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4勃発
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署長室から戻ってきた刑事課長の高坂浩介は、室内に残っている者たち全員を、課長席の机の前に集めた。彼は死んだ渡辺の後にきた男だった。
「いよいよ、大友署も山城組の抗争に巻き込まれたようだ」と、立っている課員たちに向かって、高坂課長は声を高めた。
日本の暴力団を支配している山城組に抗争が勃発したことは、俺もテレビや週刊誌を見て知っていた。だが、関係があるのは暴対課(暴力団対策課)のはずだ。俺は、これ以上ヤクザと関わりたくない。
だが、高坂課長は、まるで講話をはなす講師のように、ヤクザの現況を話し出した。それをサマライズ(要約)すると次のようになる。
山城組の三代目組長の田岡博司が半年前に脳卒中で死んだ。その長男にあたる田岡新次郎を山城一門会は後をつがせようとした。だが、薬や金取引まで手を出して実権を握っている十連会は改めてヤクザの親分衆の投票で決めようと言い出した。十連会はその代表である竹内昇の支配下にある。投票を選べば、竹内昇が山城組の新しい組長になってしまう。それは山城一門会の望まない姿だ。すぐに両雄は組織をあげてお互いを狙いあう抗争を始めてしまっていた。
そこまで言って,高坂課長はグルリと課員たちを見まわした。
「そこで山城一門会はこの場を切り抜ける秘策を思いついた。まだ生きている前山城組長の雨野辰夫に組長に戻ってもらい、田岡新次郎を補佐役にするということを考え出したのだ。それは、雨野に全国の親分連中を黙らせる力をまだ持っているからだ。だが、それを十連会がほっておくわけがない。雨野を殺す鉄砲玉を送り込む話が聞こえてきている。昨日、署長は本庁(警視庁本部)に呼ばれ、カモメ診療所にいる雨野の警護をするように指示が出された。署長としては、署全体で、この事案に対処したいそうだ。もちろん、暴対課は全員がカモメ診療所に張り付くことになっている。まるで昔の機動隊になったようなものだが。応援も必要だ。そこで、うちからも数名の人を出して欲しいということだった。誰か、志願をしてくれる者はいないかね?」
「それは我々の仕事ではないと思うんですが」と、盗犯係長の岡田が不満げな声をあげた。
「署長としては、署全員で対処しているところを見せたいんだ」
署長が言っているわけがない。高坂課長が点数かせぎをしたいだけだろう。と、俺は胸の中でつぶやいていた。
「もちろん、我々も安全を考えなければならない。防弾チョッキの着用及び拳銃の所持は許可してもらうつもりでいる。どうかね?」
そう言って、高阪課長は、課員たちをぐるりと見回した。誰も志願する者などいるわけがない。
「誰も出さないとは言えない。そう、最低一人は出さなければならないぞ。じゃ、こちらから、指名をさせてもらってもいいかな」
そう言った高坂課長は、俺と相内の方に顔を向けた。どちらかにしようと思っているようだった。
「はい」と言って、手をあげた者がいた。相棒の相内だ。このままではまずいと思ったのだろう。
「推薦をさせてもらってもいいですか?」
「それは、かまわないが、誰かね?」
「やっぱり岡田係長がいいと思いますよ。刑事課を代表するなら、それなりの人物でなければならないはずです」
「ほう、いいかね?」
高坂課長は岡田の方に顔を向けた。
「相内さん、何を言っているんです。連続窃盗事件も続いている。盗犯捜査係として、いまは手をぬけない。相内さんこそ、定年前の思い出に暴対課の仕事もしてみるのはどうですか?」
「そうだな。じゃ、相内くんにやってもらうか?」
相内は墓穴をほったようだった。
「それなら、片倉がいい。谷口組の者に対して威圧することができている」と、相内は抵抗を試みた。
「そうだな。一人だけで仕事をさせるわけにもいかんから。相内と片倉の二人でということでどうだ」
自分に関わらなかったことで、反対をする者などいない。俺と相内以外の者たちは頷き、カモメ診療所の警護参加者は決まってしまった。
「じゃ、事前打ち合わせ会議を午後六時から三階の中会議室で行われることになっている。相内、片倉、参加してくれ」
「あい」と俺は低い声を出し、相内は額に三本のしわを作っていた。
「いよいよ、大友署も山城組の抗争に巻き込まれたようだ」と、立っている課員たちに向かって、高坂課長は声を高めた。
日本の暴力団を支配している山城組に抗争が勃発したことは、俺もテレビや週刊誌を見て知っていた。だが、関係があるのは暴対課(暴力団対策課)のはずだ。俺は、これ以上ヤクザと関わりたくない。
だが、高坂課長は、まるで講話をはなす講師のように、ヤクザの現況を話し出した。それをサマライズ(要約)すると次のようになる。
山城組の三代目組長の田岡博司が半年前に脳卒中で死んだ。その長男にあたる田岡新次郎を山城一門会は後をつがせようとした。だが、薬や金取引まで手を出して実権を握っている十連会は改めてヤクザの親分衆の投票で決めようと言い出した。十連会はその代表である竹内昇の支配下にある。投票を選べば、竹内昇が山城組の新しい組長になってしまう。それは山城一門会の望まない姿だ。すぐに両雄は組織をあげてお互いを狙いあう抗争を始めてしまっていた。
そこまで言って,高坂課長はグルリと課員たちを見まわした。
「そこで山城一門会はこの場を切り抜ける秘策を思いついた。まだ生きている前山城組長の雨野辰夫に組長に戻ってもらい、田岡新次郎を補佐役にするということを考え出したのだ。それは、雨野に全国の親分連中を黙らせる力をまだ持っているからだ。だが、それを十連会がほっておくわけがない。雨野を殺す鉄砲玉を送り込む話が聞こえてきている。昨日、署長は本庁(警視庁本部)に呼ばれ、カモメ診療所にいる雨野の警護をするように指示が出された。署長としては、署全体で、この事案に対処したいそうだ。もちろん、暴対課は全員がカモメ診療所に張り付くことになっている。まるで昔の機動隊になったようなものだが。応援も必要だ。そこで、うちからも数名の人を出して欲しいということだった。誰か、志願をしてくれる者はいないかね?」
「それは我々の仕事ではないと思うんですが」と、盗犯係長の岡田が不満げな声をあげた。
「署長としては、署全員で対処しているところを見せたいんだ」
署長が言っているわけがない。高坂課長が点数かせぎをしたいだけだろう。と、俺は胸の中でつぶやいていた。
「もちろん、我々も安全を考えなければならない。防弾チョッキの着用及び拳銃の所持は許可してもらうつもりでいる。どうかね?」
そう言って、高阪課長は、課員たちをぐるりと見回した。誰も志願する者などいるわけがない。
「誰も出さないとは言えない。そう、最低一人は出さなければならないぞ。じゃ、こちらから、指名をさせてもらってもいいかな」
そう言った高坂課長は、俺と相内の方に顔を向けた。どちらかにしようと思っているようだった。
「はい」と言って、手をあげた者がいた。相棒の相内だ。このままではまずいと思ったのだろう。
「推薦をさせてもらってもいいですか?」
「それは、かまわないが、誰かね?」
「やっぱり岡田係長がいいと思いますよ。刑事課を代表するなら、それなりの人物でなければならないはずです」
「ほう、いいかね?」
高坂課長は岡田の方に顔を向けた。
「相内さん、何を言っているんです。連続窃盗事件も続いている。盗犯捜査係として、いまは手をぬけない。相内さんこそ、定年前の思い出に暴対課の仕事もしてみるのはどうですか?」
「そうだな。じゃ、相内くんにやってもらうか?」
相内は墓穴をほったようだった。
「それなら、片倉がいい。谷口組の者に対して威圧することができている」と、相内は抵抗を試みた。
「そうだな。一人だけで仕事をさせるわけにもいかんから。相内と片倉の二人でということでどうだ」
自分に関わらなかったことで、反対をする者などいない。俺と相内以外の者たちは頷き、カモメ診療所の警護参加者は決まってしまった。
「じゃ、事前打ち合わせ会議を午後六時から三階の中会議室で行われることになっている。相内、片倉、参加してくれ」
「あい」と俺は低い声を出し、相内は額に三本のしわを作っていた。
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