魔法王女に転生した私は必ず勝ちますわ!

矢野 零時

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8ネバリ虫退治

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 目標が決まると、シルビアはすぐにロダンに魔法力をあげるための作戦を相談した。ロダンはシルビアにいつも魔法力表示カードを持ち歩くように言った。
「いつも自分の状況を見て考えることが大事。ともかく、すべての攻撃魔法を4レベルにすることは無理かと思いますぞ。まずは秋月祭を成功させることを考えて、魔法力のレベルをあげていくことだと思いますな」
 そう言われたので、シルビアはまず魔法力表示カードをハンドバッグに入れて持ち歩くことにした。
 そして、すぐにバッグより魔法力表示カードを出して、自分の魔法値を見た。

   生命力     600ポイント
   魔法エネルギー 1925ポイント
   使える魔法  攻撃魔法
           火力  レベル3 
           水力  レベル1  
           風力  レベル1  
           雷力  レベル1  
          防御魔法
           遮断  レベル100

 シルビアはこぼれてくる笑顔をとめることができなかった。それは魔法エネルギーのレベルがあがっていて、もう一回魔獣を退治さえすれば、2000ポイント以上を確保できるようになっていたからだ。2000ポイントを越えさえすれば、ふつうの魔法を使うだけでは、魔法エネルギーが減ることがなくなる。もちろん、強力な魔法をかける場合には、魔法ポイントは減るが、それは特別な場合であることをロダンから教えてもらっていた。
 シルビアが魔法力表示カードを見ていると、横からロダンが覗き込んできて声をあげた。
「王女さま、火力の魔法を呼び出す剣の使い方はレベルがあがったと思いますが、風力の魔法はまだレベルがあがってはおりません。杖を使う風力もレベルをあげて置かなければ、夜空に花火をあげることはできませんぞ。それができるようにするには重たい物を風力でふき飛ばさなければならない」
「じゃ、今度ウサギに遭遇した時に、杖を使ってウサギを飛ばすことをすればいいのね? でも、いまはウサギと対戦することが難しくなっているわよ」
「それもいち案でございますが、ウサギでは軽すぎて風力アップになりません。飛んでいった先では、ウサギの遺体はゴミとなってしまいますので、それを集めてかたづけなければならない。よけいな手間がかかります。やはり今度はネバリ虫退治を引き受けて、それを退治することがいいと思いますぞ」
「ネバリ虫ですか?」
 そこでロダンはネバリ虫について話し出した。
 ネバリ虫は人と変わらない大きさで、樹木にはりついて樹液を吸う魔獣だった。放っておくと木を枯らしてしまう。ねばつく体をしていて木からはがそうとすると体を固くして岩のようになってしまうのだ。人がやってくると人の体に向かって管のついた針を飛ばし、それを人の体に刺して血を吸ってしまう。吸血魔獣でもあるのだ。

 その日、朝食をすますとシルビアたちはギルドの受付にいった。すぐに受付嬢が笑顔ででてきた。シルビアたちが、立て続けに魔獣退治をしているので、好感をもたれているのだ。
「今度は、ネバリ虫を退治したいと思っています」
 いまでは、シルビアはキムトとして受付嬢と交渉ができるようになっていた。
「ネバリ虫ですね。退治要望はありますよ。ワイン醸造業をされている方です。お持ちのブドウ園にネバリ虫が入りこみ、ブドウを取る人たちが殺されてしまったそうです。このままでは、ブドウ園を続けることができない。だから、ネバリ虫を早急に退治して欲しいとのことです」
 危機感のある伝言を聞いてシルビアは唇をかみしめていた。許可書を受け取り、それにかいてある地図を見つめた。
「ブドウ園があるのは東にある三つこぶ丘の上ですな」
 隣からのぞき込んでいたロダンが声をあげた。
 そこへ行くのは、山地のために荷馬車ではいけない。歩くか馬にのるしかないとロダンが話をしてくれた。前王女の日記を見て、戦いには馬で移動することが必要だと書かれていた。そのことを思い出したシルビアは「馬でいきましょう」と言うと二人は驚いていた。
 次の日から、シルビアは馬にのっている兵士に来てもらい、必死に乗馬の練習を行った。気性のおとなしい馬にのせてもらったのだが、何回も馬から落ちていた。だが、それでも一週間もすると、シルビアは馬にのって馬を歩かせることができるようになっていた。
 三人は馬にのり、こぶが三つ並んでいるように見える丘にむかった。
 丘の端にワイン醸造所と数軒の家が見えてきた。シルビアたちは、具体的な話を訊くために醸造所にいってみた。そこに醸造所の所長ボウルがいて三人を自家に連れていった。小広間に三人は案内をされ、テーブルをはさんでボウルの前にすわらせられた。
「前はブドウ園で働いてくれる者たちとともに、ここでにぎやかな昼を取ることができたのですが、今はシャンパンやブランデーを製造する者たちだけになってしまいました」
 ボウルが片手をあげると、奥の部屋から二人の男がでてきた。一人はスライスした硬いパンにチーズをのせた皿を、もう一人はブランデーを入れたワイングラスを平盆にのせて持ってきて、それらをシルビアたちの前に置いていた。置き終わると、ボウルの両隣に並んですわった。
「こんな物しかお出しできませんがご賞味ください」
「有難うございます。ブドウ園で働いていた方々は、やはりネバリ虫に殺されたのでしょうか?」と、シルビアは食事をとりながら率直に聞いた。
「その通りですよ。遺体はブドウ園のわきに作った墓に埋葬をしております」
 ボウルが泣き出すと、それにつられて隣の男たちも泣いていた。
「それでは、ネバリ虫を退治する前にお参りをさせていただきたいと思いますが」
 シルビアがそう言ったので、ボウルは椅子からたちあがった。その後、その場にいたみんなをひきつれてボウルは墓地に連れていった。
「私の妻や子供らもここに埋葬をしております」
 ボウルはふたたび目に涙をためていた。シルビアたちは、並んでいる墓石に手を合わせてからブドウ園にむかった。
 ブドウの木はそれほど背の高い木ではない。そんな木にネバリ虫がはりついている。
 シルビアたちがブドウ園の中に入り込んでいくと、まるでホースのような管が伸びてきた。その先端には大きな注射針のようなものがついている。
 シルビアはすでに左手に杖を右手に剣を握っていた。
 左手の杖に念を入れて風を起こし近寄ってきた針先を弾き飛ばした。だが、ムチのようにしなってふたたびシルビアを襲ってくる。そこで剣を水平にして、その先端に火を起こすと火は柱となって伸びてきた針を焼いていた。さらに剣をネバリ虫の体の方にむけて火柱を走らせた。ネバリ虫の体は赤銅色に変わったが、すぐに固くなってしまう。つまり火柱を耐えてしまうのだ。
「シルビアさま、木と接している柔らかな腹を狙って火をあてねば、倒すことはできませんぞ。そのためには、もっと強い風の力で吹き飛ばさなければなりません」
 シルビアはロダンにむかって大きくうなずき、杖をネバリ虫に向けて風を起こした。だが、ネバリ虫を木から離れさせることができない。木をつかんでいる手足や木と接している腹から粘液がでているのだ。
「くそ」
 思わず、シルビアは声をあげた。シルビアはもう一度杖をふって、その先に強い念をこめた。すると、杖の先から今まで考えられないほど強い風が起きた。ブドウの葉が揺らぎ枝も曲がり出していた。だが、ネバリ虫は木にはりついたままだ。このままではまずいと思ったトムは、ロダンの魔法袋に入り込み、城の武器庫に走っていき、そこから長い槍を二本持ち出してきた。もちろんトムが魔法袋から出てくるまでの間、ロダンは魔法袋を開けたままにしていたのだ。魔法袋からでてきたトムはすぐに槍の一本をロダンに渡し、もう一本は自分持ってかまえた。二人して、左右からネバリ虫と木の間に槍を差し込んだ。そのおかげでネバリ虫は木から少し浮きあがった。そこにシルビアは風を送り込んだ。ついにネバリ虫は木からはずれ空に浮き、柔らかな腹を見せた。シルビアはその時を逃さなかった。剣をそこに向けて突き出すと同時に、火をうむための念をかけた。すると、火柱が走りネバリ虫の腹を切り裂いていた。
「これで、倒し方は解ったわ」
 シルビアがそう言うと、手に長い槍をもった二人はうなずいていた。すぐにその隣にあるブドウの木に貼りついているネバリ虫を三人がかりで木からはがし、火柱で両断を行った。後は、同じことを繰り返せばいいだけだ。だが、数が多い。ブドウ園の木のほとんどにネバリ虫がはりついていたからだ。

 西の空がかすかに赤くなり出した。
 その頃には、すべてのネバリ虫を倒したシルビアはさすがに荒い息をついていた。
「お疲れになりましたな」と言ったロダンも荒い息をしている。ロダンがトムと目配せをすると、トムは魔法袋に入り込んでいき、しばらくして錠剤三粒と水の入ったグラス三つを平盆にのせてでてきた。
「シルビアさま、その一錠を水でお飲みください」
「トム、これはポーション?」
 トムの代わりに「そのとおりでございます。生命力をあげる薬ですが、当然疲労もなくしてしまう。攻撃魔法では体の疲労をとることができませんのでな。それに敵となるものがいつ現れるか、わからない。油断をすることはできませんぞ」と、ロダンは答えていた。
「そうね。前にも飲んでいたわね」
 シルビアは錠剤を口にふくむと、グラスをあげて一気に飲んだ。その後、二人もポーションを飲んでいた。
 木々の下にネバリ虫の遺体がいくつも横たわっていた。
「ロダン、これらの遺体は城に運ばなければならないの?」
「ネバリ虫の針はトムがいま集めていますよ。それをギルドに持っていかないと、魔獣退治の実績を記録してもらえませんのでな。残念ながら、ネバリ虫の遺体はどの部分も売り物にならない。それゆえに他の冒険者はネバリ虫を退治したがらないのですよ」
「じゃ、どうするのよ?」
「そうですな。集めて焼き払うしかない。焼いて灰にすれば、肥料としてブドウ園の役に立つと思いますが」
 そんな話をしている時に、醸造所長のボウルが笑顔でやってきた。
「有難うございます。これで妻と子、それに仲間たちの敵を討つことができました。その上、ブドウ園から完全にネバリ虫を退治していただきましたので、ブドウ園も元のように再開できます」
「ネバリ虫の遺体は、明日にでも来て焼かせてもらうつもりです。遺体処理も冒険者の仕事ですので」
「いや、後は私たちに任せてください。お礼にこれを持って行ってください」
 そう言って、ボウルはシャンパンの一瓶をシルビアにくれた。それを手にしたシルビアはロダンの魔法袋に入り込み、一足先に城に戻った。さすがに、帰りは馬にのるきになれなかったからだ。
 夕食前には、ロダンとトムはシルビアがのっていた馬を引き連れて城に戻ってきた。
 その晩、シルビアはロダンやトムと一緒に夕食をとった。食前酒としてシャンパンが出され、シルビアは乾杯を行った。シルビアの魔法エネルギーが、2000ポイントを超えることができたからだ。これからは、シルビアがふつうの魔法を使うだけでは、魔法エネルギーが減ることはなくなっていた。


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