能力者とダンジョンがありふれた世界の最高位迷宮管理者〜ようこそ神が救いし世界へ

ネリムZ

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一章 同格の管理者

42話 切り札

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「はぁ。はぁ。かは」

 全身が傷だらけだぜ。

 腹も深く裂かれ、口からは大量の血が出て来る。

『天音君。限界のようだね』

 金栗の声を聞き、俺は周りを見渡す。

 ボコボコに殴られる皐月、かなりの焼け跡が目立つタクヤ、自身の血に染まったミツル、鞭に絡まれて生命力が吸われているヤユイ。

『ふむ。一瞬で状況を把握したか?』

「か、ねくりさんよぉ! おまぇの、ぐふ。能力の、弱点、教えて、や、るよ」

『ほう?』

「それは、切り札は分からない、って、事だ」

 切り札は隠しておくもんだろ。

 それに、これまでの戦いで分かった事がある。

 今の俺達にはこいつらには勝てない。今、ならば。

 だから、越える。今の俺達を越える。

 みんなが危険な状態に成る前に。

「皐月! タクヤ! ヤユイ! ミツル! 解放するぞ!」

 空間が歪み、四枚のスペルカードが出現する。

「解放を宣言する!」

 四枚のスペルカードが砕ける。

 そして、スペルカードの破片が綺麗な光となり、それぞれに吸収される。

『なに?』

 余裕そうな声の金栗。

「俺達は負けねぇよ」

 回復のスペルカードを使い、ある程度は回復した。

 それでもかなりボロボロだ。

 俺は一枚のスペルカードを取り出し、相手に向ける。

「意味ないと分からないのではないだろ?」

「いや、お前だからこそ、意味がある」

 本当はこんなスペルカードは使いたくなかった。

 マリカに勧められて用意したカード。

「お前だからこそ、最悪の絶望を味わい、負けるんだ」

「は?」

「本当に使いたくなかった。こんな危険なカードは、使いたくなかった」

「何を言っている?」

 俺の意味不明な言動に寄って相手は挙動不審となる。

 俺の頬に涙が流れる。

「せいぜい恨め。金栗対策最悪の手札だ。スペルカード、ネオ、発動!」

「意味な⋯⋯」

 相手の耳、鼻、目、口、穴と言う穴から大量の血が溢れる。

 その事に相手は気づかない。

 相手は自分の受けた魔法的能力を瞬時に解析して反魔法を作成する。

 つまり、一つの魔法に対して二倍の情報を得てしまうのだ。

 スペルカード『ネオ』はそう言う奴にとっては最悪の手札。

 無駄なモノから優良なモノまで、幅広く大量な情報、一瞬で脳がオーバーヒートするレベルの情報を無理矢理与える能力。

 脳が機能停止した相手は、徐々に塵となる。

 最悪な手を使ってしまった。しかし、仕方なかった。

 今後の事を考えても、俺は成る可く動ける状態の方が良い。

 ◇

「な、なんだ!」

 白銀の二本の角、そして尻尾が生えた皐月。

「お主の事は結構気に入った。しかし、これで終わらせる」

「え、何?」

 急に喋る方が変わった皐月に対して警戒心を露わにする獣人。

「この一撃で葬る」

 大剣を獣人に向け、両手で持ち構える。

 先端を掲げて皐月は呟く。深く銀色に染まった瞳と髪の毛。

「ドラゴノイド、起きろ」

 大剣がドクン、と心臓が鼓動するかのような音を響かせて、刀身が少し開く。

 少し大きく成った大剣は茨の蔓を皐月の腕に絡みつかせる。

「はぁ。起きてそうそう飯か。良いだろう。その代わり、きちんと働けよ」

 普段の皐月よりも大人びた口調で、皐月は地を蹴った。

 獣人が認識した時には既に、皐月は目の前に居て大剣を振り下ろしていた。

(ま、まずい!)

 受け流しの体勢をとる。

 しかし、意味がなかった。

(う、動かせない)

「圧倒的な質量の前に沈め! ドラゴノイド・クラッシュ!」

「こんなの聞いてねぇぞおおおお! かねくりいいいい!」

 体の欠片すら残らないレベルで、粉砕された獣人。

 皐月の体から光が漏れ、それが一点に集中し、スペルカードを生成する。

「もう、無理」

 数年ぶりとなる本来の力の半分の力を解放した皐月はその反動で動けないでいた。その場に倒れた。

「筋肉痛かな? 痛いや」

 受け流し、躱されるのなら、それが出来ない程の圧倒的なスピードとパワーでねじ伏せる、さっきの皐月は正にそれだろう。

 皐月の本来の力の半分でも空間に歪みを出現させる程には大きな力だった。

 全力の半分の力でも、それだけの力がある。

 ◇

『ほう。綿が変わりましたか?』

「ええ。そうですね。それでは、一瞬で終わらせますよ。この体では、手加減が難しい。あまり戻らないものでね。さっさと封印したいのです」

 タクヤ、ミツルは本来の姿と力になっていた。

 タクヤの見た目はあまり分からないが、焼けていた部分が完璧に再生していた。

「行け、人形達。あの鉄くずを処理しなさい」

 指を向けると、糸で操っている人形達、総勢五万体がロボットに襲いかかる。

 ロボットを覆い隠す人形に対して、本気の炎を放射するロボット。

 しかし、燃えるどころか、ホコリ一つない人形達。

『何!』

「今の我々に、火なんて効かないですよ」

『く、来るなあ!』

 数の暴力で分解されるロボットは塵となった。

 タクヤの体から光が漏れ、皐月同様スペルカードに戻る。

「クク。全く体が動かない。リハビリを始めましょうか? いえ、この力を解放するのは怒られますね」

 皐月もタクヤも、最後の一撃に対しては、異能も能力も存在していなかった。

 圧倒的な力量の前に金栗は呟く。

「切り札は分からない、か。確かにこれは知りませんでしたね。ですが、動けないようですね。皐月とヤユイは全力のようには見えない⋯⋯タクヤとミツルは全力のようだが、このダンジョンに気を使って手加減をしているような⋯⋯。ふはは。面白い。やはり、最悪な展開はきちんと想像してみるべきだな。保険は重要、と。くはは! 天音君、君の本当の姿も見せて欲しいモノだ。もう分かっているんだよ。君の体の頑丈さは、アビリティを持っているから、管理者だから、そんな次元じゃない。その丈夫さは、既にモンスターの領域だ!」

 金栗はただ笑うのだった。
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