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第4話ハルカ村の悲劇 1 村長イングラ
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木立から顔を出した者たちがいた。間違いなく人間だ。その人たちの中にあごひげの長い老人がいた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「あなたは?」
「私は、このハルカ村の村長をしております。イングラでございます」
ここに、村人が住んでいたのだ!
「あなた様は、もしかして、サルタン王子様では?」
イングラ村長にズバッと聞かれて、思わず忠司は照れて顔を赤くして、頭をかいていた。
「どうして、わかったの?」
「あの小屋には、誰も住んでおりません。なのに、獣人たちが、いつも小屋を見張っていた。それは、小屋にサルタン王子様が戻ってくるかもしれないと思っていたからです。我々も待っていた。でも、誰も戻ってくる人などいないと,われわれも思い始めておりました」
「でも、こうやって出てきちゃった」
「サルタン王子様は我々にとって伝説の人です。伝説を信じていてよかった」
村長は泣き出し、白いハンカチを出して涙をふいていた。
「そんな泣かれることかな。村長、俺がやつけた獣人って、一体なんだい?」
「よくぞ、聞いていただきました。獣人は、もともとは、私らと同じ人だった者。もう20年ほど前になりますか。最初に現れた時は驚きました。獣人は隣村の若者たちだったからです。違いは耳がとがり、尾がついてしまっていた。わしらは、殺されても、殺すことができないでいた。彼らは魔神グールが呪をかけて生まれた者たちなのです」
聞いている忠司は辛くなってきそうな話が続く。
「獣人はだんだんとケダモノに近づき、人ではなくなっていく。やがて、獣人は村の人を襲うようになったのです」
「なぜですか?」
「人を食うためですよ」
「それじゃ、もと人だったからと言ってはいられない。ケダモノと化した者は倒すしかない!」
村長は笑った。でも、それは自嘲的な笑いだった。
「獣人たちは強い。われわれが食われないためには、彼らに食べ物を作って差し上げるしかない。今回もそこに食べ物を運んできていたんですよ」と言って、村長は焚火の上に置いている大なべを指さして見せた。鍋には肉を主体にした汁物がたっぷりと作られている。
「わしらの仲間で戦った者もおりましたが、捕まり食われてしまいました。それに、獣人たちはどの村にも兵舎をつくり、われわれをいつも監視している」
「う~む」と、忠司は腕を組みうなっていた。
そんなときに、花音が近づいてきた。
「忠司、様。これ貰ってもいいよね?」
思わず、忠司は顔をしかめた。言いづらいなら、いちいち名前の後に様なんか、つけなくていいんだ。でも、花音は止めようとはしない。花音はサイ顔の獣人が持っていた二剣を手にさげていた。
「それ、俺の物ではないからね。俺に聞かれてもな」
サイ野郎を切り捨てたのは、確かに忠司だが、その二剣の持主というわけではない。思わず、忠司は遺体となったサイの方を見た。獣人は静かに死をまとって横たわっている。
「死んだ者に剣など意味がない。生きている者が持って有効に使ってあげる方が功徳になるのかもしれません」と、村長が言うものだから、花音はすぐにその気になっていた。
「だよね」
花音はサイ顔の獣人の腰から鞘も取ってきて、それに二剣をいれ腰にさしていた。そして、大きな声をあげて、型の練習を始めた。すると、村長と一緒に木陰から出てきた村人たちは、花音の演武を見て拍手を送っていた。
花音は示現流の父親から指南をうけているので、型は見事に決まっている。忠司もすごいなと思ってしまう。獣人たちとの闘いで、相手を倒せなかったことで、花音にはストレスがたまっていたようだ。いま、この演武の中で、花音はそれを解消していたのだった。
今度は、剣を鞘におさめると、すばやく抜いて見せる居合の練習を始めた。そのうちに花音は何かを切って見せたくなった。鍋をかけていたブロックの間に、太い薪をおくと一気に切ってみせた。薪は真っ二つに切れ、灰の中に落ちていく。だが花音はまだ物足りなさそうだ。周りを見回し、横たわっていた獣人の遺体が持っていた剣を見つけた。それを拾い上げると、ブロックの間に剣を置いた。
おいおい、剣を剣で切りつけるつもりじゃないだろうな!そんなことをしたら、どちらの剣も刃こぼれをおこし、ダメになってしまう。
忠司は、思わず顔をしかめていた。だが、花音はそんな忠司の心配など、頭の中にまるでない。上段にかまえると一気に振り下ろした。
すると、どうだ!
ブロックの間に置かれた剣はパリンと音をさせて、二つになって灰の中に落ちて行った。
「馬鹿な」と、忠司は声をあげた。そして、すぐに花音のところにかけよった。
「かしてみろや」
忠司が、手を出すと花音はペロッと舌をだしながら、使った剣を渡してくれた。ずしりと重みがあり、刃こぼれなどできてはいない。忠司のオリハルコンの剣とこの剣をぶつけ合ってもおれなかったことを思い出していた。
そう、この剣は只者ではない刃なのだ。
そう思うと、正宗が作った名刀二本が今はどこにあるのか、分からないと言う話を思い出した。忠司のその知識は連載されている少年マンガ雑誌に載っていたので、覚えていたのだが。
「すごい刀だな」と、忠司は花音にそれを返した。花音はヒヒヒと品のない笑い声をたてながら、受け取っていた。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「あなたは?」
「私は、このハルカ村の村長をしております。イングラでございます」
ここに、村人が住んでいたのだ!
「あなた様は、もしかして、サルタン王子様では?」
イングラ村長にズバッと聞かれて、思わず忠司は照れて顔を赤くして、頭をかいていた。
「どうして、わかったの?」
「あの小屋には、誰も住んでおりません。なのに、獣人たちが、いつも小屋を見張っていた。それは、小屋にサルタン王子様が戻ってくるかもしれないと思っていたからです。我々も待っていた。でも、誰も戻ってくる人などいないと,われわれも思い始めておりました」
「でも、こうやって出てきちゃった」
「サルタン王子様は我々にとって伝説の人です。伝説を信じていてよかった」
村長は泣き出し、白いハンカチを出して涙をふいていた。
「そんな泣かれることかな。村長、俺がやつけた獣人って、一体なんだい?」
「よくぞ、聞いていただきました。獣人は、もともとは、私らと同じ人だった者。もう20年ほど前になりますか。最初に現れた時は驚きました。獣人は隣村の若者たちだったからです。違いは耳がとがり、尾がついてしまっていた。わしらは、殺されても、殺すことができないでいた。彼らは魔神グールが呪をかけて生まれた者たちなのです」
聞いている忠司は辛くなってきそうな話が続く。
「獣人はだんだんとケダモノに近づき、人ではなくなっていく。やがて、獣人は村の人を襲うようになったのです」
「なぜですか?」
「人を食うためですよ」
「それじゃ、もと人だったからと言ってはいられない。ケダモノと化した者は倒すしかない!」
村長は笑った。でも、それは自嘲的な笑いだった。
「獣人たちは強い。われわれが食われないためには、彼らに食べ物を作って差し上げるしかない。今回もそこに食べ物を運んできていたんですよ」と言って、村長は焚火の上に置いている大なべを指さして見せた。鍋には肉を主体にした汁物がたっぷりと作られている。
「わしらの仲間で戦った者もおりましたが、捕まり食われてしまいました。それに、獣人たちはどの村にも兵舎をつくり、われわれをいつも監視している」
「う~む」と、忠司は腕を組みうなっていた。
そんなときに、花音が近づいてきた。
「忠司、様。これ貰ってもいいよね?」
思わず、忠司は顔をしかめた。言いづらいなら、いちいち名前の後に様なんか、つけなくていいんだ。でも、花音は止めようとはしない。花音はサイ顔の獣人が持っていた二剣を手にさげていた。
「それ、俺の物ではないからね。俺に聞かれてもな」
サイ野郎を切り捨てたのは、確かに忠司だが、その二剣の持主というわけではない。思わず、忠司は遺体となったサイの方を見た。獣人は静かに死をまとって横たわっている。
「死んだ者に剣など意味がない。生きている者が持って有効に使ってあげる方が功徳になるのかもしれません」と、村長が言うものだから、花音はすぐにその気になっていた。
「だよね」
花音はサイ顔の獣人の腰から鞘も取ってきて、それに二剣をいれ腰にさしていた。そして、大きな声をあげて、型の練習を始めた。すると、村長と一緒に木陰から出てきた村人たちは、花音の演武を見て拍手を送っていた。
花音は示現流の父親から指南をうけているので、型は見事に決まっている。忠司もすごいなと思ってしまう。獣人たちとの闘いで、相手を倒せなかったことで、花音にはストレスがたまっていたようだ。いま、この演武の中で、花音はそれを解消していたのだった。
今度は、剣を鞘におさめると、すばやく抜いて見せる居合の練習を始めた。そのうちに花音は何かを切って見せたくなった。鍋をかけていたブロックの間に、太い薪をおくと一気に切ってみせた。薪は真っ二つに切れ、灰の中に落ちていく。だが花音はまだ物足りなさそうだ。周りを見回し、横たわっていた獣人の遺体が持っていた剣を見つけた。それを拾い上げると、ブロックの間に剣を置いた。
おいおい、剣を剣で切りつけるつもりじゃないだろうな!そんなことをしたら、どちらの剣も刃こぼれをおこし、ダメになってしまう。
忠司は、思わず顔をしかめていた。だが、花音はそんな忠司の心配など、頭の中にまるでない。上段にかまえると一気に振り下ろした。
すると、どうだ!
ブロックの間に置かれた剣はパリンと音をさせて、二つになって灰の中に落ちて行った。
「馬鹿な」と、忠司は声をあげた。そして、すぐに花音のところにかけよった。
「かしてみろや」
忠司が、手を出すと花音はペロッと舌をだしながら、使った剣を渡してくれた。ずしりと重みがあり、刃こぼれなどできてはいない。忠司のオリハルコンの剣とこの剣をぶつけ合ってもおれなかったことを思い出していた。
そう、この剣は只者ではない刃なのだ。
そう思うと、正宗が作った名刀二本が今はどこにあるのか、分からないと言う話を思い出した。忠司のその知識は連載されている少年マンガ雑誌に載っていたので、覚えていたのだが。
「すごい刀だな」と、忠司は花音にそれを返した。花音はヒヒヒと品のない笑い声をたてながら、受け取っていた。
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