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2通常勤務
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三月町の個人住宅に空き巣が入った。入られた家は庭がある三階建てだ。誰が見ても、金がありそうな家だった。家族で海外旅行に行ったのはいいが、時期が悪かった。五月の連休では、家に人がいないことがすぐに分かってしまう。現場を見た後、俺は住宅街から大杉通りに出て防犯カメラを仕掛けている場所を探して歩いた。カメラの映像を借りて、それに映っている者を調べようと思ったからだ。その中に犯人がいる可能性がある。
「片倉、足に豆ができて痛いから先に行ってくれ」と、相棒の相内はそう言って俺よりも五メートル後ろを歩き出した。
だが、それも無理はない。俺は谷口組に目の敵にされ何度も刃物や銃で襲われていたからだ。年上の利口さで、外に出た時は俺に近づかない方がいいと思っているのだ。後二年もすれば相内は定年を迎える。問題のない時間を過ごし、退職金を受け取りたいのだろう。
それに、俺はいつもリュックを背負っている。そんな刑事は、人からおかしく思われても仕方がない。前に同じ盗犯捜査係の者たちに中に何が入っているのか見せて欲しいと言われ、見せたことがあった。中に十キロのチャーシューが入っていた。それを見た彼らは、見てはならない物を見たような顔をしていた。だが、俺が普段から大食いであることを知ると納得をした気になってくれた。だが、俺に寄生している物が予備の食料として俺に持たせているのだと思う者はいなかった。
大杉通りの交差点で信号が変わり青になった。肩からバッグをさげた若い女が歩き出した。背後からエンジン音が聞こえた。スピードをつけるために、アクセルをふかした音だ。すぐにスクーターが現れ二人の男がのっていた。後ろのシートにすわっていた男は手を伸ばし、肩にかかっていた女のバッグの紐をつかんだ。バッグの紐を引かれた女は、バッグを奪われボウリングのピンのように倒れていった。俺はすばやく走り出し、空にゆれていたバッグの紐をつかんだ。
今度はスクーターがバランスをくずし倒れていった。それでもバッグの紐を掴んだ男は手を離さない。俺は網で魚を取るようにすばやく男を引っぱり寄せた。
「ひったくりの現行犯だぜ」
俺は相手の腕をねじあげ両手にワッパ(手錠)をかけた。ヘルメットをとると若い男だった。二十歳になっていない顔だ。
そんな時に耳をつんざくような音が聞こえた。車が急ブレーキをかけた音だった。俺は顔をあげた。スクーターが対抗車の下に吸い込まれていくのを見えた。俺と同じに顔をあげた若い男は叫び声をあげていた。
「兄き~」
まるで悲鳴だ。男は手錠をかけられたままで車へ向かって走った。俺は逃がさないように男の後を追い、車の前で止まった男の側で車の下をのぞいた。タイヤの下に胴体がはまり込んでいる。
「ともかく救急車を呼ぶしかないな」
俺は携帯を出して、救急車を呼んだ。ついでに警察本部指令センターに電話をして応援を頼んだ。それが終わると、若い男の方に顔を向けた。
「だめかもしれんが、緊急病院に運んでやるよ」
「緊急病院じゃだめだ。成宮先生のところに運ばなきゃ」
「成宮先生って、どこの病院のことだ? だが、死にかかっている者を緊急病院以外で受けいれてくれるかな?」
「カモメ診療所は別だよ」と、若い男は声を大きくした。
俺が若い男と話をしている間に、相内がバッグを盗られた女の肩を抱くようにして現れた。
「片倉、カモメを知らないのか?」と、相内が言った。
「知らないな」
俺は物知りじゃない。掠れた声を出していた。
「カモメ診療所と言っているが、病院じゃない。病院は隠れみのだ。山城組の二代目組長だった雨野辰夫の保養所だよ。昔は抗争にあけくれていたが、年を取って命が惜しくなったらしい。三代目に組長を譲った後、長生きすることだけに専念をしている。その雨野の世話をし続けているのが成宮なんだ」
「雨野が傍におきたくなるくらいの医者ならば、腕はいいということだな」
俺は、若い男の方に改めて顔を向けた。男は頷いている。
「あんた、名前はなんていうんだ?」
「浩。石田浩だよ」
「石田。こいつは誰だ?」と、俺は車の下にいる男を指さした。
「山田雄介。俺の兄貴だよ」
「兄貴か。お前の兄貴をカモメに俺が運んでやる。それでいいだろう」
「だめだ。兄貴が間違いなく、成宮先生が診てくれるのを確かめてからでないと察になんか行けねよ」
「わかった。成宮先生が診察をしてくれるように頼んでやる」
俺も死んだ親父と同じ甘い警察官になってしまったようだ。人の願いを聞いて普通ならやらないことまでも約束をしていた。
やがて救急車がきた。
だが、口をとがらした石田はまだ不満げで、今にも暴れ出してしまいそうだった。
「俺を信じられないのか」と、俺は石田を怒鳴りつけた。石田は俺の剣幕に思わず顔をさげていた。救急車の後にきたパトカーもとまりだし、車から警官たちが降りてきている。相内に、石田を押し付けた。
「頼むよ」
相内は俺に向かって軽く頷き、石田を押えていた。その間に被害者の女はバッグを手にした警官に促されパトカーにのせられていた。彼女からひったくりの状況を聞く必要があるからだ。
救急車からおりてきた救急隊員たちは、なれた手順でストレッチャーに山田をのせると、そのまま救急車の後部ドアを開けて車の中にのせていた。俺は山田のつきそいのように救急車に乗り込んだ。
救急車はサイレンを鳴らし、走り出した。
「行き先はカモメ診療所に運んでくれ」
「本当にそこでいいんだね?」と、救急隊員は肩眉をあげて聞いてきた。
「そうだよ。カモメ診療所だ」
「片倉、足に豆ができて痛いから先に行ってくれ」と、相棒の相内はそう言って俺よりも五メートル後ろを歩き出した。
だが、それも無理はない。俺は谷口組に目の敵にされ何度も刃物や銃で襲われていたからだ。年上の利口さで、外に出た時は俺に近づかない方がいいと思っているのだ。後二年もすれば相内は定年を迎える。問題のない時間を過ごし、退職金を受け取りたいのだろう。
それに、俺はいつもリュックを背負っている。そんな刑事は、人からおかしく思われても仕方がない。前に同じ盗犯捜査係の者たちに中に何が入っているのか見せて欲しいと言われ、見せたことがあった。中に十キロのチャーシューが入っていた。それを見た彼らは、見てはならない物を見たような顔をしていた。だが、俺が普段から大食いであることを知ると納得をした気になってくれた。だが、俺に寄生している物が予備の食料として俺に持たせているのだと思う者はいなかった。
大杉通りの交差点で信号が変わり青になった。肩からバッグをさげた若い女が歩き出した。背後からエンジン音が聞こえた。スピードをつけるために、アクセルをふかした音だ。すぐにスクーターが現れ二人の男がのっていた。後ろのシートにすわっていた男は手を伸ばし、肩にかかっていた女のバッグの紐をつかんだ。バッグの紐を引かれた女は、バッグを奪われボウリングのピンのように倒れていった。俺はすばやく走り出し、空にゆれていたバッグの紐をつかんだ。
今度はスクーターがバランスをくずし倒れていった。それでもバッグの紐を掴んだ男は手を離さない。俺は網で魚を取るようにすばやく男を引っぱり寄せた。
「ひったくりの現行犯だぜ」
俺は相手の腕をねじあげ両手にワッパ(手錠)をかけた。ヘルメットをとると若い男だった。二十歳になっていない顔だ。
そんな時に耳をつんざくような音が聞こえた。車が急ブレーキをかけた音だった。俺は顔をあげた。スクーターが対抗車の下に吸い込まれていくのを見えた。俺と同じに顔をあげた若い男は叫び声をあげていた。
「兄き~」
まるで悲鳴だ。男は手錠をかけられたままで車へ向かって走った。俺は逃がさないように男の後を追い、車の前で止まった男の側で車の下をのぞいた。タイヤの下に胴体がはまり込んでいる。
「ともかく救急車を呼ぶしかないな」
俺は携帯を出して、救急車を呼んだ。ついでに警察本部指令センターに電話をして応援を頼んだ。それが終わると、若い男の方に顔を向けた。
「だめかもしれんが、緊急病院に運んでやるよ」
「緊急病院じゃだめだ。成宮先生のところに運ばなきゃ」
「成宮先生って、どこの病院のことだ? だが、死にかかっている者を緊急病院以外で受けいれてくれるかな?」
「カモメ診療所は別だよ」と、若い男は声を大きくした。
俺が若い男と話をしている間に、相内がバッグを盗られた女の肩を抱くようにして現れた。
「片倉、カモメを知らないのか?」と、相内が言った。
「知らないな」
俺は物知りじゃない。掠れた声を出していた。
「カモメ診療所と言っているが、病院じゃない。病院は隠れみのだ。山城組の二代目組長だった雨野辰夫の保養所だよ。昔は抗争にあけくれていたが、年を取って命が惜しくなったらしい。三代目に組長を譲った後、長生きすることだけに専念をしている。その雨野の世話をし続けているのが成宮なんだ」
「雨野が傍におきたくなるくらいの医者ならば、腕はいいということだな」
俺は、若い男の方に改めて顔を向けた。男は頷いている。
「あんた、名前はなんていうんだ?」
「浩。石田浩だよ」
「石田。こいつは誰だ?」と、俺は車の下にいる男を指さした。
「山田雄介。俺の兄貴だよ」
「兄貴か。お前の兄貴をカモメに俺が運んでやる。それでいいだろう」
「だめだ。兄貴が間違いなく、成宮先生が診てくれるのを確かめてからでないと察になんか行けねよ」
「わかった。成宮先生が診察をしてくれるように頼んでやる」
俺も死んだ親父と同じ甘い警察官になってしまったようだ。人の願いを聞いて普通ならやらないことまでも約束をしていた。
やがて救急車がきた。
だが、口をとがらした石田はまだ不満げで、今にも暴れ出してしまいそうだった。
「俺を信じられないのか」と、俺は石田を怒鳴りつけた。石田は俺の剣幕に思わず顔をさげていた。救急車の後にきたパトカーもとまりだし、車から警官たちが降りてきている。相内に、石田を押し付けた。
「頼むよ」
相内は俺に向かって軽く頷き、石田を押えていた。その間に被害者の女はバッグを手にした警官に促されパトカーにのせられていた。彼女からひったくりの状況を聞く必要があるからだ。
救急車からおりてきた救急隊員たちは、なれた手順でストレッチャーに山田をのせると、そのまま救急車の後部ドアを開けて車の中にのせていた。俺は山田のつきそいのように救急車に乗り込んだ。
救急車はサイレンを鳴らし、走り出した。
「行き先はカモメ診療所に運んでくれ」
「本当にそこでいいんだね?」と、救急隊員は肩眉をあげて聞いてきた。
「そうだよ。カモメ診療所だ」
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