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2 村長宅に宿泊
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「村長、兵舎にいる獣人たちも倒してしまわないと、また獣人たちのために食べ物を作らなければならないのじゃないの?」
「はい、その通りです。サルタン王子様、もしかしたら兵舎にいる獣人たちも倒してくれるおつもりなのですか?」
「そうだよ。そうしないと、もとのもくあみになるよね」
「それは、ありがたい話ですが。まずは今晩、私の家にお泊りください。夕食をさしあげたいと思っております」
村長にそう言われて、忠司は空腹になっていることに気がついた。
獣人たちに食べ物を運んできた馬車を小屋近くに村長はとめていたので、その馬車の荷台に忠司と花音を村長はのせた。
手綱を持つ村長は、馬の扱いがうまい。パカポコと軽快な音を立てさせながら森の道を走らせると大きな家が見えてきた。忠司は親父(義父、室井忠司)と住んでいた家を思い出していた。確かに一軒家に住んでいたが、両側の家は隙間がないくらいに近く建っていた。そのおかげで、日はあまり入らず窓から隣の家をのぞくことができてしまった。
村長の家はまるで違う。前に忠司がアメリカ映画で見た家に似ていた。遠くに牧場が見え、家の前に馬をつないでおけるだけの広場があった。
二人は馬車から降りると、村長につれられて玄関ポーチの石段をのぼり家の中に入った。リビングにはレンガ造りの暖炉があって、部屋の右にはキッチンがついていた。そこから村長の奥さんが現れ、忠司がサルタン王子であることを村長から教えられると、すぐに忠司に抱きつきハグしてくれた。そして「王子様にお会いできることがあるなんて、夢のようでございます」と言って、泣き出していた。
イングル村長から、忠司たちのために夕食をして欲しいと言われると、奥さんはすぐに台所に戻っていった。
食事が用意されるまで、忠司と花音は、部屋の中を見ることができた。壁には、村長が二人の男女の側に立っている絵が掛けられていた。でも、村長の髪は黒々として顔にしわがない。この絵は村長が若いころに描かれたものだ。
「こちらの二人は、誰ですか?」と、忠司が尋ねた。
「お分かりになりませんか?」
分からないので、忠司は肩をすぼめてみせた。
「リチャード王でございますぞ」
「へえ、かっこいい。しぶ~い。映画俳優になれるわ」と、花音が声をあげる。
たしかに、王と言われるのに、ふさわしい顔をしていた。ほりが深く、鼻が高い。目も大きい。胸に勲章をつけ、背中にマントを垂らしていた。
「じゃ、もしかして、こちらは?」
そう言って忠司は、王のそばにいる女性を指さしていた。
「さよう。こちらは、ジェーン女王。あなた様の母上にございます」
忠司は若い頃の母を見つめた。目が細く、鼻も高くない。まさに東洋系の顔をしていた。
「近くに、こんな顔の人いるよ。デパートに勤めているお姉さんによく似てる」
そう言って花音は、うなずいている。なんで、こんなことで、うなずかなければならないんだ?
ともかく忠司は母に似ていた。だから、日本人の中にいても、忠司は目立たないですんだ。
父のリチャード王を俺は助け出すことができるかもしれない。だが、母は死んでしまっている。どうやっても助けだしてやることはできない。
そう思うと忠司の眼は悲しみで赤くなっていた。
「おいたわしいことです。おそばにいたこともあったのに、なんのお力にもならなかった」
そう言った村長も泣き出していた。
そんな時に、奥さんが台所から両手に皿を持ってきて食卓テーブルの上に並べだした。次から次へと料理を運び並べ終わると、みんなに声をかけた。
「さあ、夕食の準備はできましたよ。はやく席についてください」
「さあさあ、どうぞ。おすわりください」
イングラ村長の言葉にうながされて忠司と花音は席についた。奥さんはイングラ村長と並び、二人に向かい合うよう座った。
すると、すぐに村長夫婦は胸の前で手をあわせ、守護神ヘラに食事ができることと、未来に祝福を願うための祈りを始めたのだ。そんなことをしたことがない。忠司と花音はお互いに横に顔をむけて、見合ってしまった。それでも、忠司は前の方に顔を向けると、ヘラにこれからどうしたらいいんだと声を出さずに聞いていた。
(・・・・・・・・)
だが、祈りをささげなかったせいか?ヘラからは、何も聞くことができなかった。
「それでは、食事にいたしますか」と村長が言ってくれたので、忠司は、テーブルの上を改めて見回していた。
底の深い皿が置かれ、そこにシチューが入っていた。スライスされたフランスパンが大皿にもられ、テーブルのまん中に置かれている。トマトやいろんな野菜が混ぜ合わされたサラダがやはり大皿に盛られていた。サラダにはゴマの入ったドレッシングソースがすでに掛かっていて、自分の前にある小皿に好きにとって食べるようになっていた。ほかの皿には、いろいろなチーズが盛られている。もちろん、これも好きなだけ取って食べることができるようになっていた。
食べだした忠司たちを見ながら、村長は「本当ならばチキンの丸焼きをお出ししたかったのですが、獣人たちの食べ物として出しております。十分に肉を与えないと、村人たちが襲われることになってしまうものですから」と言っていた。
「ぜんぜん、気にしないで。私、今なるべく野菜を食べるようにしているのよ。このごろ、食べる量もへらしているくらい!」
そう言った花音は笑顔で首を左に傾げてみせた。
花音の言ったことを聞いていた忠司も首を傾げた。
太りたくないとか、花音は言っているが、昼の弁当を持ってきているのに、学校の売店でクリームパンも買って食べているのを知っていたからだ。
それはともかく、奥さんが作ってくれたシチューは美味しかった。じっくりと煮込まれ、とろみと深みが加わっている。つまり、その味は最高だった。
おかげで、忠司は腹いっぱい食べることができた。
「ごちそうさまでした」と言った花音の目はトロンとしていた。つまり、忠司に負けないくらいに、たくさんの量を食べたということだ。
「そろそろお休みになられますか?」と、村長は椅子から立ちあがっていた。
「来客用の寝室は、2階にございますので、ご案内いたしますよ」
そう言って、先に立って歩き出し忠司と花音は村長の後に続いた。
階段をあがり、二階の部屋のドアを村長は開けてくれた。
「さあ、どうぞ」
二人は案内されるままに同じ部屋に入っていった。
「はい、その通りです。サルタン王子様、もしかしたら兵舎にいる獣人たちも倒してくれるおつもりなのですか?」
「そうだよ。そうしないと、もとのもくあみになるよね」
「それは、ありがたい話ですが。まずは今晩、私の家にお泊りください。夕食をさしあげたいと思っております」
村長にそう言われて、忠司は空腹になっていることに気がついた。
獣人たちに食べ物を運んできた馬車を小屋近くに村長はとめていたので、その馬車の荷台に忠司と花音を村長はのせた。
手綱を持つ村長は、馬の扱いがうまい。パカポコと軽快な音を立てさせながら森の道を走らせると大きな家が見えてきた。忠司は親父(義父、室井忠司)と住んでいた家を思い出していた。確かに一軒家に住んでいたが、両側の家は隙間がないくらいに近く建っていた。そのおかげで、日はあまり入らず窓から隣の家をのぞくことができてしまった。
村長の家はまるで違う。前に忠司がアメリカ映画で見た家に似ていた。遠くに牧場が見え、家の前に馬をつないでおけるだけの広場があった。
二人は馬車から降りると、村長につれられて玄関ポーチの石段をのぼり家の中に入った。リビングにはレンガ造りの暖炉があって、部屋の右にはキッチンがついていた。そこから村長の奥さんが現れ、忠司がサルタン王子であることを村長から教えられると、すぐに忠司に抱きつきハグしてくれた。そして「王子様にお会いできることがあるなんて、夢のようでございます」と言って、泣き出していた。
イングル村長から、忠司たちのために夕食をして欲しいと言われると、奥さんはすぐに台所に戻っていった。
食事が用意されるまで、忠司と花音は、部屋の中を見ることができた。壁には、村長が二人の男女の側に立っている絵が掛けられていた。でも、村長の髪は黒々として顔にしわがない。この絵は村長が若いころに描かれたものだ。
「こちらの二人は、誰ですか?」と、忠司が尋ねた。
「お分かりになりませんか?」
分からないので、忠司は肩をすぼめてみせた。
「リチャード王でございますぞ」
「へえ、かっこいい。しぶ~い。映画俳優になれるわ」と、花音が声をあげる。
たしかに、王と言われるのに、ふさわしい顔をしていた。ほりが深く、鼻が高い。目も大きい。胸に勲章をつけ、背中にマントを垂らしていた。
「じゃ、もしかして、こちらは?」
そう言って忠司は、王のそばにいる女性を指さしていた。
「さよう。こちらは、ジェーン女王。あなた様の母上にございます」
忠司は若い頃の母を見つめた。目が細く、鼻も高くない。まさに東洋系の顔をしていた。
「近くに、こんな顔の人いるよ。デパートに勤めているお姉さんによく似てる」
そう言って花音は、うなずいている。なんで、こんなことで、うなずかなければならないんだ?
ともかく忠司は母に似ていた。だから、日本人の中にいても、忠司は目立たないですんだ。
父のリチャード王を俺は助け出すことができるかもしれない。だが、母は死んでしまっている。どうやっても助けだしてやることはできない。
そう思うと忠司の眼は悲しみで赤くなっていた。
「おいたわしいことです。おそばにいたこともあったのに、なんのお力にもならなかった」
そう言った村長も泣き出していた。
そんな時に、奥さんが台所から両手に皿を持ってきて食卓テーブルの上に並べだした。次から次へと料理を運び並べ終わると、みんなに声をかけた。
「さあ、夕食の準備はできましたよ。はやく席についてください」
「さあさあ、どうぞ。おすわりください」
イングラ村長の言葉にうながされて忠司と花音は席についた。奥さんはイングラ村長と並び、二人に向かい合うよう座った。
すると、すぐに村長夫婦は胸の前で手をあわせ、守護神ヘラに食事ができることと、未来に祝福を願うための祈りを始めたのだ。そんなことをしたことがない。忠司と花音はお互いに横に顔をむけて、見合ってしまった。それでも、忠司は前の方に顔を向けると、ヘラにこれからどうしたらいいんだと声を出さずに聞いていた。
(・・・・・・・・)
だが、祈りをささげなかったせいか?ヘラからは、何も聞くことができなかった。
「それでは、食事にいたしますか」と村長が言ってくれたので、忠司は、テーブルの上を改めて見回していた。
底の深い皿が置かれ、そこにシチューが入っていた。スライスされたフランスパンが大皿にもられ、テーブルのまん中に置かれている。トマトやいろんな野菜が混ぜ合わされたサラダがやはり大皿に盛られていた。サラダにはゴマの入ったドレッシングソースがすでに掛かっていて、自分の前にある小皿に好きにとって食べるようになっていた。ほかの皿には、いろいろなチーズが盛られている。もちろん、これも好きなだけ取って食べることができるようになっていた。
食べだした忠司たちを見ながら、村長は「本当ならばチキンの丸焼きをお出ししたかったのですが、獣人たちの食べ物として出しております。十分に肉を与えないと、村人たちが襲われることになってしまうものですから」と言っていた。
「ぜんぜん、気にしないで。私、今なるべく野菜を食べるようにしているのよ。このごろ、食べる量もへらしているくらい!」
そう言った花音は笑顔で首を左に傾げてみせた。
花音の言ったことを聞いていた忠司も首を傾げた。
太りたくないとか、花音は言っているが、昼の弁当を持ってきているのに、学校の売店でクリームパンも買って食べているのを知っていたからだ。
それはともかく、奥さんが作ってくれたシチューは美味しかった。じっくりと煮込まれ、とろみと深みが加わっている。つまり、その味は最高だった。
おかげで、忠司は腹いっぱい食べることができた。
「ごちそうさまでした」と言った花音の目はトロンとしていた。つまり、忠司に負けないくらいに、たくさんの量を食べたということだ。
「そろそろお休みになられますか?」と、村長は椅子から立ちあがっていた。
「来客用の寝室は、2階にございますので、ご案内いたしますよ」
そう言って、先に立って歩き出し忠司と花音は村長の後に続いた。
階段をあがり、二階の部屋のドアを村長は開けてくれた。
「さあ、どうぞ」
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