾ国から送った文書を受け取ったボーマル国は返信をくれ、同盟をすることを了承してくれた。
 その返信書の中で、近日中にカルデ国を訪問することが書かれていたのだ。
 記載通りに、同盟誓約書に署名をするために、ボーマル国のストール王子が五人の護衛兵を連れて、城を訪れてくれた。
 リチャード王は、リカードや私を横に並べて、ポーマル国の王子を迎えた。
「ようこそ、おいでいただき、感謝にたえません。まずは両国が同盟を結ぶ証しである誓約書にサインをお願いいたしたいと思っております」
「リチャード王よ。確かにお急ぎになる気持ちはわかりますが、敵国が想定されるいま、お互いの力をつけるために、少しお話をさせていただきたいと思いますが」
「なるほど、ごもっともな、ご提案。それでは、宮殿にある小会議室にご案内いたします」

 そう言った王は、王子の先にたって、宮殿の中に入り、小会議室に一行を案内していった。そこには、円卓のテーブルがおかれ、それは二つの国に優劣が生じないテーブルであった。
「どうぞ、すきな席におすわりくだされ」と王が言うと、ポーマル国の王子が椅子のひとつをとってすわった。護衛兵の五人たちは、王子を守るように王の左には2人、右には3人すわっていた。
 王は王子と向かい合える位置にすわった。王の左に私が、右隣りにはリカードがすわった。リカードはすぐに会議室の壁際にたっていた侍女に、人数分の紅茶を入れてくるように命じた。

 やがて、お茶が並べられた。
「まずは、お茶をお召し上がっていだきながら、お話をさせていただきたいと思っております」
 王が、そう言うと王子たちはカップを持ち、お茶を口に運んでいた。
「それでは、お話をさせていたきますぞ。戦をすれば、怪我をする者がでてきます。同盟を結ぶにあたって、怪我をした場合によく効くポーションをいただけることになっております。そのことについては、ありがたく感謝申し上げるしだいです」
「ナターシャが薬草栽培に詳しいので、前もってご連絡をいただければ必要がある分を用意できると思っております」
「私どもの兵士は剣、槍、弓を使わせたら、他の国の兵士に引けを取るとは思っておりません。しかし、相手は魔人のいるゾンド国です。魔を押さえる物としてサファイアを持たせておりますが、力が弱い。こちらでは、兵士の方々にクリスタルを持たせているとお聞きしましたが、同じように私たち兵士にも持たせていただけないでしょうか?」
「どうだね。リカード」と言って、王はリカードの方に顔を向けた。
「たしかに、クリスタルの在庫はございますが、私どもの兵士たちにも持たせたいと思っておりますので、数がたりないかもしれません。ところで王子様。クリスタルをいくつ用意すればよろしいのですか?」
「そうですな。千は用意していただければ、そのくらいの数の兵士はおだしいたしますぞ」
「千でございますか!」
「たりないのか?」と、王がたずねた。
「新たに調達することが必要かと」
「なんとか、ならんのか?」
「早急に買い集めます」
 リカードの額に脂汗が浮かんでいた。リカードは自国の兵士のレベルをあげるために、見回り隊を集めて、剣の訓練を日々行っていた。見回り隊はもともとは農民でふだん剣などを持つことのない者たちだったからだ。
 それを知っている私が手をあげた。
「あの、もしよろしければ、クリスタルを集める仕事、私がすることではどうでしょうか?」
 王やリカードは不安げに私を見ていた。だが、普通の市場ではクリスタルはもう売られてはいない。いや、売る物がなくなっていた。他の国にも、商人を派遣して買いに行かせていたが、いい返事はもらえていない。だから、クリスタルを買うことができる場所と言えば、泥棒市場しかなかった。

「そうだな。ナターシャにお願いするしかないな。王子よ。兵士の派遣数はクリスタルの数だけということでどうかな?」
「王が、それでよろしければ、私はそれに同意いたしますぞ」と、王子は笑っていた。

 その後、同盟誓約書二通にリチャード王とストール王子はお互い署名をしあい、それぞれ一通ずつ保管することになった。

 この後、王は王子を迎えての宴を開いた。
 城の調理人たちが腕によりかけて作った料理やいろいろなお酒が運ばれテーブルの上にならべられた。それらを食べ、お酒を飲んで酔った王子が私の顔を見て思い出したように言った。
「あなたを守っている騎士たちもお強い方ばかりだ。鶴山のふもとでの戦いの際、騎士のお一人がゾンド国の魔将軍ヤガラの腕を切り落していましたな。だが、逃げ出したゾンド兵たちがその腕を袋に入れて大事そうに持っていったそうですよ」
「えっ、本当ですか?」と言った私は、顔から血が引いていくのを覚えた。
「ええ、兵士たちから聞いた話ですが」

「このような贅を尽くした料理とお酒、ありがとうございました。あなた方と同盟を結ぶことこそが、我が国にも栄光と発展をもたらすものであると確信をいたしました」と王子は言って、最後の乾杯のためにグラスをあげていた。


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