滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

文字の大きさ
1 / 37

終わりと始まり

しおりを挟む
 戦争と言うのはなんだろうか。ただ争って、命を削り合い、結果意味の無い戦いになる。
 俺から見たら、ただの地獄だった。
 俺達の使う武器は所謂『旧式』である。
 そして、ごく稀に人間は『魔力』と呼ばれる特別なエネルギーを持つ。
 そんな魔力を使って扱う武器を『新型』或いは『魔道具』と呼ぶ。
 そんな俺も魔力を持って生まれた。だが、我が国は魔力を嫌い、魔力を使った発展はしていない。
 故に、新型の武器は無い。

 そして、今相手にしているのは、新型が発展し、最強の国となった相手だった。

「なんだよ、あれ」

 誰が発した言葉かは分からない。
 目の前に居るのを一言で表せば『巨人』である。目の前と言っても、とても遠くに居る。
 しかし、はっきりと見える。そんぐらいに大きい。
 そんな巨人が大きな口を開けて、そこに魔力を溜めて放って来た。
 それが、地獄の始まりだった。

「やば──」

 一瞬の光が全てを覆い尽くす。大地を溶かし、空気を振動させる。
 そして、積み重ねた経験も、築き上げた信頼も、憧れの先輩達も、大切な友達も、そして家族も失った可能性がある、そんな一瞬だった。

 ◆

 一夜にして俺達の国は終わった。
 たった一つの兵器により。
 何とか生き残った俺は生き残りの仲間を探している。
 衝撃波だけで気絶したので、辺りには死体が転がっていた。
 そう言いたかった。
 確かに死体はあるが、少し歩けば、抉れた大地が広がっていた。死体すら残らない一撃。殆どの死体は無いと思う。

「誰か! 誰か起きてないか!」

 俺の叫びに反応してくれる人は居ない。

 待て! 今回の戦には妹も来ている。
 違う部隊で、まだ新人だから後ろの部隊だ。

「はぁはぁ。ユウキ!」

「テオ!」

 テオ、俺の友人である。
 仲間の亡骸を見て、嫌な顔をする。今更死体を見ても、悲しみは来ても吐き気は来ない。

「なんだよ、アレ! 皆、あんなので、クソ!」

「⋯⋯生き残りを探そう」

「だな。ユウキはあっちを見てくれ」

「ああ」

 そして次々に生き残りが出て来る。
 兵器の攻撃を諸に受けず、衝撃波だけの人達だったのだろう。

「お兄ちゃん!」

「のわ!」

 後ろから飛びつかれた。
 死体の上に倒れそうになるが、それはダメなので、必死に耐える。
 涙を流しながら妹が喜んでいる。
 銀髪の前髪から覗く目は腫れている。

「ミアちゃんも、アヤちゃんも。皆、みんなああ!」

「サナ! 大丈夫、大丈夫だから」

 流石に隊長レベルの人達は居なかった。中心に居たので、諸に攻撃を受けたのだろう。
 取り敢えず、国に戻ると言う選択肢を取った。
 だが、見てしまったのはおぞましいモノだった。
 サナが膝から崩れ落ちる。
 予想はしていたさ。違うな。予想以上だ。だけど、やはり見ると辛いな。

「俺達の国には魔力持ちが生まれる事は本当に稀だ。そして、あいつらが望むのは魔力保有者。持たざる者は用無し、ゴミは処分される⋯⋯そう言う事か、クソっ!」

 老人赤ちゃん関係なく、殺されている国の姿だった。
 中に入って俺達が向かうのは王城である。

 王城を探索して仲間の一人が報告する。

「陛下は秘密の道から逃げていたよ」

「お兄ちゃん、私達の王様はクズだね」

「皆我が身が一番だ。そう責めるな」

 サナの頭に手を乗せる。怒りの顔は簡単には緩まなかった。
 そして、残った武器を掻き集め、各々の道を考える。
 家族を失った者は泣き叫び、友を失った人も泣き叫ぶ。
 俺も例に漏れず、泣いた。

 死んだ人を弔った後、また来る可能性があり、俺達は歩みを進める事にする。

「テオはどうすんの?」

「東の方に、従兄弟が住んでる村があるんだ。一応そこに向かう予定。ユウキ、お前らそう言うの居ないだろ? 俺と来ないか?」

「サナはどうする?」

「お兄ちゃんに任せるよ」

「そっか。ごめん。俺は違う場所に向かう」

「どこに行くんだ?」

「全ての生命が平和に暮らすって言う、理想郷アルカディア

「おとぎ話じゃねぇか」

「どうせ行先は無い。それに、お邪魔したら確実に俺らは迷惑だ。友にそんな迷惑は掛けられない。じゃ、また会おう」

「ああ。ちゃんと生きろよ」

 そして、俺達は宛のない旅を始める。

 ◆

 あれから何日経ったのだろうか?
 今は川で体を洗いながら服も洗っている。
 武器は剣とナイフとライフル、弾は120発って所だ。
 基本的に剣で獣を倒して、研石できちんと手入れする。

「お兄ちゃんに髪を洗って貰うの好きー」

「そっか」

 最初の方は暗い顔で毎晩泣いていたサナもだいぶ落ち着いて、笑顔が出る様に成った。それでもどこか、寂しそうだ。
 と言う俺も心のどこかで夢では無いのか、そう考えている。
 旅を通して、心が癒えると良いな。
 サナの裸を見ても何も思わない。妹だしね。

「にしても、旅にその体は不便じゃないか?」

「胸を削ぎ落とせと?!」

 それから串に肉を刺して、焼いて頃合いを見て食べる。
 肉汁しか味が無く、正直不味い。

「魔力持ちって言っても、所詮は体の作りが強固に成っただけか」

 サナも一応魔力持ちだ。
 判別方法は雑だがな。幼い頃から体が丈夫だったりと、魔力持ちは普通ではないのだ。
 例えば俺の黒髪、これは俺にだけ出た特徴だ。
 黒い目もそう。両親の顔は知らないので、遺伝かもしれんがな。

『おおお』

「「ッ!」」

 武器を持って木陰に隠れる。
 木々を倒しながら現れる大きな二足歩行の豚、魔物の『オーク』!
 初めて見たけど、めっちゃ大きい。
 鼻をヒクヒクさせながら俺達が泊まっていたテントを見る。
 不味いな。豚は鼻が良い。

 魔物は獣が魔力を持って生まれた姿だ。
 そして、魔物と魔物が交配して新たな魔物を生む。当然、環境に寄って魔物は進化を遂げる。

 オークはでっかい棍棒を持っている。
 ライフルは一丁で、今は俺が持っている。
 弾は確か二発装填されている筈。きちんとリロードしておけば良かった!

 妹にジェスチャーで合図を送る。
 背後から回り込んで相手の注意を集めてくれ、と。
 そしてどう受け取ったのか、大きく顔を倒してオークに向かって進む。

「へ?」

「行くぞぉ!」

「違ううう!」

 剣を抜いてオークへと肉薄するサナ。
 棍棒が空気を潰しながら振り下ろされ、それを髪一重で避ける。

 危なかっしいな。

 ライフルを構えて照準を合わせる。
 狙いは頭一発だ。

 サナが剣で攻撃し、返り血を受けない様に止まらない。
 横払いで振るわれる棍棒は跳躍で避ける。
 魔力持ちだから出来る、超高いジャンプだ。

「今だよお兄ちゃん!」

「サンキューサナ!」

 引き金を引いて、バンと言う乾いた音を響かせて、オークの頭を撃ち抜く。
 脳天一発だ。
 今は亡き、俺の憧れの先輩の一人から教わった銃撃の技術は高いと思う。
 だから、こんな土壇場でも見事に狙い通りに命中させる事が出来た。

「え」

「へ?」

 魔物は、魔力持ち。魔力持ちは強靭だ。
 そして、脳天を撃たれても、死なないらしい。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処理中です...