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9双頭のドラゴン
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シルビアは魔法力をもう一段高いレベルにあげたくなった。それは、少しでも早く前の魔法王女に近づかなければならないと思ったからだ。その話をするとロダンやトムも賛成してくれた。そのためには、明らかに危険な魔獣を相手に戦わなければならない。そう考えるとドラゴンを相手にするしかない。
ギルドに行って、ドラゴンと戦いたいと受付嬢に申し出ると「えっ、まだ早いと思いますよ。無理をなさらない方がいいかもしれません」と言って強張った顔をむけてきた。
「ドラゴンを相手に戦って、自信をつけて置きたいのです」
キムトとなっているシルビアはきっぱりと言い切った。
「それならば、コドモドラゴン退治を希望されている村がありますので、そこをご紹介しますよ。ドラゴンは中級冒険者の仕事になりますので、たいへん苦労されると思います」
コドモドラゴンはドラゴンの中でも小型の部類にぞくし、口から火をふいたり、空を飛んだりすることはない。最初に相手にするには、適したドラゴンであった。それでも、受付嬢は眉毛を八の字にさげながら許可書を手渡してよこした。
「ドラゴンがでるのは、トゥル村ですね」
そう言って、シルビアは受け取った許可書に目を通していた。
山の谷間にあるトゥル村にいくには、やはり馬車でいくことはできない。道が整備されていないからだ。そもそも冒険者で魔獣退治に馬車でいく者はすくない。だがいまは、シルビアは他の冒権者と同じように馬にのることができる。当然のようにシルビアも馬にのり、トゥル村にむかったのだ。
シルビアたちはトゥル村にいくと、どこからドラゴンがでてくるのか、教えてもらうために村長の家を訪ねた。村長はシルビアたちを客間に連れていき、紅茶を出して歓迎してくれた。
「ありがとうございます。三人も冒険者の方が来てくれるとは思っておりませんでした」
「コドモドラゴンがでると聞いてきたのですが?」
「そうですよ。昔は人の前など現れなかったのですが、山で食べる物がなくなったのでしょうか。村の中にまで出てきて人を襲うようになったのです」
「これまでドラゴンに対して、どうしていたのですか?」
ロダンはあご髭をさわりながら尋ねた。
「始めは、われわれだけで山へ追い払えると思って、棒などをふって追い払っていたのですが、甘かったです。近づいた村人たちは次々とドラゴンに食べられてしまった」
「すぐに冒険者の派遣を要請されなかったのですか?」
「頼みましたよ。あなた方の前に上背のある冒険者が来てくれ、任せてくださいと言っていたのですが、倒すことができずにドラゴンに食べられてしまった。そのことはギルドに報告をしていましたので、冒険者の方はもう誰もこないと思っておりました」
そう言った村長は顔をゆがめていた。
「どうやら、われわれも、油断はできない相手のようですな」
ロダンはシルビアの方に顔をむけた。思わずシルビアはうなずいていた。
「ご注意申しあげますが、ドラゴンは一頭ではありませんよ」
「えっ、本当ですか。じゃ、何頭いるのです?」
シルビアは額に縦じわを作った。
「いつも一緒にいるわけではないが二頭ですね。頭にある角や体のうろこの違い、さらに体の色の濃淡に差があるので違いが判りますよ。もしかしたら夫婦かもしれません」
「どこにいけば会うことができますかな」と、ロダンはしわがれた声を出した。
「谷間に流れている川の付近にドラゴンがいることが多いですね。そこはシカたちが水を飲みに来ますし、魚やザリガニなどを取りにクマ、オオカミなどもやってくる。それらをドラゴンは餌として捕えることができますのでな」
その後、シルビアたちは村人の一人に案内をしてもらって、ドラゴンがよく出てくる場所まで案内をしてもらった。
「じゃ、よろしくお願いします」
村人はシルビアたちに頭をさげると逃げるように村の方に戻っていった。
シルビアたちは、ともかく待ち伏せをするしかない。
やがて、川にシカがやってきて水を飲み出したのだ。すると、木々の間から、緑色の怪物が現れた。頭に牡ジカのような角がでていて、その目は大きく血走っていた。背はうろこでおおわれ、尾がついていた。するどい爪でシカをつかみ口に持っていくと、鋭い歯で一気に頭部を食いちぎった。
シルビアは剣を構えて、剣先に火を灯すとすぐに火柱を発した。だが、シルビアの火力でも鎧のようなドラゴンの体には何の意味もなかった。他に方法を思いつかないシルビアは剣を自分の前にかかげて、火柱をドラゴンにむかって放し続けた。相手を倒せないでいるが火力で攻撃を続けるしかない。
シルビアがとまどっている様子を見たロダンは魔法袋の中に手を入れて、大きな斧を取り出した。トムもロダンに近づき魔法袋の中に手を入れて、ロダンと同じ斧を取り出した。斧は前もって食材置き場に作った階段の最上段の上に置いていた物だ。二人とも勇敢だった。斧をつかむとドラゴンにむかって走った。二人のどちらかに決められずに迷っているドラゴンに、二人は左右から斧をふりおろし続けた。その隙にシルビアはドラゴンのそばまで近づくことができた。ドラゴンの真下から開いた口の中に剣を突きあげながら、火の魔法を放ったのだ。火柱がドラゴンの口の中に飛び込んでいった。火柱は口中を貫き、後頭部から飛び出していった。次にシルビアは杖を突き出し、ドラコンにむけた。風が起きたのだ。ドラゴンは空に浮きあがり、やがて落ちてきて横倒しになっていた。
「なんとか、倒すことができましたな」と、ロダンが荒い息をはく。
「そうね。でも、もう一体、ドラゴンがいるのよ。それがやってくるに違いないわ」
三人が顔を見合わせた途端、雷が落ちたような激しい吠え声がして、木の間から、新たなドラゴンが現れた。
前のドラゴンより、一回り大きなドラゴンだった。体の緑色が濃く、大股でシルビアの方に近づいてくる。それを阻止しようとして、ロダンやトムは斧をふってドラゴンの足にむかってふりおろした。だがドラゴンは斧をけちらし、ロビンやトムをも足で蹴り飛ばしていた。シルビアは後ろに飛んでさがった。いままでシルビアは魔獣を見て逃げたことはなかった。だが、ドラゴンと真正面からぶつかり合うには危険がありすぎた。それでも、シルビアは、右手を伸ばして剣をドラゴンに向けていた。すぐに剣先に念を送り、火を灯しては、それを火柱に変えてドラゴンにぶつけたのだ。
それは、シルビアアがこれまで放った火柱で最も強いものだった。だが、ドラゴンを覆っているうろこは固く火柱を外へ反射させた。反射させられた火柱は辺りの木に火をつけ燃えさせてしまった。もう、このドラゴンに対してシルビアは剣先から火柱を出すのを止めることはできなくなっていた。それを止めるとドラゴンは間違いなくシルビアに襲いかかってくるからだ。
「いましばらくお待ちください」と言って、ロダンは魔法袋を開いた。すぐにトムは魔法袋に手を入れて弓矢を取り出した。背中に矢筒を背負い、矢筒から矢を取り出すと、弓の弦をはりドラゴンの顔にむかって矢をはなったのだ。その後も、次から次へと矢がはなち続ける。それをうるさそうにドラゴンは手でよけていた。
だが、矢の一本がドラゴンの目に飛んでいき目に突き刺さったのだ。ドラゴンは空を切り裂くような叫び声をあげた。頭を左右にふり、苦しがっている。もうシルビアを襲う気力はない。そこでシルビアは剣を矢の刺さっていない目にむけ、念をこめて火柱を飛ばしたのだ。火柱はその目を貫いていった。両目をつぶされたドラゴンは、首をふって地面に倒れていった。横たわるドラゴンを見ると、目に送り込んだ火柱は後頭部まで達して脳を焼き払っていた。
「なんとか、二匹目のドラゴンも倒すことができたようですね」
ロダンに言われて、シルビアは何度もうなずいていた。
これで終わったと思ったシルビアは草地に腰をおろし、かいた汗をロダンから渡されたタオルで汗をふいていた。
だが、ドラゴンは死んではいなかった。たしかにシルビアはドラゴンを倒したのだが、シルビアが戦って倒したドラゴンは命をもう一つ持っていたのだ。草の中に隠していた尾をあげると、そこにもう一つ頭がついていた。
吠える声を聞いて、そちらの方にシルビアが顔をむけた時には、尾についていた頭が大きな口を開けて、シルビアに襲いかかってきた。油断をしていたシルビアは剣から手をはなしていたので、このままではドラゴンに噛み殺されてしまう。
するとドラゴンに向かって矢が飛んできたのだ。ドラゴンは一歩さがって矢をよけた。矢を放ったのは一人の青年だった。青年は白馬にのり剣をかざして、シルビアの前にでてきたのだ。背に赤いマントをなびかせ、黒い服を着ていた。
シルビアはすぐにわかった。彼はピョドール皇帝の子、リカード皇子だ。シルビアには王女としての記憶もでき始めている。だから、他国の王族や貴族と交際を行ったことも覚えていたのだ。とうぜん、リカードと王女は知り合いだった。だが、リカードはここにいる冒険者キムトが女王シルビアと同じ人物だとは見えていなかった。
ドラゴンは口を広げて、リカードを襲い出した。リカードはひるむことなく、長き聖剣をふって、ドラゴンの口の中に剣を突きたてていく。すぐにリカードを追ってきた親衛隊の騎士たちがリカードと並んだ。
「王子、お手伝いをいたしますぞ」
騎士たちは、リカードに加勢を始めたのだ。彼らの手に持つ剣も聖剣だ。その剣をふって、ドラゴンの体に次々と傷をつけていく。さすがにドラコンも多数の聖剣で傷つけられると、耐え切れずに大きな叫び声をあげて倒れていった。
ドラゴンが微動だに動かないのを確かめた後、リカードはシルビアの方にやってきて馬からおりた。
「大丈夫でござったかな?」
リカードは、さわやかな笑顔をむけてくる。うなずきながらシルビアは思わず顔を赤らめていた。こんなに間近にリカードが顔を寄せてくれたことは、これまでなかったからだ。シルビアは必死に答えていた。
「私はキムト。初級冒険者をしている者です」
「初級の方ですか。それなのにドラゴンを相手にされているとは、勇敢な方だ。冒険者の活躍があって、世の中に生まれた闇を埋めることができている」
「リカードさまが、どうしたこんなところにおいでになられたのですか?」
「こちらにある領地で会議が行われましたので、シルビアさまのお顔を見たくなり、ダランガ国に表敬訪問をしにきたのですよ。残念ながらシルビアさまはおいでになられなかった。その代わりジョセフィン女王さまにお会いすることができた。それだけでも、ここに来たかいがあったというもの。ここに来たついで、この辺りにいるシカでも狩ってわが国への土産にしようと思っていたのですよ」
ふたたびシルビアは顔を赤らめていた。リカードが城に訪ねて来てくれることが分かっていたならば、城の中にいたかったからだ。
そばにいた騎士が、「いやいや、秋月祭の時には、リカードさまは、必ずここにこられるのですから、その時にシルビアさまにお会いできますぞ」と言って、リカードをなぐさめていた。ともかく、その話を聞いて、シルビアは何度もうなずいていた。シルビアはリカードに憧れをいだいて、もう一度会いたいと思っていた。その時は王女として会いたかった。
ギルドに行って、ドラゴンと戦いたいと受付嬢に申し出ると「えっ、まだ早いと思いますよ。無理をなさらない方がいいかもしれません」と言って強張った顔をむけてきた。
「ドラゴンを相手に戦って、自信をつけて置きたいのです」
キムトとなっているシルビアはきっぱりと言い切った。
「それならば、コドモドラゴン退治を希望されている村がありますので、そこをご紹介しますよ。ドラゴンは中級冒険者の仕事になりますので、たいへん苦労されると思います」
コドモドラゴンはドラゴンの中でも小型の部類にぞくし、口から火をふいたり、空を飛んだりすることはない。最初に相手にするには、適したドラゴンであった。それでも、受付嬢は眉毛を八の字にさげながら許可書を手渡してよこした。
「ドラゴンがでるのは、トゥル村ですね」
そう言って、シルビアは受け取った許可書に目を通していた。
山の谷間にあるトゥル村にいくには、やはり馬車でいくことはできない。道が整備されていないからだ。そもそも冒険者で魔獣退治に馬車でいく者はすくない。だがいまは、シルビアは他の冒権者と同じように馬にのることができる。当然のようにシルビアも馬にのり、トゥル村にむかったのだ。
シルビアたちはトゥル村にいくと、どこからドラゴンがでてくるのか、教えてもらうために村長の家を訪ねた。村長はシルビアたちを客間に連れていき、紅茶を出して歓迎してくれた。
「ありがとうございます。三人も冒険者の方が来てくれるとは思っておりませんでした」
「コドモドラゴンがでると聞いてきたのですが?」
「そうですよ。昔は人の前など現れなかったのですが、山で食べる物がなくなったのでしょうか。村の中にまで出てきて人を襲うようになったのです」
「これまでドラゴンに対して、どうしていたのですか?」
ロダンはあご髭をさわりながら尋ねた。
「始めは、われわれだけで山へ追い払えると思って、棒などをふって追い払っていたのですが、甘かったです。近づいた村人たちは次々とドラゴンに食べられてしまった」
「すぐに冒険者の派遣を要請されなかったのですか?」
「頼みましたよ。あなた方の前に上背のある冒険者が来てくれ、任せてくださいと言っていたのですが、倒すことができずにドラゴンに食べられてしまった。そのことはギルドに報告をしていましたので、冒険者の方はもう誰もこないと思っておりました」
そう言った村長は顔をゆがめていた。
「どうやら、われわれも、油断はできない相手のようですな」
ロダンはシルビアの方に顔をむけた。思わずシルビアはうなずいていた。
「ご注意申しあげますが、ドラゴンは一頭ではありませんよ」
「えっ、本当ですか。じゃ、何頭いるのです?」
シルビアは額に縦じわを作った。
「いつも一緒にいるわけではないが二頭ですね。頭にある角や体のうろこの違い、さらに体の色の濃淡に差があるので違いが判りますよ。もしかしたら夫婦かもしれません」
「どこにいけば会うことができますかな」と、ロダンはしわがれた声を出した。
「谷間に流れている川の付近にドラゴンがいることが多いですね。そこはシカたちが水を飲みに来ますし、魚やザリガニなどを取りにクマ、オオカミなどもやってくる。それらをドラゴンは餌として捕えることができますのでな」
その後、シルビアたちは村人の一人に案内をしてもらって、ドラゴンがよく出てくる場所まで案内をしてもらった。
「じゃ、よろしくお願いします」
村人はシルビアたちに頭をさげると逃げるように村の方に戻っていった。
シルビアたちは、ともかく待ち伏せをするしかない。
やがて、川にシカがやってきて水を飲み出したのだ。すると、木々の間から、緑色の怪物が現れた。頭に牡ジカのような角がでていて、その目は大きく血走っていた。背はうろこでおおわれ、尾がついていた。するどい爪でシカをつかみ口に持っていくと、鋭い歯で一気に頭部を食いちぎった。
シルビアは剣を構えて、剣先に火を灯すとすぐに火柱を発した。だが、シルビアの火力でも鎧のようなドラゴンの体には何の意味もなかった。他に方法を思いつかないシルビアは剣を自分の前にかかげて、火柱をドラゴンにむかって放し続けた。相手を倒せないでいるが火力で攻撃を続けるしかない。
シルビアがとまどっている様子を見たロダンは魔法袋の中に手を入れて、大きな斧を取り出した。トムもロダンに近づき魔法袋の中に手を入れて、ロダンと同じ斧を取り出した。斧は前もって食材置き場に作った階段の最上段の上に置いていた物だ。二人とも勇敢だった。斧をつかむとドラゴンにむかって走った。二人のどちらかに決められずに迷っているドラゴンに、二人は左右から斧をふりおろし続けた。その隙にシルビアはドラゴンのそばまで近づくことができた。ドラゴンの真下から開いた口の中に剣を突きあげながら、火の魔法を放ったのだ。火柱がドラゴンの口の中に飛び込んでいった。火柱は口中を貫き、後頭部から飛び出していった。次にシルビアは杖を突き出し、ドラコンにむけた。風が起きたのだ。ドラゴンは空に浮きあがり、やがて落ちてきて横倒しになっていた。
「なんとか、倒すことができましたな」と、ロダンが荒い息をはく。
「そうね。でも、もう一体、ドラゴンがいるのよ。それがやってくるに違いないわ」
三人が顔を見合わせた途端、雷が落ちたような激しい吠え声がして、木の間から、新たなドラゴンが現れた。
前のドラゴンより、一回り大きなドラゴンだった。体の緑色が濃く、大股でシルビアの方に近づいてくる。それを阻止しようとして、ロダンやトムは斧をふってドラゴンの足にむかってふりおろした。だがドラゴンは斧をけちらし、ロビンやトムをも足で蹴り飛ばしていた。シルビアは後ろに飛んでさがった。いままでシルビアは魔獣を見て逃げたことはなかった。だが、ドラゴンと真正面からぶつかり合うには危険がありすぎた。それでも、シルビアは、右手を伸ばして剣をドラゴンに向けていた。すぐに剣先に念を送り、火を灯しては、それを火柱に変えてドラゴンにぶつけたのだ。
それは、シルビアアがこれまで放った火柱で最も強いものだった。だが、ドラゴンを覆っているうろこは固く火柱を外へ反射させた。反射させられた火柱は辺りの木に火をつけ燃えさせてしまった。もう、このドラゴンに対してシルビアは剣先から火柱を出すのを止めることはできなくなっていた。それを止めるとドラゴンは間違いなくシルビアに襲いかかってくるからだ。
「いましばらくお待ちください」と言って、ロダンは魔法袋を開いた。すぐにトムは魔法袋に手を入れて弓矢を取り出した。背中に矢筒を背負い、矢筒から矢を取り出すと、弓の弦をはりドラゴンの顔にむかって矢をはなったのだ。その後も、次から次へと矢がはなち続ける。それをうるさそうにドラゴンは手でよけていた。
だが、矢の一本がドラゴンの目に飛んでいき目に突き刺さったのだ。ドラゴンは空を切り裂くような叫び声をあげた。頭を左右にふり、苦しがっている。もうシルビアを襲う気力はない。そこでシルビアは剣を矢の刺さっていない目にむけ、念をこめて火柱を飛ばしたのだ。火柱はその目を貫いていった。両目をつぶされたドラゴンは、首をふって地面に倒れていった。横たわるドラゴンを見ると、目に送り込んだ火柱は後頭部まで達して脳を焼き払っていた。
「なんとか、二匹目のドラゴンも倒すことができたようですね」
ロダンに言われて、シルビアは何度もうなずいていた。
これで終わったと思ったシルビアは草地に腰をおろし、かいた汗をロダンから渡されたタオルで汗をふいていた。
だが、ドラゴンは死んではいなかった。たしかにシルビアはドラゴンを倒したのだが、シルビアが戦って倒したドラゴンは命をもう一つ持っていたのだ。草の中に隠していた尾をあげると、そこにもう一つ頭がついていた。
吠える声を聞いて、そちらの方にシルビアが顔をむけた時には、尾についていた頭が大きな口を開けて、シルビアに襲いかかってきた。油断をしていたシルビアは剣から手をはなしていたので、このままではドラゴンに噛み殺されてしまう。
するとドラゴンに向かって矢が飛んできたのだ。ドラゴンは一歩さがって矢をよけた。矢を放ったのは一人の青年だった。青年は白馬にのり剣をかざして、シルビアの前にでてきたのだ。背に赤いマントをなびかせ、黒い服を着ていた。
シルビアはすぐにわかった。彼はピョドール皇帝の子、リカード皇子だ。シルビアには王女としての記憶もでき始めている。だから、他国の王族や貴族と交際を行ったことも覚えていたのだ。とうぜん、リカードと王女は知り合いだった。だが、リカードはここにいる冒険者キムトが女王シルビアと同じ人物だとは見えていなかった。
ドラゴンは口を広げて、リカードを襲い出した。リカードはひるむことなく、長き聖剣をふって、ドラゴンの口の中に剣を突きたてていく。すぐにリカードを追ってきた親衛隊の騎士たちがリカードと並んだ。
「王子、お手伝いをいたしますぞ」
騎士たちは、リカードに加勢を始めたのだ。彼らの手に持つ剣も聖剣だ。その剣をふって、ドラゴンの体に次々と傷をつけていく。さすがにドラコンも多数の聖剣で傷つけられると、耐え切れずに大きな叫び声をあげて倒れていった。
ドラゴンが微動だに動かないのを確かめた後、リカードはシルビアの方にやってきて馬からおりた。
「大丈夫でござったかな?」
リカードは、さわやかな笑顔をむけてくる。うなずきながらシルビアは思わず顔を赤らめていた。こんなに間近にリカードが顔を寄せてくれたことは、これまでなかったからだ。シルビアは必死に答えていた。
「私はキムト。初級冒険者をしている者です」
「初級の方ですか。それなのにドラゴンを相手にされているとは、勇敢な方だ。冒険者の活躍があって、世の中に生まれた闇を埋めることができている」
「リカードさまが、どうしたこんなところにおいでになられたのですか?」
「こちらにある領地で会議が行われましたので、シルビアさまのお顔を見たくなり、ダランガ国に表敬訪問をしにきたのですよ。残念ながらシルビアさまはおいでになられなかった。その代わりジョセフィン女王さまにお会いすることができた。それだけでも、ここに来たかいがあったというもの。ここに来たついで、この辺りにいるシカでも狩ってわが国への土産にしようと思っていたのですよ」
ふたたびシルビアは顔を赤らめていた。リカードが城に訪ねて来てくれることが分かっていたならば、城の中にいたかったからだ。
そばにいた騎士が、「いやいや、秋月祭の時には、リカードさまは、必ずここにこられるのですから、その時にシルビアさまにお会いできますぞ」と言って、リカードをなぐさめていた。ともかく、その話を聞いて、シルビアは何度もうなずいていた。シルビアはリカードに憧れをいだいて、もう一度会いたいと思っていた。その時は王女として会いたかった。
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