滅んだ国の元軍人兄妹冒険譚〜魔王レベルの魔力保有者は自由に異世界冒険を満喫する〜

ネリムZ

文字の大きさ
32 / 37

金次郎

しおりを挟む
 俺は平凡な社会人だった。通勤途中で事故にあい死亡した。
 そして、俺は違う世界へと転生したのだ。
 最初の方は驚愕とワクワクでいっぱいだったが、後々残した家族達の事が心配に成った。相手は心配してくれているか疑問だが。

 最初は単なる違う世界だと思ったが、途中から違うと分かった。
 この世界には魔法と言うのが存在する。二歳の時に魔力を自覚して、様々な魔法を覚えた。
 最初は魔法を使うのにも一苦労だったが、楽しみさや現実逃避も兼ねて沢山練習した。

 練習すると驚く程に魔法の扱いが上手く成るので楽しかった。
 そして、さらに途中から気づいたのだが、この世界は俺の知っているゲームの世界だと。
 最初に判明した原因はモンスターだ。
 この世の魔物と呼ばれるモンスター達とそのゲームのモンスターのデザインが酷似していた。
 攻撃方法などもだ。

 そこで、鏡を見る。そこに反射して映るのは当然、俺。
 だが、それは前世とは全く似てない。
 親が違うのだから当然だと思うのだが、それだけじゃない。
 その姿は、そのゲームで使っていたアバターそっくりなのだ。

 その時ようやく、ゲームの世界に転生したと分かった。
 自分の知っている国は無く、知っているダンジョンは少なく、だがスキル名を叫べば使える。
 そして、人は死ぬ。
 親、親戚、友達、全てがモンスターに寄って殺された。

 スキル、魔法、魔力、それらの才能を持ち合わせた俺だけが生き残った。
 辛い日々。
 近くに当然の様に居た存在が一瞬で消える喪失感。
 一度死のうかとも考えた。だけど、無理だった。怖く、そして他の思いも芽生えた。
 他にも俺のような目にあっている人が居ると考え、守りたいと思った。

 辛い事を知っているから、それを少しでも減らそうと考えた。
 それだけの力が今の俺にはあるから。それだけの知識が今の俺にはあるから。
 誰かに与えられた力でも構わない。
 人を守れるなら、幸せを守れるなら、なんだって構わない。

 俺は同じ様にこっちの世界に転生して来た者を探した。
 きっと他にも居るから。⋯⋯でも、簡単には見つからない。
 知っている国名が無いから、ストーリーがどうなっているのか分からない。

 それでも必死に生きて守って居たら、最悪の存在に出会ったんだ。
 今では強い装備も揃えて敵無しの状態、そんな時に俺は初めての転生者と出会った。
 仲間が増えた⋯⋯そう思っていた。

 だが、相手は違った。
 人を簡単に殺し、殺しを快楽として楽しむ狂人。
 許せなかった。
 人の幸せを潰してまで快楽を得ようとするそいつを。
 この世界はゲームの中に似ているが、ゲームでは無く現実だ。
 NPCだろうとこの世界では生きている人間だ。
 死んだら復活は出来ない。

 いや、正確には違う。
 特定の条件が成立していたら、俺は死者を蘇らせれる。
 だが、その条件を揃えるのに、狂人の殺り方と噛み合わない。
 あいつの剣は即死させた相手の血を吸収し成長する。
 そして、一定数の血液が無い場合、蘇生は不可能になる。

 余計に憤怒する。
 何処までも追い掛けて、そして止めると決めた。
 だが、俺は弱かった。
 倒せるタイミングで、最後の最後で殺すのを躊躇った。
 怖かったから。
 自分の手で人の命を終わらせる事がとても怖かった。

 精神的に弱い俺。だけど、相手を止めたいと言う気持ちもある。
 これ以上の被害は出してはダメだ。
 だけど、やっぱり口では「殺す」と言えても行動に起こせない。
 不甲斐ない。弱い自分が嫌いだ。

 ソロで冒険者ランクの最高に位置する黒星を得ても、嬉しくない。
 俺はたった一人の殺戮マシーンを倒せない弱い人間だ。
 モンスターはいくらでも殺せても、人間はどんな奴だろうと殺せない。

 何時しか、俺はこの世界で貰った名前を捨て、前世の名前を使っていた。
 金次郎、その名を使っていた。
 きっとまだ前世の俺が居て、この世界とは違う存在だと示す為に使っているのだろう。
 もう、当時の記憶はあやふやだ。

 だが、最近驚きの事が起きた。
 メインストーリーに大きく関わる重要人物のNPC、ユウキと出会ったのだ。
 知らない名前の国で出会った。
 だが、それよりも驚きなのは俺の知っているユウキと性格が全く違う事だった。

 国を滅ぼした相手に復讐する為に力を求め旅を続ける孤独の少年。
 プレイヤーに対してはアバターの特徴で呼び、名前なんて呼ばない。敬語なんて持っての他だ。
 自分さえ良ければそれで良い性格で、主人公であるプレイヤーと共に成長して行くNPC。
 彼を推しにする人は本当に多い。

 だからこそ、彼の裏設定と言うか、真の設定が驚愕だった。
 ラスボスとの戦いは驚きの連発だった。

 そして、今のユウキはどうだろうか。
 俺の知っているユウキでは無い。
 復讐に燃える孤独の人間では無い。
 人生を謳歌して、人に敬語を使え、名前もきちんと呼ぶ、普通の人間だ。
 しかも、隣には可愛い女の子が立っている。
 妹だと聞いて驚いた。

 この世界はゲームであってゲームでは無い現実だ。
 だからこそ、そこら辺の違いはあっても問題ない⋯⋯と思いたい。
 妹の存在はゲームでのユウキの設定と矛盾するのだ。

 だからこそ分からない。
 妹って言うのは多分間違ってない。だってアイツと似ているから。
 だけど、それだったら、あの子も大きな責務を背負っている。
 辛い現実が待っている。そう思うと悲しくなる。

 だけど、俺と彼らは関係ない。
 知っているストーリーと掛け離れていても関係ない。
 今、俺がやるべき事は同郷の狂人を止める事だ。
 ユウキの今が幸せならそれで良いだろう。無理してストーリーに戻す必要は無い。それがユウキの為だ。

 狂人はスキルの特性上夜を基本的に活動時間としている。
 そして、アイツを長く追い掛けていた俺だから分かる事もある。
 アイツは見つけた獲物は絶対に最後まで追い掛けて仕留める。
 つまり、狙いは子供。

 俺は陰ながらその子を護衛している。
 すぐさまアイツが来ても守れる様に。
 前回はユウキや誰かの協力があったから追い詰める事が出来た。
 だけど、最後のところで結界の範囲外に逃げられて、逃亡を許してしまった。
 だが、次はそうは行かない。

 俺はアイツを止める義務がある。責任がある。
 同じ転生者としての責務が俺にはある。
 ストーリーなんて関係ない。俺には俺の運命や責任があり、ユウキにも運命や責任がある。
 人の生きる道に口出しは無用だ。

 次こそ、決着を付ける。
 その為の準備は完璧に終わった。
 次は、問題ない。


 俺の準備に問題は無かった。
 問題だったのは、子供が標的だと言う決めつけだったのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

竜皇女と呼ばれた娘

Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ 国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...