いつも、隼斗(はやと)

矢野 零時

文字の大きさ
8 / 16

8乖離

しおりを挟む
 隼斗は病院生活を始めた。そう、私は完全に隼斗を見ることができなくなった。弘子が自慢げに話す中から、隼斗がどうしているかを知ることになった。それも、弘子は私の近くにきて、わざわざ隼斗の話をしてみせたのだ。
「やっと、松葉杖で歩くことができるようになったわ。でも、やはり義足をつけてもらわないとね。松葉杖をついて歩かれたら、かっこ悪いでしょう」
 その晩、私は夢の中にいた。
 私は日の元通りを歩いていた。すると、私の前に隼斗がいたのだ。私は声をかけた。ここから、すぐに離れてほしかったからだ。だが、ここは夢の世界。隼斗に私の声が聞こえない。やがて、トラックが走ってくる音がした。私は手を伸ばし、隼斗の肩に手をかけた。隼斗は私の方を向いて笑ってくれた。何も起こらないで、このまま終わる。そんな考えが、私の頭をよぎった時だ。
 突然、隼斗の口は大きく開かれ、私に向かって叫んだ。
 あぶない!
 そう言った隼斗は、私をだきあげ歩道の方に体を向けると、私を突き飛ばしてくれた。そのおかげで、私の体は歩道の上にころがった。だが、やってきたトラックの黒い塊はその下に隼斗の姿を飲み込んでいった。
 私は声をあげた。悲鳴だった。
 自分の声で、私は、はね起きた。
 今見たことが、夢だったことに気がつく。私の体じゅうから汗を噴き出させていた。

 もう、隼斗に会うことはできない。私がそう思っていることが具体化したかのように、隼斗は学校にこなくなったのだ。
 事故から一月後、山田先生は隼斗が転校した話をされた。転向先は病院近くにある秋山高校であった。事故を起こした通学路で隼斗を通わすことに、両親は耐えられなかったのだろう。情報収集の得意な由美の話では、隼斗は毎日、車で送り迎えをされているそうであった。
 やがて、私や松美も三年になり、自分の将来を考えなければならなくなっていた。松美は学年で一番の成績を取り続けていった。
「葉月のように、愛に生きられないタイプなのよ。それに、女であっても、頑張れは、認められる仕事につきたいわ」
 しっかりした考えだ。松美は東大法学部の受験を考えていた。そして、将来は弁護士になりたいと言っていた。
 誰もが受験勉強体制に入っていた。頑張っているはずなのに私の成績は思ったよりも上がらなかった。弘子の方が私よりも常に成績がよかったのだ。もともと頭がよかったのかもしれないが、科目ごとに家庭教師を何人も雇っているという話も聞こえてきていた。
 私は合格ラインにある大学、不知女子大学を受けることにしたのだった。
 春がきて、私も松美もそれぞれ、目指していた大学に受かることができた。そして、隼斗と弘子は同北大学に合格をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

元恋人が届けた、断りたい縁談

待鳥園子
恋愛
シュトルム辺境伯の末娘ソフィに隣国の帝国第二皇子から届けられた『縁談』の使者は、なんと元恋人のジョサイアだった。 手紙ひとつで別れることになったソフィは、素直になれずジョサイアから逃げ回る。 「私に届けなければ、彼は帝国に帰ることが出来ない」 そう思いようやく書状を受け取ろうと決意したソフィに、ジョサイアは何かを言い掛けて!?

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

側近女性は迷わない

中田カナ
恋愛
第二王子殿下の側近の中でただ1人の女性である私は、思いがけず自分の陰口を耳にしてしまった。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

処理中です...