【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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魔力測定試験だよ!

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 もう帰ろうとしちゃったけど、午後からは魔力測定試験だよ!

 キーアは抜けそうだった魂をあわてて呼び戻した。

 攻略対象の顔力がすごすぎる。
 何でも言うことを聞いちゃうよ!

 まだちょっと、はちみつの甘さと、はちみつの髪のふわふわさと、尖った唇でおねだりのダメージ99999! の衝撃がすごくて、頭がぽやぽやんだよ。

 でも、だいじょうぶ!

 魔法科の入学試験は、午前の学術試験と午後の魔力測定試験になっている。

 これで魔力が0だと、魔法科には入学できない。
 魔法の研究をするにも魔力が必要だからだ。

 じゃあ魔力測定を先にすればいいじゃん! って思うよね?
 それがこの世界では魔力0のほうが特異体質なんだな。

 世界に満ちる魔素みたいなのを吸いこんで生活しているので、皆、大なり小なり魔力がある。皆無な人はロデア大公国では滅多にいない。なので、魔力測定は魔力0でないことを確認する意味で行われるんだよ。

 朝一番の、頭が最も回転するときに学力試験を、お昼ご飯を食べて眠くなって、おねだり攻撃ダメージ99999でHP0でもだいじょうぶなときに魔力測定してくれる。やさしい!


 お昼をご一緒したルゥイ殿下は、ご公務なのかな? 呼ばれて別室に案内されていた。
 試験中なのに──!

「お疲れさまです……!」

 泣きそうになったら、頭をなでなでしてくれた。やさしすぎる。

 ひとりになったキーアは、魔力測定試験の会場である講堂に向かう。
 大公立学園の奥にそびえる、おっきな講堂に受験生たちが続々と集まってきて、人だかりだ。

 朝のラッシュみたいに人がたくさんいて、幾らおっきい講堂でも入りきらないみたいで、受験番号順に組になって、入れ替えて魔力測定しているみたいだ。

「受験番号1番から100番まで、第1組の方、受験番号順に並んでくださーい!」

 交通整理みたいに試験官が立っていて、10人ずつをまとめて並ばせて、10列で100人にして講堂に入れるらしい。
 78番のキーアは、7列目の8番目に、ちょこんと並んだ。


「ちっちゃ!」

「迷子かよ」

「間違って受験に来たのー?」

「ぷぷぷ」

 嘲笑が降ってきて、むっとしたキーアは、ふんと鼻を鳴らした。

 騎士科を受験したときは『迷子がいます──!』ほんとに心配してくれた人もいた。心配は、ありがとう!
 でも魔法科は、小柄な子も結構いる。
 キーアはそんなに飛びぬけて、ちっちゃい訳ではない。……たぶん。いや、絶対!

 成長途中だもん。
 ちっちゃくない!!!

 ぷくりと膨れていたら、低い声がした。

「あいつ、ルゥイ殿下と、いちゃいちゃしてたよな?」

「ただ単に席が近いってだけで勘違いしちゃってさ」

「うざ」

「ルゥイ殿下は、誰にでもやさしいんだよ」

「思いあがってんじゃねーよ!」

「爆発しろ!」

 うお!
 3度目だよー。

 確かに、ルゥイ殿下に、はちみつワッフルを分けてもらうとか、リアルが大変に充実していると思う──!
 主人公マェラ、なんかごめん。

 しょんぼりしていたら、低い声がした。

「殺す?」

 とろけるように甘い、腰砕けボイスが、大地を這ってます、ルゥイ殿下!
 剣呑に光るルゥイの瞳は、真剣だ。

 ……冬なのに、蚊でもいましたか、じゃ、ない……かも……?

 あばばばば!

「だ、だいじょぶです、ルゥイ殿下! 何にもされてないので!」

「ひどいこと、言われたよね?
 僕が、キーアを誘ったのに」

 はちみつの髪が、風もないのに舞いあがる。
 若葉の瞳に、いかずちのように、光が走る。

 グォァオォアアア──!

 噴きあがる魔力に、圧されるように硬直した受験生も、試験官たちまで、口をつぐんだ。

 音が、消える。

 ものすごい数の人がいるのに、音がしない。
 誰もが固唾を呑んで、ルゥイを見つめる。

「人を貶めるような暴言を吐く者は、大公立学園に、相応しくない」

 凍気をまとう声に、硬直していた試験官が頷いた。

「大公立学園の入学試験だということを忘れていた者がいるようだ。
 今、暴言を吐いた者たちは、帰りなさい。魔力測定試験を受験することを、許可しない」

「な──!」

「そんな……!」

「入学して風紀を乱されると面倒だ」

 鼻を鳴らす試験官に、ルゥイがはちみつの眉をあげる。

「受験はさせてあげたらいかがでしょう。『難癖をつけられて、不合格にされた』と吹聴されたら面倒です。
 正々堂々、不合格じゃないと。
 あんな言動をする者の学術試験の結果が、素晴らしいとは思えない」

 微塵も揺るがない完璧な微笑みのルゥイ殿下から溢れる膨大な魔力と、凄まじい威圧に、わあわあ抗議していた人たちが、カタカタしてる。
 試験官まで、カタカタしてた。

 一緒にカタカタしそうになったキーアは、あわあわルゥイを見あげる。

「ルゥイ殿下、ありがとうございます!
 おやさしいお気持ちだけで、充分です。俺だって『爆発しろ』って思っちゃうこと、あるので」

 紀太だって、かっこいー人を見せつけるみたいに、べたべたまとわりついて、いちゃいちゃしてる人に『爆発しろ!』思ったこと、何度もあるよ。
 イラっとして、つい口にしちゃうことだって、ある。

 だめだって、わかっていても、真っ暗な気持ちがあふれちゃうこと、ある。

 皆の憧れのルゥイ殿下の隣に、顔も名前もないモブがまとわりついてたら『はァ!?』ってなるよね。
 わかる!

「ルゥイ殿下が、あまりにかっこよくて、輝かしくて、受験番号が近い俺がものすごく地味だから、余計に腹が立ったんじゃないでしょうか」

「…………は…………?」

 ルゥイが、ぽかんとしてる。

 え、何が、『……は?』
『爆発しろ!』って思っちゃうなんてありえないってこと!?

「ご、ごめんなさい、俺、心狭くて──!
 つい、かっこいー彼氏がいる人とか、うらやましかったり、して……」

 もごもごしたら、ルゥイがちいさく笑う。

「かっこいー彼氏、ほしい?」

 覗きこんでくれるルゥイが、最高にかっこい──! です……!

「え、いや、あの……!」

 い、いちおー、伴侶(予定)がいます。すぐ予定じゃなくなると思う、けど……!

 あわあわするキーアの頭をなでなでしたルゥイが微笑む。

「ものすごく地味とか、ものすごくありえない言葉が聞こえたから、びっくりしちゃった。
 驚かせて、ごめんね」

 キーアの頭を、やさしくなでなでしてくれたルゥイが、暴言を吐いた人たちを振りかえる。

「……まあ、失言は誰にでもあるものだから」

 風もないのに、はちみつの髪が舞いあがる。
 若葉の瞳に、閃光が走る。

「でも、次、キーアに暴言を吐いたら。どうなるかは、わかっていてほしいな」

 微笑むルゥイから噴きあがる魔力の圧に、崩れ落ちた人たちが、泣いてる。



 キーアは受験番号78番で、ルゥイは77番みたいだ。
 目の前で、はちみつの髪が、ふわふわ揺れてる。

 魔力測定試験を受けるのに、ずうっとルゥイの広やかでかっこいー背中や、はちみつの髪や、ちょこっとのぞく耳や、うなじを見つめていていいとか、至福しかない──!

 思わず、拝んだ。
 反射です。

 気配でわかったのか、振りかえったルゥイが、楽しそうにちいさく笑ってくれた。

 うざくなかったら、うれしいですー。
 お願いだから、拝ませて!

 祈るキーアの向こうで、試験官が声をあげる。

「只今より、大公立学園、魔法科、魔力測定試験を開始する!
 受験番号順に測定を受けるように!」

 緊張の面持ちで進み出る1番の人を、キーアは見あげる。

 講堂の奥の壇上に、おっきな水晶玉みたいな魔道具が設えられていて、名前を呼ばれたら壇上にあがって測定を受けるみたいだ。

 1番の人が水晶玉に手をかざすと、ぴかっと水晶玉が赤く光った。

「おお!」

「ふむ、炎の魔法の適性があるようだな。魔力量も多い」

 試験官の声が聞こえる。 
 あの魔道具に手をかざすだけで、得意な属性と魔力の大きさが表示される仕組みになっているらしい。

「自信ある?」

 やさしく聞いてくれるルゥイ殿下が、相変わらず輝いてる──!

 学術試験のときも隣だったし、ルゥイ殿下の次の受験番号とか、一生分の幸運を使い果たしてる気がする……!
 モブなのに。いや、名前も顔もないモブだからだったね!

 リアルな3次元だと、ちゃんと試験が当然行われるけど、BLゲームでは試験も何もなく選択画面だけだったのは、主人公と攻略対象との絡みが全くなかったからなのかもしれない。

 ……いや、マェラ、ルゥイ殿下のお昼に全力でついてゆこうとしてたけど。
 めちゃくちゃルゥイにアピールしてたけど。

 ……BLゲームの世界っぽいけど、BLゲームの展開のままじゃないのかな……?
 ──もしかして、転生した紀太の記憶こそが、バグになってたり、する……?

 不安になるキーアの肩を、ルゥイの手がやさしく包んでくれる。

「だいじょうぶ。キーアに魔力があるのを感じるよ。きっと合格できるから」

 ちょっと不安そうにしてるだけで、励ましてくれるルゥイが、やさしすぎて、尊い──!

「ありがとうございます、ルゥイ殿下!」

 ありがたく拝んでいたら、どんどん列が減ってゆく。

「はい、次の人ー」

 試験官の声も気楽だ。

 見回してみたけど、ぴんくの髪が向こうで、ひらひらしてるくらいだ。
 あそこにマェラがいる、と思ったけど、ちょっと遠い。

 だから攻略対象ルゥイ殿下に近づく機会があまりなくて、すぐに入学式だったのかも。

 伴侶(予定)な悪役令息ネィトは、もっさりした闇色の髪なのだけれど、全然わからない。
 ぴんくはやっぱり目立っていいなあ。ひとりだけだ。遠くからでも分かるよ。さすが主人公!

「はい、次の人ー」

 皆、やっぱり魔力があるらしい。悲壮な感じになっている人は、ひとりもいない。

 この世界で一般的に使われている魔道具は、自分の魔力、ほんのちょこっとで大丈夫なんだけど、その魔力で機動させるので、魔力0だと魔道具が機動できなくて、特異体質なのが分かるみたい。

 でも、魔道具に触ったことがない人もいるかもしれないからね。

 魔法研究院とかに行くと魔力鑑定してくれるから、魔法を使いたい子は早くから自分の魔法の適正や魔力量を鑑定してもらうみたいだ。
 魔法陣や精霊語の詠唱の予習はできるからね。

 …………………………。
 キーアは何にもしなかったね。

 紀太の突っ込みに、前のキーアが項垂れてる。
 反省のポーズらしいよ。

 両手にドーナツを持って食べるのが仕事だったからな!
 きもちわかる!
 トマのドーナツは、おそろしいほど誘惑の食べものだ!


「では次、ルゥイ・トゥナ・ロデア殿下」

 おお! もう順番来た!

「がんばってください、ルゥイ殿下!」

 ……応援してから気づいた。
 手をかざすだけだったよ。はずかしい──!

 あわあわ火照る耳でうつむくキーアの顎に、長い指がふれる。

「がんばるね。
 ありがとう、キーア」

 顎クイで微笑んでくれるはちみつ殿下が、かっこよすぎる──!

「きゃ──!」

 燃える頬でもだもだした。

 ちいさく笑ったルゥイが、大きな透明の珠に手をかざす。

 パァアァアアア──!

 虹に輝くひかりが、ほとばしる。

「わぁ──!」

 あふれる色とりどりの光と、皆の歓声と拍手が、広やかな講堂に満ちてゆく。

「光、炎、風、地、水、五属性の魔法の適性があられます。魔力量も膨大、魔導士として最高の資質です、殿下」

 魔道具を確認した試験官まで、うっとりしてる。

 五属性も魔力最高も知っていたけど、目の前で見たら感動した!

 ルゥイと一緒の、きらきらの光だったよ。


「ルゥイ殿下、すごいです!」

 拍手したら、ほんのり朱い頬でルゥイが笑ってくれる。


「次はキーアだよ、がんばって」

 やさしく頭をなでなでしてくれる。

 はちみつの髪もきらきらのルゥイ殿下のなでなで、尊い──!

 モブなのにごめんなさい!
 目の前の人にやさしいんだよね、さすが攻略対象第一位のルゥイ殿下!

 あふれそうなよだれを、あわててぬぐった。


「では次、キーア・キピア!」


 ぴょこんとキーアは跳びあがる。







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