刑事殺し・トラブル・ 抗争の渦

矢野 零時

文字の大きさ
4 / 9

4勃発

しおりを挟む
 署長室から戻ってきた刑事課長の高坂浩介は、室内に残っている者たち全員を、課長席の机の前に集めた。彼は死んだ渡辺の後にきた男だった。
「いよいよ、大友署も山城組の抗争に巻き込まれたようだ」と、立っている課員たちに向かって、高坂課長は声を高めた。
 日本の暴力団を支配している山城組に抗争が勃発したことは、俺もテレビや週刊誌を見て知っていた。だが、関係があるのは暴対課(暴力団対策課)のはずだ。俺は、これ以上ヤクザと関わりたくない。
 だが、高坂課長は、まるで講話をはなす講師のように、ヤクザの現況を話し出した。それをサマライズ(要約)すると次のようになる。

 山城組の三代目組長の田岡博司が半年前に脳卒中で死んだ。その長男にあたる田岡新次郎を山城一門会は後をつがせようとした。だが、薬や金取引まで手を出して実権を握っている十連会は改めてヤクザの親分衆の投票で決めようと言い出した。十連会はその代表である竹内昇の支配下にある。投票を選べば、竹内昇が山城組の新しい組長になってしまう。それは山城一門会の望まない姿だ。すぐに両雄は組織をあげてお互いを狙いあう抗争を始めてしまっていた。

 そこまで言って,高坂課長はグルリと課員たちを見まわした。
「そこで山城一門会はこの場を切り抜ける秘策を思いついた。まだ生きている前山城組長の雨野辰夫に組長に戻ってもらい、田岡新次郎を補佐役にするということを考え出したのだ。それは、雨野に全国の親分連中を黙らせる力をまだ持っているからだ。だが、それを十連会がほっておくわけがない。雨野を殺す鉄砲玉を送り込む話が聞こえてきている。昨日、署長は本庁(警視庁本部)に呼ばれ、カモメ診療所にいる雨野の警護をするように指示が出された。署長としては、署全体で、この事案に対処したいそうだ。もちろん、暴対課は全員がカモメ診療所に張り付くことになっている。まるで昔の機動隊になったようなものだが。応援も必要だ。そこで、うちからも数名の人を出して欲しいということだった。誰か、志願をしてくれる者はいないかね?」
「それは我々の仕事ではないと思うんですが」と、盗犯係長の岡田が不満げな声をあげた。
「署長としては、署全員で対処しているところを見せたいんだ」
 署長が言っているわけがない。高坂課長が点数かせぎをしたいだけだろう。と、俺は胸の中でつぶやいていた。
「もちろん、我々も安全を考えなければならない。防弾チョッキの着用及び拳銃の所持は許可してもらうつもりでいる。どうかね?」
 そう言って、高阪課長は、課員たちをぐるりと見回した。誰も志願する者などいるわけがない。
「誰も出さないとは言えない。そう、最低一人は出さなければならないぞ。じゃ、こちらから、指名をさせてもらってもいいかな」
 そう言った高坂課長は、俺と相内の方に顔を向けた。どちらかにしようと思っているようだった。
「はい」と言って、手をあげた者がいた。相棒の相内だ。このままではまずいと思ったのだろう。
「推薦をさせてもらってもいいですか?」
「それは、かまわないが、誰かね?」
「やっぱり岡田係長がいいと思いますよ。刑事課を代表するなら、それなりの人物でなければならないはずです」
「ほう、いいかね?」
 高坂課長は岡田の方に顔を向けた。
「相内さん、何を言っているんです。連続窃盗事件も続いている。盗犯捜査係として、いまは手をぬけない。相内さんこそ、定年前の思い出に暴対課の仕事もしてみるのはどうですか?」
「そうだな。じゃ、相内くんにやってもらうか?」
 相内は墓穴をほったようだった。
「それなら、片倉がいい。谷口組の者に対して威圧することができている」と、相内は抵抗を試みた。
「そうだな。一人だけで仕事をさせるわけにもいかんから。相内と片倉の二人でということでどうだ」
 自分に関わらなかったことで、反対をする者などいない。俺と相内以外の者たちは頷き、カモメ診療所の警護参加者は決まってしまった。

「じゃ、事前打ち合わせ会議を午後六時から三階の中会議室で行われることになっている。相内、片倉、参加してくれ」
「あい」と俺は低い声を出し、相内は額に三本のしわを作っていた。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

婚約破棄の代償

nanahi
恋愛
「あの子を放って置けないんだ。ごめん。婚約はなかったことにしてほしい」 ある日突然、侯爵令嬢エバンジェリンは婚約者アダムスに一方的に婚約破棄される。破局に追い込んだのは婚約者の幼馴染メアリという平民の儚げな娘だった。 エバンジェリンを差し置いてアダムスとメアリはひと時の幸せに酔うが、婚約破棄の代償は想像以上に大きかった。

二年間の花嫁

柴田はつみ
恋愛
名門公爵家との政略結婚――それは、彼にとっても、私にとっても期間限定の約束だった。 公爵アランにはすでに将来を誓い合った女性がいる。私はただ、その日までの“仮の妻”でしかない。 二年後、契約が終われば彼の元を去らなければならないと分かっていた。 それでも構わなかった。 たとえ短い時間でも、ずっと想い続けてきた彼のそばにいられるなら――。 けれど、私の知らないところで、アランは密かに策略を巡らせていた。 この結婚は、ただの義務でも慈悲でもない。 彼にとっても、私を手放すつもりなど初めからなかったのだ。 やがて二人の距離は少しずつ近づき、契約という鎖が、甘く熱い絆へと変わっていく。 期限が迫る中、真実の愛がすべてを覆す。 ――これは、嘘から始まった恋が、永遠へと変わる物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...