王子だって、一体どうなるのか?物語

矢野 零時

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2 味方だったぞ!

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 倒れた獣人のすべてが起き上がってくることがないのを確かめると、その人たちは忠司たちに駆け寄ってきた。
「サルタン王子様、よくぞ、ご無事で」と言って、最初に駆け付けた男は両目から涙を噴き出し、のばしている顎髭をぬらしていた。
「どうして、俺がここにいることがわかったんだい?」
「ヘラ様からサルタン王子様が危機に陥っているので、できるだけ早く第3駐屯地に行くように言われたからです。そのおかげでサルタン王子様をお救いすることができた」
「そうか。ヘラが助けてくれたのか」
 見聞録でヘラに相談をしたことが届いたのだ。だが、今はビルを助けあげなければならない。
「ビルはグールたちを敵に戦ってくれる者だ。いまは怪我をしているので、病院に運んでやりたいのだが」
「近くに病院はございませんが、私どもの隠れ里に医術を習得している者がおります。彼の下に運ばせましょう。馬車を用意しろ」と、顎髭を伸ばした男が声を大きくした。
「はい」と言って、そばにいた男は走り出し、やがて、馬車がやってきた。
「私、ついていくわ」と花音もビルと一緒に馬車にのり、二人をのせた馬車は早足で走り去っていった。
「これでよろしいですかな」
 忠司はうなずき、顎髭の男をあらためて見ることになった。
「私たちは、王子様がここに現れるのをずっとお待ちもうしあげておりました」
「イングラ村長が言っていた、あなたがたが親衛隊の方々ですか?」
「そのとおりです。これからは、あなたをお守りしなければと思っておりますぞ」
 忠司は改めて顎髭をはやした男をじろじろと見つめた。元の世界、日本にいる育ての父親、室井道治にどこか似ていたからだ。
「お気づきになられましたかな。私はあなたを育てていたアンリーの弟。ルソー・マオ・マチスでございます。ルソーとお呼びください。いまは親衛隊長をさせていただいておりますぞ」
「やっぱり、そうだったのですか」
 忠司は言葉を無くしていた。ここに来る時には、もう育ての父と関りを持つことなどないと思っていたからだ。
「ともかく、私どもの隠れ里に参りましょう。されど、歩いて行くには少し遠いところにございます。馬車が迎えに来てくれることになっていますので、今しばらくお待ちください」
 ルソーは手で軽く忠司の肩をたたいていた。
 やがて、東の方から、荷馬車が二台と一台の普通の馬車がやってきた。前の方にある荷馬車の御者はイングラ村長だった。荷馬車をとめて降りてくるとすぐに忠司の所にやってきた。
「サルタン王子様、ご無事であんどいたしました。それに、村にいろいろな食糧をいただく話になったことを親衛隊の方からお聞きして、すぐにかけつけた所です」
「そうか、ビルから話を聞いた親衛隊の人が村長につたえてくれたのか」
「人をのせるための馬車をお持ちいたしましたので、サルタン王子様、これにて隠し里にむかってください」
「いつも、いろいろ世話になるな」
 忠司は頭をさげていた。
 すぐに、親衛隊隊長のルソーとともに馬車にのると、馬車は走り出していった。イングラ村長は遠くなっていく馬車に向かって、手を振って見送ってくれた。
 他の親衛隊たちは、森の中に隠していた馬を引き出してきて、それにのると、忠司がのる馬車の後に続いていた。

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