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天空魔人グール
15 城内参上
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やがて、カオルたちは眼下に家々が見える高台にやってきました。
高台には、尖塔を持つ城があり、その前には学校の校庭の四倍はある大きさの広場がありました。
広場の真ん中に高さ五メートルはあろうかと思える太い柱があって、その柱には幾本もの木の棒がとおっていて、その棒をたくさんの男たちが押して、まわしていたのです。上から見たら、大きな歯車を回しているように見えるに違いありません。その歯車に小さな歯車がいくつも組み込まれ並んでいます。その機械は城の端にある灰色の建物の中に入り込んでいたのでした。
兵士たちは歯車をまわしている男たちの背に向って鞭をふりおろしています。
「手をぬくな。スピードを落としたら、世界が暗くなるだろう」
男たちの背中には新たな鞭の跡が付き、血が噴き出していたのです。でも、男たちは、黙って木の棒を押し続けていました。
そんな姿を見て、カオルは思わずオリバーに聞きました。
「どうして、こんなことをしているのかしら?」
「決まっているだろう。男たちは電気を起こしているんだよ」
「電気?」
「ここには、川も流れていないし、燃料になる石炭もないからね。だから、人の力で電気を起こすしかないんだよ」
「こんなことまでして、電気を起こす必要があるの?」
「上を見あげてごらん。ここには太陽がないんだ」
「えっ」
カオルは顔をあげて、上を見ました。確かに空はありますが、雲もなく太陽もありません。悪魔の領地に太陽は存在できないのです。
「じゃ、光は」と言って、カオルは城の方に顔を向けました。城の尖塔の先が光っていて、その光が太陽の代わりにこの世界を照らしていたのでした。
グールは光を与えることを条件に植物たちを支配し従わせていたのです。しかたなく植物たちは黒魔女になっていたのでした。もちろん、日々の生活を暮す人にも光は必要です。ですから、人々は光を作るための人出を提供し続けていたのでした。
うろうろしているカオルたちに気づいた兵士が近づいてきました。
「あんたは下から連れてこられた女の子だろう?」と、兵士はカオルの顔を見て言いました。
「ええ」と、答えておくしかありません。
「あんたがいる所は、ここじゃない。子供らが集っている宮殿のはずだ。さあ、すぐに戻るんだ。何かあれば私らが怒られることになる」
兵士の指さした方に行くしかありません。オリバーと店主たちはカオルと関係ない者ですよと言う顔をして荷車を押して食べ物置き用の倉庫に向かって行きました。
兵士に追われたカオルはしかたなく走り出し宮殿に向かいました。
宮殿は、手すりのついたベランダがあり、大理石で作られたエンタシスふうな柱が幾本も立ち並んで、装飾のついた屋根を支えていました。
カオルが中に入るとたくさんの女の子や男の子がいたのでした。どの子も白い絹の服を着ていて、優雅なギリシャの絵の世界にいるように見えました。
カオルが探すと女の子たちの中に知世や石山良子がいたのです。でも、珠代をみつけることはできませんでした。
すぐにカオルは知世たちに近づいて行きました。
「知世ちゃん、良子ちゃん、ここから逃げ出しましょう」
知世と良子は何を言っているのかしらという顔をしています。
「カオルよ。カオル」
「私、あんたなんか知らないわ」と良子は言い、知世はキョトンとした顔をしていました。
そうでした。
度の強いメガネをかけていたので、知世は私がカオルだとは気がつかないでいたのです。すぐにカオルはメガネをはずし、あわせて羽織っていた緑色のマントも脱ぎ捨てました。
「あら、カオルちゃん、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょう。あなたを助けに、ここまでやってきたのよ。珠代ちゃんはどこにいるの?」
「珠代ちゃんは、本殿にいるわよ。でも、まだ私は本殿に入れないの」
ともかく、カオルは知世と良子だけでも、まずここから連れ出さなければならないと思いました。
「さあ、すぐにここから逃げ出しましょう!」
「カオルちゃん。何を言っているの。私にはやらなければならないことがあるのよ」
「やらなければならないことって、何よ?」
「グールさまは私を食べたいと思ってくれているのよ。それに応えるために、美味しくならないと」
「私も同じ気持ちよ」と、そばで良子もうなずいています。
たしかに、知世は少しふっくらと太り出していました。先ほどから女の子たちは、カップで白くどろりとしたミルクのようなものを飲み続けています。
そのせいでしょうか?
「何を馬鹿なことを言っているの。知世ちゃん、あんたは騙されているんだよ」
カオルは声を荒げてしまいました。
「なんとひどいことを言うの。グールさまを、傷つけるようなことを言わないでよ」と、良子が高い声を出していました。
カオルと知世たちが話していたことを聞いていた周りの女の子たちが騒ぎ出したのです。
「グールさまが、人を騙すだなんて、ありえないわ!」
「この人は誰? グールさまのために身を捧げない人がいるなんて信じられないわ」
魔人に心を奪われた者たちを相手にするきは、カオルにはありません。カオルは知世の手をつかむと、手を引いて宮殿から連れ出そうとしました。
「カオルちゃん、何をするのよ!」
「ともかく、家に一度帰るのよ」
でも、知世はカオルの手をふりはらったのです。
「グールさま、不届き者が現れました!」と、他の女の子たちは口に手をあて大声をあげていました。
高台には、尖塔を持つ城があり、その前には学校の校庭の四倍はある大きさの広場がありました。
広場の真ん中に高さ五メートルはあろうかと思える太い柱があって、その柱には幾本もの木の棒がとおっていて、その棒をたくさんの男たちが押して、まわしていたのです。上から見たら、大きな歯車を回しているように見えるに違いありません。その歯車に小さな歯車がいくつも組み込まれ並んでいます。その機械は城の端にある灰色の建物の中に入り込んでいたのでした。
兵士たちは歯車をまわしている男たちの背に向って鞭をふりおろしています。
「手をぬくな。スピードを落としたら、世界が暗くなるだろう」
男たちの背中には新たな鞭の跡が付き、血が噴き出していたのです。でも、男たちは、黙って木の棒を押し続けていました。
そんな姿を見て、カオルは思わずオリバーに聞きました。
「どうして、こんなことをしているのかしら?」
「決まっているだろう。男たちは電気を起こしているんだよ」
「電気?」
「ここには、川も流れていないし、燃料になる石炭もないからね。だから、人の力で電気を起こすしかないんだよ」
「こんなことまでして、電気を起こす必要があるの?」
「上を見あげてごらん。ここには太陽がないんだ」
「えっ」
カオルは顔をあげて、上を見ました。確かに空はありますが、雲もなく太陽もありません。悪魔の領地に太陽は存在できないのです。
「じゃ、光は」と言って、カオルは城の方に顔を向けました。城の尖塔の先が光っていて、その光が太陽の代わりにこの世界を照らしていたのでした。
グールは光を与えることを条件に植物たちを支配し従わせていたのです。しかたなく植物たちは黒魔女になっていたのでした。もちろん、日々の生活を暮す人にも光は必要です。ですから、人々は光を作るための人出を提供し続けていたのでした。
うろうろしているカオルたちに気づいた兵士が近づいてきました。
「あんたは下から連れてこられた女の子だろう?」と、兵士はカオルの顔を見て言いました。
「ええ」と、答えておくしかありません。
「あんたがいる所は、ここじゃない。子供らが集っている宮殿のはずだ。さあ、すぐに戻るんだ。何かあれば私らが怒られることになる」
兵士の指さした方に行くしかありません。オリバーと店主たちはカオルと関係ない者ですよと言う顔をして荷車を押して食べ物置き用の倉庫に向かって行きました。
兵士に追われたカオルはしかたなく走り出し宮殿に向かいました。
宮殿は、手すりのついたベランダがあり、大理石で作られたエンタシスふうな柱が幾本も立ち並んで、装飾のついた屋根を支えていました。
カオルが中に入るとたくさんの女の子や男の子がいたのでした。どの子も白い絹の服を着ていて、優雅なギリシャの絵の世界にいるように見えました。
カオルが探すと女の子たちの中に知世や石山良子がいたのです。でも、珠代をみつけることはできませんでした。
すぐにカオルは知世たちに近づいて行きました。
「知世ちゃん、良子ちゃん、ここから逃げ出しましょう」
知世と良子は何を言っているのかしらという顔をしています。
「カオルよ。カオル」
「私、あんたなんか知らないわ」と良子は言い、知世はキョトンとした顔をしていました。
そうでした。
度の強いメガネをかけていたので、知世は私がカオルだとは気がつかないでいたのです。すぐにカオルはメガネをはずし、あわせて羽織っていた緑色のマントも脱ぎ捨てました。
「あら、カオルちゃん、どうしたの?」
「どうしたのじゃないでしょう。あなたを助けに、ここまでやってきたのよ。珠代ちゃんはどこにいるの?」
「珠代ちゃんは、本殿にいるわよ。でも、まだ私は本殿に入れないの」
ともかく、カオルは知世と良子だけでも、まずここから連れ出さなければならないと思いました。
「さあ、すぐにここから逃げ出しましょう!」
「カオルちゃん。何を言っているの。私にはやらなければならないことがあるのよ」
「やらなければならないことって、何よ?」
「グールさまは私を食べたいと思ってくれているのよ。それに応えるために、美味しくならないと」
「私も同じ気持ちよ」と、そばで良子もうなずいています。
たしかに、知世は少しふっくらと太り出していました。先ほどから女の子たちは、カップで白くどろりとしたミルクのようなものを飲み続けています。
そのせいでしょうか?
「何を馬鹿なことを言っているの。知世ちゃん、あんたは騙されているんだよ」
カオルは声を荒げてしまいました。
「なんとひどいことを言うの。グールさまを、傷つけるようなことを言わないでよ」と、良子が高い声を出していました。
カオルと知世たちが話していたことを聞いていた周りの女の子たちが騒ぎ出したのです。
「グールさまが、人を騙すだなんて、ありえないわ!」
「この人は誰? グールさまのために身を捧げない人がいるなんて信じられないわ」
魔人に心を奪われた者たちを相手にするきは、カオルにはありません。カオルは知世の手をつかむと、手を引いて宮殿から連れ出そうとしました。
「カオルちゃん、何をするのよ!」
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