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向井君と羽場さんと乾杯
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織は今、寝ているものだと油断して話しかけた向井と目が合っていた。
「おかえり、織さん」
「あれ?あ、え、起きてたの?」
「起きました」
挙動不審な織は慌てて立ち上がり、カウンターから離れた。
「あの、あ、珍しいね、疲れちゃった?」
「いや…羽場、さんと、ちゃんと話せましたか?」
「うん。向井君のおかげだよ。ありがとう」
「…」
(いい笑顔しやがって)
向井は頷くだけの返事をして、心で毒づいた。
織はベッド下の収納から着替えとタオルを出しながら向井に報告を続けた。
「それで、明日その羽場がうちに来ることになって」
「!」
「羽場には向井君がいるって話してあるんだけど、別に会いたくな…」
そこまで言いかけて、織はカウンターにいたはずの向井が目の前に現れたことに驚いて止まった。
「明日ここに来るんすか」
「あ、うん。ごめんね急に」
「…それ、俺いない方が良くないすか」
「うん?そんなことはないけど、初対面だし興味ないよね。一応聞いとこうと思って」
「会いたいっす」
「え、ほんとに?」
織は意外な答えに驚いた。カウンターへ戻った向井の表情には気付かなかった。
-----
「はーい乾杯」
男三人は各々の缶ビールを掲げた。
「いやー、向井君だよね?ごめんね、おじさんが急に来たいってゴネちゃって」
「とんでもないです、僕こそ本当にお邪魔じゃないですか?織さんにはいつもお世話になっているので、ご友人にもお会いしてみたくて」
(誰なの)
きれいな向井は下宿中の好青年そのものだった。
「なるほどね、おるは社畜っててあんま家にいないからか。孤独死しそうだしむしろ助かるんじゃない?」
「そうだね、既にダウンしてるとき介護してもらった実績があるし、正直こっちが10:0でお世話になってると思う」
「織さんは頼りになるんですけど、働きすぎなんで心配ですね」
織の作った料理を囲み、和やかな時間が過ぎた。
羽場がいれば、向井を意識して挙動不審がちな自分も多少は自然に振る舞えるかもしれない。織の予想は当たった。
二人が織の話を好き好きにしてくるため、三者面談で生徒と息子の顔を暴かれているような気分だったが、ひとまず織は、この平和な時間を楽しんだ。
ただ、悲しいことに、その後すぐ、平和でない時間が訪れた。
それは、羽場が織に対して言った何気ないひとことが原因だった。
「まじで俺、お前が女だったら絶対お前と結婚したと思う」
「…はは」
(それ聞いて喜んだらいい?)
昔の自分だったら傷付いただろうなと、織自身はドライな頭で受け流した。意外だったのはその後だった。
「それ、どういうつもりで言ってんすか?」
にこやかな好青年は姿を消し、無表情ないつもの向井が羽場を睨んでいた。
「え?」
「…いえ、すみません。僕は織さんが男で良かったって思ってるので、つい」
いつもの向井はそこで消え、その後はまた丁寧な口調に戻った。
「羽場さんは女性になってもモテそうですよね」
「あーほんと?いや、今もモテないよ別に」
「いや…羽場はモテてた。女子にチョコ渡しといてって持たされたこともあるし」
不穏な気配を残しながらも、別の話に切り替わった場はそのまま別の話へと移り、再び和やかな雰囲気に戻っていった。
羽場を駅まで送る道中、織は向井のことを謝ろうか迷っていた。そこに、羽場が口を開いた。
「おる。さっきさ、ごめんな」
「えっ?何が?」
(そっちが謝ることあったっけ?)
織が羽場の方を見ると、眉尻の下がった羽場と目が合った。
「いや。お前が女だったら…ってさ、おるに言うのは違ったよなって」
「羽場…いや、自分は別に大丈夫よ?よくある冗談だって、向井君も分かってたと思うし」
二人は街灯の下で立ち止まった。他に通行人はいなかったが、羽場は声を落とした。
「あの子さ、おるがその…男性を好きって、知ってんの?」
「…うん。知ってる」
(あぁ、だからか)
「突っかかられたときはびっくりしたけど、いい子だな。おる、慕われてんじゃん」
納得顔の羽場とただ照れる織は、酔って熱くなった頬を夜風で覚ましながら歩いた。
織がずっと求めていた、羽場と友達として過ごす時間だった。
「おかえり、織さん」
「あれ?あ、え、起きてたの?」
「起きました」
挙動不審な織は慌てて立ち上がり、カウンターから離れた。
「あの、あ、珍しいね、疲れちゃった?」
「いや…羽場、さんと、ちゃんと話せましたか?」
「うん。向井君のおかげだよ。ありがとう」
「…」
(いい笑顔しやがって)
向井は頷くだけの返事をして、心で毒づいた。
織はベッド下の収納から着替えとタオルを出しながら向井に報告を続けた。
「それで、明日その羽場がうちに来ることになって」
「!」
「羽場には向井君がいるって話してあるんだけど、別に会いたくな…」
そこまで言いかけて、織はカウンターにいたはずの向井が目の前に現れたことに驚いて止まった。
「明日ここに来るんすか」
「あ、うん。ごめんね急に」
「…それ、俺いない方が良くないすか」
「うん?そんなことはないけど、初対面だし興味ないよね。一応聞いとこうと思って」
「会いたいっす」
「え、ほんとに?」
織は意外な答えに驚いた。カウンターへ戻った向井の表情には気付かなかった。
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「はーい乾杯」
男三人は各々の缶ビールを掲げた。
「いやー、向井君だよね?ごめんね、おじさんが急に来たいってゴネちゃって」
「とんでもないです、僕こそ本当にお邪魔じゃないですか?織さんにはいつもお世話になっているので、ご友人にもお会いしてみたくて」
(誰なの)
きれいな向井は下宿中の好青年そのものだった。
「なるほどね、おるは社畜っててあんま家にいないからか。孤独死しそうだしむしろ助かるんじゃない?」
「そうだね、既にダウンしてるとき介護してもらった実績があるし、正直こっちが10:0でお世話になってると思う」
「織さんは頼りになるんですけど、働きすぎなんで心配ですね」
織の作った料理を囲み、和やかな時間が過ぎた。
羽場がいれば、向井を意識して挙動不審がちな自分も多少は自然に振る舞えるかもしれない。織の予想は当たった。
二人が織の話を好き好きにしてくるため、三者面談で生徒と息子の顔を暴かれているような気分だったが、ひとまず織は、この平和な時間を楽しんだ。
ただ、悲しいことに、その後すぐ、平和でない時間が訪れた。
それは、羽場が織に対して言った何気ないひとことが原因だった。
「まじで俺、お前が女だったら絶対お前と結婚したと思う」
「…はは」
(それ聞いて喜んだらいい?)
昔の自分だったら傷付いただろうなと、織自身はドライな頭で受け流した。意外だったのはその後だった。
「それ、どういうつもりで言ってんすか?」
にこやかな好青年は姿を消し、無表情ないつもの向井が羽場を睨んでいた。
「え?」
「…いえ、すみません。僕は織さんが男で良かったって思ってるので、つい」
いつもの向井はそこで消え、その後はまた丁寧な口調に戻った。
「羽場さんは女性になってもモテそうですよね」
「あーほんと?いや、今もモテないよ別に」
「いや…羽場はモテてた。女子にチョコ渡しといてって持たされたこともあるし」
不穏な気配を残しながらも、別の話に切り替わった場はそのまま別の話へと移り、再び和やかな雰囲気に戻っていった。
羽場を駅まで送る道中、織は向井のことを謝ろうか迷っていた。そこに、羽場が口を開いた。
「おる。さっきさ、ごめんな」
「えっ?何が?」
(そっちが謝ることあったっけ?)
織が羽場の方を見ると、眉尻の下がった羽場と目が合った。
「いや。お前が女だったら…ってさ、おるに言うのは違ったよなって」
「羽場…いや、自分は別に大丈夫よ?よくある冗談だって、向井君も分かってたと思うし」
二人は街灯の下で立ち止まった。他に通行人はいなかったが、羽場は声を落とした。
「あの子さ、おるがその…男性を好きって、知ってんの?」
「…うん。知ってる」
(あぁ、だからか)
「突っかかられたときはびっくりしたけど、いい子だな。おる、慕われてんじゃん」
納得顔の羽場とただ照れる織は、酔って熱くなった頬を夜風で覚ましながら歩いた。
織がずっと求めていた、羽場と友達として過ごす時間だった。
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