4 / 179
物理系魔法少女、思い出す
しおりを挟む
「それにしても、カゴの中身が⋯⋯」
俺のカップ麺及びインスタント類に支配されたカゴの中身を凝視する神楽さん。
美人のお姉さん(年下な可能性がある)に俺の食生活を知られてしまった。
「仕事が忙しくて、結局楽かつ素早くできるんですよね。⋯⋯まぁ、今はそこをクビになりましたけど。料理の仕方なんて忘れたし、そんな道具ももう無いんですよ」
何を言っているんだ。
今日初めて会った人にこんなくだらない話をして、どうすんだよ。
せっかくの出会いだってのに。
タイプじゃなくても、こんな可愛い子と会話できるだけ良いのに。
俺は何を自分語りを⋯⋯。
「すみません。こんなくだらない話。それじゃ、俺はこれで」
そう言って離れようとしたら、手を掴まれて引き寄せられた。
「腕が細いです」
「ずっとデスクワークでしたから」
腹は少し太ってるよ。
「目も少しだけ変です。ちゃんとした、食事を取ったのはいつですか?」
「さ、さぁ?」
覚えてない。
すると、力強く腕を握られた。
おっと大変だ。
彼女中々の握力があり、俺少しだけ半泣きになりました。
痛い。
「安心したのが間違いだった。もっと、会った時から気づけていたら⋯⋯」
ブツブツと小声で何かを言っている。
「よ、良ければ⋯⋯いえ、是非とも今日の晩御飯は一緒にしましょう! 私が晩御飯を作るから」
いきなりフレンドリーと言うか馴れ馴れしいと言うか、敬語はどうしたのよ?
距離感は大切にしていこうよ。
「いやいや。さすがに今日会ったばかりの人にそんな事はダメですよ。神楽さんは綺麗なんですから、もう少し身を大切に、ね? ありがたい話ですが、それではさようなら」
再び逃げようとしたら、関節技を片手で、しかも背を向けたまま決められた。
な、なんなの子?
見た目に反して力が強いんですけど。
「また神楽さん⋯⋯星夜さん。私がきちんとした料理を作るから、家に行こう」
「ご、強引なのは嫌いじゃないけど、さすが申し訳ないかな~」
「なら問題ないね」
人の話を聞いてましたか?
「話通じる?」
「言葉は通じてます」
言葉は、ね。
神楽さんが底なしのお人好しと分かったところで、彼女を俺の家に案内して良いモノか。
俺は大学時代から同じアパートに暮らしているのだが、そこそこボロいし部屋の中はごみ溜だ。
だと言うのに⋯⋯そもそもなんで彼女は俺に料理を?
そこまで栄養状態が心配なのか?
はっ!
それとも俺が優秀な探索者になる事を見越しての投資か?
いやいや。
こんな冴えないおっさんにそれは無い。
つーか、なんで全くの警戒心がないんだよ。
強いからかな?
俺よりも強いよ、彼女は。
だって、未だに腕の痛みがジンジンと響くから。
前を歩く彼女はご機嫌だ。
「鍵開けてよ」
「へいへい⋯⋯は?」
今、俺の家の前に居る。
俺の部屋の前に居る。
家に来ていたのだから、家の前に居るのは別に不思議じゃないのかもしれない。
だが、思い返して欲しい。
俺の前を彼女は歩いて、俺は一切の案内をしていないのだ。
だと言うのに俺の部屋を当てやがった。
⋯⋯あ、住所を登録した時に見たのか。
納得納得。
できる訳ねぇええええ!
あの一瞬で住所を見て暗記、それを調べてここまで来るってさすがに狂気を感じるぞ。
「早く」
「あ、うん」
ドアを開けた。
「けほっ。そ、掃除を全くしてないね」
「す、すみません」
「良いよ。次の休みに掃除するから。それじゃ、色々と作るから机周りは綺麗にしてね」
「はい」
ゴミを壁に退けて、適当に布でふきふき。
あ、これ俺の中で一番最新の私服だ。
買ってから一度も着た事のなかった服。
布巾として使っただけでも、コイツの存在価値はあったのだろう。
一瞬で黒くなった。
南無阿弥陀仏。
「できました」
「料理道具無いのに、どうやって作ったんですか?」
「⋯⋯敬語ばっか。押し入れから出しました。あそこの」
「そこ⋯⋯」
大学時代、お客さん様に用意していた場所だ。
なんであの場所を知ってるんだ?
⋯⋯でも、なんか懐かしい感じがするな。
大学の時に初恋の人が俺の家で作ってくれたんだ。
そう、目の前にあるオムライスを。
「美味そう。いただきます」
もうここまで来たら遠慮は失礼だろう。
感謝を込めて、いただきます。
⋯⋯。
はっ!
い、意識を失っていたのか?
何!
「目の前のオムライスとスープが消えている⋯⋯だと」
「自分で食べておいてその反応? ふふ。でも、それだけ夢中で食べたって事だよね。嬉しい」
ほのかな笑みがとても可愛らしく見えた。
それが昔の彼女の姿と重なってしまう。
「ねぇ星夜さん。美味しかった? 私、あれからずっと練習してるから、昔よりも何倍も美味しいでしょ」
そうやって、綺麗な白い歯を少しだけ見せながら笑う神楽さん。
あぁ、そうか。
彼女は俺が大学時代の初恋相手、そして仕事が忙しくて疎遠になった子だ。
携帯が壊れて、連絡先が分からずに疎遠になってしまった。
長らく忘れていた。
「紗奈ちゃん⋯⋯」
「ッ! や、やっと思い出してくれた。星夜さん。さすがに遅いぞ、思い出すの」
だって、昔と印象だいぶ違ったからね。
昔は茶髪でキリッとした、今とは真反対の子だった。
「だいぶ印象が違うから、思い出せなかった⋯⋯」
「だって、こう言うのがタイプだって⋯⋯星夜さん!」
「はい!」
「今後、探索する時は絶対に私の受付を使う事、私が居ない時は一緒に休む事、夜は私が作りに来るからね! もう、今のような生活はさせないから、絶対にね」
「は、はい」
「よろしい。それじゃ、帰るね。バイバイ」
「ば、バイバイ」
俺は同時に思い出した事がある。
とても重大な事を。
だけど、彼女からその件が出なかったので忘れているのだろう。
俺も忘れよう。
俺のカップ麺及びインスタント類に支配されたカゴの中身を凝視する神楽さん。
美人のお姉さん(年下な可能性がある)に俺の食生活を知られてしまった。
「仕事が忙しくて、結局楽かつ素早くできるんですよね。⋯⋯まぁ、今はそこをクビになりましたけど。料理の仕方なんて忘れたし、そんな道具ももう無いんですよ」
何を言っているんだ。
今日初めて会った人にこんなくだらない話をして、どうすんだよ。
せっかくの出会いだってのに。
タイプじゃなくても、こんな可愛い子と会話できるだけ良いのに。
俺は何を自分語りを⋯⋯。
「すみません。こんなくだらない話。それじゃ、俺はこれで」
そう言って離れようとしたら、手を掴まれて引き寄せられた。
「腕が細いです」
「ずっとデスクワークでしたから」
腹は少し太ってるよ。
「目も少しだけ変です。ちゃんとした、食事を取ったのはいつですか?」
「さ、さぁ?」
覚えてない。
すると、力強く腕を握られた。
おっと大変だ。
彼女中々の握力があり、俺少しだけ半泣きになりました。
痛い。
「安心したのが間違いだった。もっと、会った時から気づけていたら⋯⋯」
ブツブツと小声で何かを言っている。
「よ、良ければ⋯⋯いえ、是非とも今日の晩御飯は一緒にしましょう! 私が晩御飯を作るから」
いきなりフレンドリーと言うか馴れ馴れしいと言うか、敬語はどうしたのよ?
距離感は大切にしていこうよ。
「いやいや。さすがに今日会ったばかりの人にそんな事はダメですよ。神楽さんは綺麗なんですから、もう少し身を大切に、ね? ありがたい話ですが、それではさようなら」
再び逃げようとしたら、関節技を片手で、しかも背を向けたまま決められた。
な、なんなの子?
見た目に反して力が強いんですけど。
「また神楽さん⋯⋯星夜さん。私がきちんとした料理を作るから、家に行こう」
「ご、強引なのは嫌いじゃないけど、さすが申し訳ないかな~」
「なら問題ないね」
人の話を聞いてましたか?
「話通じる?」
「言葉は通じてます」
言葉は、ね。
神楽さんが底なしのお人好しと分かったところで、彼女を俺の家に案内して良いモノか。
俺は大学時代から同じアパートに暮らしているのだが、そこそこボロいし部屋の中はごみ溜だ。
だと言うのに⋯⋯そもそもなんで彼女は俺に料理を?
そこまで栄養状態が心配なのか?
はっ!
それとも俺が優秀な探索者になる事を見越しての投資か?
いやいや。
こんな冴えないおっさんにそれは無い。
つーか、なんで全くの警戒心がないんだよ。
強いからかな?
俺よりも強いよ、彼女は。
だって、未だに腕の痛みがジンジンと響くから。
前を歩く彼女はご機嫌だ。
「鍵開けてよ」
「へいへい⋯⋯は?」
今、俺の家の前に居る。
俺の部屋の前に居る。
家に来ていたのだから、家の前に居るのは別に不思議じゃないのかもしれない。
だが、思い返して欲しい。
俺の前を彼女は歩いて、俺は一切の案内をしていないのだ。
だと言うのに俺の部屋を当てやがった。
⋯⋯あ、住所を登録した時に見たのか。
納得納得。
できる訳ねぇええええ!
あの一瞬で住所を見て暗記、それを調べてここまで来るってさすがに狂気を感じるぞ。
「早く」
「あ、うん」
ドアを開けた。
「けほっ。そ、掃除を全くしてないね」
「す、すみません」
「良いよ。次の休みに掃除するから。それじゃ、色々と作るから机周りは綺麗にしてね」
「はい」
ゴミを壁に退けて、適当に布でふきふき。
あ、これ俺の中で一番最新の私服だ。
買ってから一度も着た事のなかった服。
布巾として使っただけでも、コイツの存在価値はあったのだろう。
一瞬で黒くなった。
南無阿弥陀仏。
「できました」
「料理道具無いのに、どうやって作ったんですか?」
「⋯⋯敬語ばっか。押し入れから出しました。あそこの」
「そこ⋯⋯」
大学時代、お客さん様に用意していた場所だ。
なんであの場所を知ってるんだ?
⋯⋯でも、なんか懐かしい感じがするな。
大学の時に初恋の人が俺の家で作ってくれたんだ。
そう、目の前にあるオムライスを。
「美味そう。いただきます」
もうここまで来たら遠慮は失礼だろう。
感謝を込めて、いただきます。
⋯⋯。
はっ!
い、意識を失っていたのか?
何!
「目の前のオムライスとスープが消えている⋯⋯だと」
「自分で食べておいてその反応? ふふ。でも、それだけ夢中で食べたって事だよね。嬉しい」
ほのかな笑みがとても可愛らしく見えた。
それが昔の彼女の姿と重なってしまう。
「ねぇ星夜さん。美味しかった? 私、あれからずっと練習してるから、昔よりも何倍も美味しいでしょ」
そうやって、綺麗な白い歯を少しだけ見せながら笑う神楽さん。
あぁ、そうか。
彼女は俺が大学時代の初恋相手、そして仕事が忙しくて疎遠になった子だ。
携帯が壊れて、連絡先が分からずに疎遠になってしまった。
長らく忘れていた。
「紗奈ちゃん⋯⋯」
「ッ! や、やっと思い出してくれた。星夜さん。さすがに遅いぞ、思い出すの」
だって、昔と印象だいぶ違ったからね。
昔は茶髪でキリッとした、今とは真反対の子だった。
「だいぶ印象が違うから、思い出せなかった⋯⋯」
「だって、こう言うのがタイプだって⋯⋯星夜さん!」
「はい!」
「今後、探索する時は絶対に私の受付を使う事、私が居ない時は一緒に休む事、夜は私が作りに来るからね! もう、今のような生活はさせないから、絶対にね」
「は、はい」
「よろしい。それじゃ、帰るね。バイバイ」
「ば、バイバイ」
俺は同時に思い出した事がある。
とても重大な事を。
だけど、彼女からその件が出なかったので忘れているのだろう。
俺も忘れよう。
0
あなたにおすすめの小説
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
掘鑿王(くっさくおう)~ボクしか知らない隠しダンジョンでSSRアイテムばかり掘り出し大金持ち~
テツみン
ファンタジー
『掘削士』エリオットは、ダンジョンの鉱脈から鉱石を掘り出すのが仕事。
しかし、非戦闘職の彼は冒険者仲間から不遇な扱いを受けていた。
ある日、ダンジョンに入ると天災級モンスター、イフリートに遭遇。エリオットは仲間が逃げ出すための囮(おとり)にされてしまう。
「生きて帰るんだ――妹が待つ家へ!」
彼は岩の割れ目につるはしを打ち込み、崩落を誘発させ――
目が覚めると未知の洞窟にいた。
貴重な鉱脈ばかりに興奮するエリオットだったが、特に不思議な形をしたクリスタルが気になり、それを掘り出す。
その中から現れたモノは……
「えっ? 女の子???」
これは、不遇な扱いを受けていた少年が大陸一の大富豪へと成り上がっていく――そんな物語である。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる