7 / 7
6、神さま、乙女に名をもらう
しおりを挟む神さまをじっと見つめ、水音は尋ねてみた。
「名前、何て呼んだらいいですか?」
「我に名はないのだ。好きなように呼ぶがよい。以前の巫乙女は御鏡さまと呼んだが」
同じ呼び方は嫌だと思った。
「青……青龍……蒼龍」
水音はつぶやく。
「蒼龍さま、と呼んでもいいですか?」
「我に名を付けるか、巫乙女よ」
神さまは驚いたように言った。青い炎のオーラが揺れる。
「意味がわかっておるのか?」
「意味って?」
小首をかしげる水音を見て、神さまは何か言いかけたが、思い直したように止めてただ微笑んだ。
「蒼龍さま」
水音は呼びかけた。
「あの……姿を隠すことって出来る?」
もし他の人に見えないように出来るのなら、外出する時に人目を気にしなくて済む。学校にも行けるかもしれない。
「容易いことだ」
言葉とともに神さまは一瞬にして消えた。だが、青いオーラはそのまま残っていて、水音には神さまが部屋の中を移動していることが見て取れる。
手を伸ばして触れてみた。不思議な温かさに包まれる感じがしたが、何かに触った時のような質感は一切ない。
「なぜ我のいる所がわかるのだ?」
神さまが再び姿を現し、水音の手を取った。
「青いから……」
「そなたにはこの色が見えるのだな?」
水音がうなずくと、神さまはひどく優しい目をして彼女を見つめた。
「今朝いきなりオーラ……色の付いた光が見えるようになって。巫乙女って、みんなこうなんですか?」
「いや、水音が初めてだ」
そう言われて水音の口角が上がった。自分が初めてということが、何か特別な気がして嬉しく感じたのだ。
「守りのあかしが中途半端であったな」
神さまは水音の耳たぶに指先を触れた。
そういえば、恵太に傷みたいなものがあると指摘されたが、自分では確認していない。
「この蒼龍、何があってもそなたを守ると約束しよう」
きれいなくちびるが近付き、頬の横を通り過ぎていく。耳たぶを噛まれ、何かにつらぬかれるような、鋭い痛みが走った。
「痛っ」
思わず声をもらして痛みに震えた水音を、神さま――蒼龍が優しく抱き寄せる。
すーっと痛みが遠のき、嘘のように消えていく。
蒼龍のくちびるが離れた後、水音の右耳には、透きとおった青い光の玉がピアスのように輝いていた。
※次なる展開への予告的〆
「面白いことになったわね」
女はノートパソコンで、隠しカメラの映像を食い入るように見ていた。
「別れてからじゃないとダメなんて、なかなか義理がたい子じゃない?」
同意を求められたのは、ベッドの横たわりながら顔だけ横に向け、女と一緒に画面をのぞいていた男子高校生。
なかなか整った男前の顔立ちだが、額の打撲痕が痛々しく、片腕はギプスと三角布で固定されている。
「触ると罰が当たるなんて聞いてないよ」
「だってそんなの、調べようがなかったんだもの」
女は肩をすくめ、それから男子高校生を上から見下ろし、顔を近付けると軽いキスを落とした。
「許して。恵太が怪我ぐらいで済んで本当に良かった」
「ずるいな、佳乃さんは」
そう言いながらも、大谷恵太はまんざらでもなさそうな顔で目を細めた。
「別れたいって言われたらどうしたらいい?」
「うーん、保留かな。とりあえず」
新佳乃は、薔薇色にぬったくちびるをニンマリと歪ませて笑った。
「罪悪感を利用するのよ。うまくいけば神の力を引き出せるかも」
「そんなにうまくいくと思う?」
「恵太なら出来るでしょう?」
再び恵太に覆いかぶさった佳乃は、今度はじっくり楽しむように唇を合わせる。
「触れないんじゃ、こんなふうにカラダ使ってなびかせるのは無理だけど」
恵太は離れていく彼女のくちびるを名残惜しそうに見つめた。
「水音だけならだますのは簡単だよ。問題は神さまってやつ。知恵を貸してよ、佳乃さん」
病室で意味深に話し合う二人を、悪鬼どもが興味深そうに眺めていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
4
この作品の感想を投稿する
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる