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イバラの森大戦

22 テレク

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 カラスにオードリはのっていました。でも、もう一羽のカラスの背には、見知らぬ魔女がのっていたのです。
「テレクだ」と、レイモンドがさけびました。
「あいつが、氷の魔法使いなのか」と、グリスが声をあげました。

 カラスから降り立ったテレクは城の中を見まわして、城門をふさいでいるイバラに指先を向けると冷凍光線を放ちました。あざやかな緑色をしていたイバラの葉たちはたちまち氷りつき真っ白になっていきました。氷ったイバラの葉と茎は、触れられただけでバラバラになってしまいます。そんなイバラに、大ガラスが近づき、その鋭いくちばしでつつき出していました。 
 城のテラスにいて眠り姫や王たちを守っていたニーナや魔法学校の生徒たちが炎を大ガラスに向かって放ちだしました。炎は大カラスの羽に当たり、羽が燃え出すと大ガラスは倒れていきました。
 その間にシンドは夏の暑い風を作り、イバラの上に吹きまくらせました。そのお陰で、イバラは再び青い葉を取り戻していきました。
「無駄なことをやっているんじゃないよ」
 そう言って、テレクは右手をあげて、城壁ぞいに冷凍光線を指先から発しながらぐるりと廻ったのです。凍らせる力には、一つの精霊の力を借りただけでは対抗できないことは分かっています。すぐにエルザは城の周りに雨をふらせ、その雨に向かってニーナや魔法学校の生徒たちが炎をぶつけていきました。雨は炎でお湯に変りふって行きましたので、城の中もイバラも氷りつかずにすみました。でも、テレクはあきらめません。何度も、冷凍光線を放ってくるのです。  
 カオルを始め炎をうまく作れない生徒たちは、ヒヨコだった兵士がたくさんの小石を城の中に運んでくれていましたので、杖を振って、テレクに向かって石を飛ばすことができました。それに対してテレクは手をあげて、飛んでくる小石を凍らせ、粉々にしてしまっていたのです。どんどん小石はなくなっていきます。その上、小石を飛ばしていた生徒たちに向けられた冷凍光線のおかげで、生徒たちも凍り付きだしていました。
 カオルの前につんでいた小石もなくなり、投げつけれる物といったらリュックに入れてきたぬいぐるみのクマしかなくなってしまいました。テレクの指先はカオルの方に向かってきていました。このままでは、カオルも凍りつかされてしまいます。
「クマさん、助けて、お願い」と言いながら、カオルは念をこめて、クマをテレクに向かって飛ばしたのでした。クマはまっすぐにテレクに向かって飛んでいきました。
「なんじゃ、そんな物が!」と言って、テレクはクマに向かって冷凍光線を放ちました。石の場合は固いものですから、凍らすとヒビが入ってしまいましたが、クマは柔らかな綿でできていましたので、凍り付いてもヒビは入りません。それどころか、凍り付くと固い氷の塊になっていたのです。その塊がテレクの額を襲い、塊はテレクの頭を二つにわっていたのでした。
「ぎゃっ」と言うテレクの叫び声があたりにひびき渡りました。テレクは丸太になったように大地に倒れて行きました。テレクが倒れたことにより、彼女の冷凍光線で凍らせられていた生徒たちは元のように動けるようになっていきました。
 
 
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