能力者とダンジョンがありふれた世界の最高位迷宮管理者〜ようこそ神が救いし世界へ

ネリムZ

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二章 能力専門学校

5話 外を歩むモンスター

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「ニシシ。ここが外! ここが天音様の故郷! そして、これがこの世の空気! ⋯⋯モンスターであるワイには不味いっすな」

 東京タワーの真上に立つのは、赤い髪に赤い服、マフラーも赤色。忍者の様な格好だが、全身真っ赤である。所々にコミカルな炎の模様や耳には太陽のピアスがある。

 夏の終わりかけの辺り、気温はまだ高いのにも関わらず長袖だ。

 彼女はモンスター、陽炎人族サンシャイン・ヒューマン、サシャである。

 朝、昼、太陽が出ている限り彼女の体力は無限であり、魔力は急速に回復し、明るい場所ならどこでも移動できる。

 さらに、召喚獣も使役しており、雑魚処理などは得意分野。

 ダンジョンでは朝の時間に合わせて光を出している。

 ダンジョン内の光を総管理しているのが、彼女サシャである。

 現在は昼、彼女は動物型人工人間から送られた情報を瞬時に理解し、一瞬で移動する。

 そこには海から這い上がった、六足歩行で体は細く、首はとても長い、変わった形のネッシーが居た。

「ここは海の領地から外れている。つまり、これ以上足を踏み入れるなら殺すぞ」

 ニコニコしながらサシャはモンスターに対してそう言うが、モンスターの答えはブレスの先制攻撃だった。

「ワイ、太陽の下、最強なり」

 しかし、太陽の下でもサシャよりも強い奴はそこそこ居る。

 ダンジョンの中ではそこまで戦闘に関わる事がないので、ここに来ての仕事で調子に乗っていた。

「くらえ! 太陽光線!」

 右手を手刀にして、モンスターに向かって振るう。

 日光を凝縮した高圧の熱線が手刀に合わせて、斬撃の剣筋を残してモンスターを真っ二つにした。

「海王様は海のモンスターをきちんと管理しませんからね。だからこの子のような犠牲が出るんですよ」

 彼女はアドベンチャーラー登録をしており、モンスターの死体も解体して売り払う。

 急にモンスターが減って、怪しまれない為だ。

 モンスターが自然発生するように成ってからかなりの年月があり、人も適応しており、被害は今の所なかった。

「もうすぐ日が落ちるな。交代だな」

 夜には夜月人族ムーン・ヒューマンのツキムである。

(夜行性のモンスターは特に凶暴性が増す。しかも好戦的、はは、めんどくさい。帰りたい。だけど、管理者に直々に選ばれたし、秋様にもお願いされたし、頑張るけどさ。はぁ、帰りたいよ。⋯⋯珍いな。街中に顕現するって)

 国内は管理ダンジョンの影響により、空気中の魔力、正確には魔力の素、魔素が薄い。

 だから、国内で魔力の塊である自然モンスターは最近では湧かない。

 しかし、今回は珍しく湧いた。

(めんどくさいなぁ)

 闇の中を移動してモンスターの場所に移動した。

 そこには絶叫する人間達が居た。急いで頑丈に作られているホテルへと逃げて行く。

「モンスターめ。ボッチが行きにくいホテル街で出やがって、死ね」

 闇を操作し、モンスターを縛り付けて、切り刻む。

「はは。⋯⋯次は沖縄ね。分かった分かった。五秒掛かるよ~。あれ? 君達の方が倒すの速くない? こっちの仕事増やさないでよ」

 独り言のように思えるその光景、彼女のマフラーの中には雀が隠れていた。

 その雀を経由して情報を得ているのだ。

 ツキムは愚痴を漏らして、本当に自分が必要になった時に連絡してと伝えた。

 最近では町中に入って来るモンスターが増えたが、モンスターの数自体が増えた訳ではないので、そこまで忙しくなかった。

 ◆

「あ、居た居た! 雪っち~」

「あ、千秋さん。今日はお呼びしてすみません」

「いいのいいの。無駄な外出は控えろって言われたけど、友達の誘いは無駄じゃないよね」

「なんの話ですか?」

「ごめんこっちの独り言。で、どこ行くの?」

「そうですね。静かな場所で話したいので、来てください」

 雪姫に案内されて千秋が来た場所は喫茶店だった。

 静かな場所で、レトロな雰囲気があり、心落ち着く場所だった。

「何百年前の造りなんだろ」

「ここは迷宮管理者が営んでいるです。あそこに国からの許可証明書が飾られています」

「ほんとだ」

 雪姫と千秋はそれぞれ飲み物を頼んで、千秋から本題に入る。

「で、相談って?」

「はい。実は、最近ギクシャクしている、その、知り合いが居りまして」

(天音かな?)

「そうなんだね。私で良ければなんでも聞いてよ」

「ありがとうございます。私、同年代の友達って千秋さんと⋯⋯しか居ませんから」

「そうなんだ、意外」

(天音は友達じゃないのか。ドンマイ天音。私の他にも誰か居るのかな? 言いかけてたけど)

「それで、その知り合いとは同じ目標を基に、仲間達と訓練したり、時には会議したり、食事をしていたんです。チームの同年代はその人しか居なくて、なかなかに楽しかったんです」

「うんうん」

「それで、このチームなら目標も達成出来る⋯⋯そう、本気で思っていたんです」

「そっか」

「だけど、その目標がその人で、その人が私達との関係が茶番だって知って、本当に悲しくて、⋯⋯その人とはそれから上手く顔を合わされないんです」

(うーん。難しい。どう返答したら良いんだろう?)

「そう言われたの?」

 雪姫は顔をふるふると横に振るう。

「いいえ。全く知らない他人が大声でそう言っていました」

「赤の他人の言葉を信じるの?」

 雪姫は両手で目を隠す。

「信じたくありません。いえ、普通なら信じなかったです。ですけど、その目標がその人なのは事実で、その事を隠して、今まで一緒に訓練とかしてたんです。その時のその人の表情、言葉、それらを思い出すと、どうしても信じてしまうんです」

「先入観ってやつかな? 一度そうだと思うとなかなか頭から離れないやつ」

「先入観かどうかは疑問ですけど、確かに、頭から離れませんね」

「雪っちはどうしたいの?」

「正直、分かりません。なので、相談に乗って欲しくて」

「なるほどね。で、その知り合いの事はどう思ってるの? 嫌いに成った?」

「分かりません。ただ、その人の事を見ると、その時の光景がフラッシュバックして、そこから紐ずる式で過去の思い出が蘇って、頭が混乱して、何を言いたいのか、何をしたいのか、全く分からなくなるんです。そして、顔を背けるんです」

「⋯⋯まずは話してみたらどうかな?」

「そうですね。全てをハッキリさせたいです。ですが、どんな顔で会えば、良いんでしょうか」

「ん~雪っち綺麗だし、すっぴんで行けば?」

「そう言うのじゃありません!」

 プリプリする雪姫。千秋はクスクスと小さな笑みを浮かべる。

「その顔、その顔で行けば、問題ないよ」

「え?」

「変に堅苦しい感じじゃなくて、そうやって素の雪っちで行けば良いよ。変にキャラ作りなんて止めて、自分のありのままで行けば良いよ。それを嫌うなら、そいつはその程度の奴なんだよ」

「⋯⋯」

「思いをガンツっと言って、これからの事を話し合って、それから考えても良いんじゃない? まずは思いを伝える事からだよ」

「⋯⋯」

「雪っちは良い人だよ。自信持って良い。だから、行ってこいな。君ならなんだって出来るよ。最大の武器、笑顔があるんだから。声があるんだから」

 千秋はそう言って、笑みを浮かべた。

「⋯⋯はい。頑張ってみます!」

「うん。頑張りたまえ。⋯⋯コーヒー、冷めちゃったね」

「ですね」
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