刑事殺し

矢野 零時

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7 収 束

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 思ったとおり、渡辺は、ささやくような声で暴発だと言い続けて死んでいった。
 それは無理もなかった。渡辺は暴対課にいた時にハジキの押収実績で課長になった男だったからだ。それは谷口組と共謀して作られたものだ。その見返りに麻薬の手入れが行なわれる日時を谷口組に教え続けていた。
 谷口組と暴対課の蜜をなめあう関係を俺が知って、証拠写真をとっていると渡辺は思いこんでしまった。だから、俺を殺そうとした。
 俺を殺すために、渡辺は刑事課長の立場を利用して、コンビニ強盗捜査の際に俺を一人にして丸山に撃たせたのだ。もちろん小公園で丸山に狙撃させたのも渡辺だ。
 俺が暴対課に行った時には、丸山は自分の拳銃で俺を撃ってきた。警察の中で不祥事が起きると、本庁から監察官がではってくる。
 丸山の手から紫色になる硝煙反応が検出されると、監察官の前でも丸山は拳銃が暴発をしてしまったと言い続けた。それは、死んでいった渡辺が言っていたこととも整合性があることだった。
 青山署長は、本当のことに気づいていたはずだ。しかし、彼もまた、署内で銃撃戦が起きたとするよりは、銃の暴発の方が穏便で問題にならないことを知っていた。俺は青山も同じむじなだったと思っている。だが、平刑事にできることなど何もない。そう、俺は異論を、いや正論を唱えることはしなかった。
 
 その日の朝。
 俺はエレベーターでおりてきた丸山と顔を合わせた。丸山は笑っていた。
「どうやら、俺のおかげで警察は体面を守ることができたようだな。しかたがないが、俺は警察を辞めることにしたよ」
「その代わり、警備会社の職を手に入れたんだろう」
 俺は低い声を出していた。
「ほう、それを知っているのかい。うまく治まったということだよ。それにしても、肩はもういいみたいだな。やっぱり、あんたは怪物だ」
 言いたいだけを言うと、丸山は肩を軽くゆさぶりながら、署から出て行った。俺は後ろを振り向くこともなく、その背を見ていた。それができたのは、俺の後頭部にある第三の眼のおかげだ。だいぶ前のことになるが、洗面台の鏡の前に立って手鏡でうつして俺は第三の眼を見た。外から見た限りでは、眼には見えない。そこは、お出来ができているようだった。
 署から出ていく丸山を見ながら、俺は胸の中でつぶやいていた。
 あんたのおかげで、俺は未知の者に侵入おかされた。そう俺は怪物だよ。俺の体には、いま侵入者と俺の二つの存在が住んでいる。つまり、ハイブリッドというわけだ。
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みんなの感想(1件)

笠木リョウ
2016.12.18 笠木リョウ

斬新な設定が素晴らしく、描写もしっかりしてますね!僕も近々推理小説を投稿する予定ですが、参考にさせていただきます。

矢野 零時
2016.12.23 矢野 零時

読んでいただき、まずはお礼を申し上げます。私も推理小説の書き方として、
本格的な推理を中心にすべきなのか、どういうスタイルしたらいいのか、いろいろ
悩んで、警察物の作品を書いてみました。
笠木様がこのスタイルを気にいっていただけで、本当によかったと、喜んでおります。

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