【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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出陣!

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 ちっちゃな家に帰ってきたキーアは、ヤエが貸してくれた服を着てみた。

 ふつうのシンプルの白いシャツに、魔法の糸らしいもので、きらびやかな模様が刺繍されている。

「魔力を、流す……」

 首をひねったキーアは、身体のなかにある魔力が、こう手からみょーんと流れだすのを想像してみた。

 みょーんが服に伝わって──ぴかぴかするのに目を剥いた。

「おお! 光ってる! すごい! これ、魔力が流れてるってこと?」

「素晴らしいです、キーアおぼっちゃま!」

 ビカビカ色が変わってゆく服に、見守ってくれていたスーパー従僕トマが拍手してくれる隣で、おじいちゃん執事ヨニが首を傾げた。

「キーアおぼっちゃま、これはちょっと、色が激しく変わりすぎなのでは? もうちょっと細く細く、ゆっくり魔力を流したほうがよろしいのではないでしょうか」

「なるほど! 細く、長く、ゆっくり、ゆっくり」

 みょーんと出そうとしていた魔力を、しゅー、と、ちいさくゆっくりにしてみる。

「おぉお! さすがキーアおぼっちゃま!」

 きれいな虹色に、ゆっくり色が変わるようになったよ!
 なんか、すんごいネオンサインを着てるみたいだけど、本番の服はこうじゃないよね……!

 信じてるよ、ヤエさま──!




『仮縫いの服ができたから、来てー』

 郵便屋さんがヤエの手紙を届けてくれたのは、すぐだった。

「はっや!」

 びっくりしたキーアは、さっそくトマとヨニと一緒に公都の奥にひっそりたたずむ、ヤエのお店に向かう。

 カラカラン

 鈴が鳴って、唇に針をくわえたヤエが、手をあげた。

「いやもうなんか、キーアが俺の服を着てくれるって思ったら、楽しみで楽しみで、手が速くって!」

 着せてくれた服は、すべてが仮縫いで、ちょっと間違うと糸が切れてしまいそうなのだけれど、まち針とかが絶対に刺さらないように、抜いてくれている。やさしい。

「うわ、これだけ腰絞っていいのか♡ なるほど。腰も足もほっそいなー♡」

 とろけるような笑顔で鼻歌のヤエに、キーアの肩は、しょんぼり落ちる。

「……お肉が買えなくて、筋肉がつかなくて……」

 切ない!

「いやこの引き締まった身体、最高でしょ! これで本縫いするから、あんまり太ったり痩せたりしないでね。最高に仕上げたいから」

「……え、いや、それ、むずかし……」

 引きつるキーアを励ますように、トマが胸を叩いてくれた。

「大丈夫です、キーアおぼっちゃま! 体重制御は俺が!」

 さすがスーパー従僕トマ!
 ご飯も筋トレも鍛錬も監督してくれてるから、お任せしておけば、間違いなし!

「ギリギリまで刺繍するから、当日に店に来てくれる? 着つけと化粧もさせて。完璧に仕上げたいから」

 微笑んでくれるヤエに、仰け反った。

「そ、それは鬼課金コースでは……! 払えるお金ないし、申しわけない──!」

 あわあわするキーアの額に、ヤエのひとさし指がふれる。

「だから、キーアには俺の広告塔になってもらうの。完璧に仕上げなくてどうするの。
 キーアのためでもあるけど、俺のためだよ」

 やわらかそうなベージュの髪を揺らして笑ってくれる。

「お肌と髪に気をつけて、たっぷり寝て、たっぷり食べて、よく運動して、健やかにいてください」

 とろけるような微笑みが、やさしい。

「が、がんばります! たぶん、つやつやにしてくれます、トマとヨニが!」

 スーパー従僕と、スーパー執事だから!

「お任せください、キーアおぼっちゃま!」

「限られた資金のなかで、最高のものを召しあがってください!」

 トマとヨニがやる気だ!
 ありがとう!

「ヤエさまも、あんまり無理しないでね」

 仮縫いが仕上がるのがあまりにも早かったし、心配で思わず手を握ったら、ヤエのベージュの瞳が瞬いた。

「やっぱりこれ、脈ありなんじゃ♡」
 
 トマとヨニが、剣を抜きそうになってる。





 完璧なトマとヨニの調整のおかげでキーアは、お肌もつやつや、髪もさらさら、顔も名前もない、今だけは……! 身長もないモブの、たぶん限界です、ありがとうございます!

 しあがったら、大公殿下主催の、舞踏会だよー!

 き、緊張する……!

 伴侶(予定)に逢うんだよ。

『今までごめんね』って謝って、伴侶(予定)を解消!
 お互いに自由になって、大公立学園での学園生活を楽しもう!

 悪役令息が応援してほしいなら、応援してあげるよー。
 主人公も!
 中立になれたら、うれしいなー。

「キーアおぼっちゃま、そろそろヤエ殿のお店に向かいましょうか」

 髪をすいてくれたヨニに、カチコチな頬で頷いた。

「……い、行こう、か」

「だいじょうぶですよ、キーアおぼっちゃま。めちゃくちゃ、かわいーです!」

 トマが拳を握ってくれる。やさしい。

「うれしいけど、でも『かっこいー』が、いい」

 ちょっとふくれる頬に、トマもヨニも、3歳のお子さまのわがままを聞く瞳で、とろけるように笑ってくれた。



 キピア家にあることが不思議になるけど、たぶん先代の時にしつらえた馬車をトマが出してくれて、ヨニと一緒に乗りこんだ。

「……はー……緊張する……」

 口から心臓が出そうだよ。

 入学試験の時より、緊張してそう。
 騎士科のときも、魔法科のときも、手がぶるぶるだったね。思いだした。

「キーアおぼっちゃま、ヤエ殿のお店に到着いたしました」

 しゃっと御者席から降りたトマが、馬車の扉を開けてくれる。
 ヤエのお店の扉も開けてくれて

 カラカラン

 澄んだ鈴の音が迎えてくれた。

「いらっしゃーい!」

 にこにこ出てきてくれたヤエが、固まった。

「…………うわあ…………」

 ベージュの瞳が見開かれて、止まる。
 息を、してない。

「え、なんですか、その反応──! こわい!」

 泣きだしそうなキーアに、ヤエが、ぽかんとしてる。

「……なにこれ。……やばい。……え、俺の服が負けるとか、ありなの?」

 茫然としてるヤエの目が、泳いでる。

「現在のキーアおぼっちゃまの、最高値かと」

「会心の、しあがりです!」

 ヨニもトマも、胸を張ってくれる。

「えへへ、トマとヨニのおかげで、髪、さらさらで、お肌、もちもちなんだよ。
 さわる?」

 ベージュの瞳が、まるくなる。
 耳まで深紅に染まったヤエが、飛びあがった。

「なにこの子──! 大人を誘惑してくるんだけど──! ちょ、手を出したら俺が犯罪者じゃないか──!」

 真っ赤な頬で、もだもだしてる。かわいい。


「ヤエ殿、舞踏会のお時間がございますので、お支度を」

 ヨニにうながされたヤエが、朱い頬で立ちあがる。

「……わ、わかった。……うわあ、もっと刺繍を張りこんでもよかったなあ。キーアが可愛いのはわかってたけど、まさか、ここまでとは……あと2刻あったら刺繍を足すんだけど……」

 ぶつぶつ呟いてるヤエが、くやしそうに吐息した。

「……ごめん。キーアを最高に魅力的に見せる服をつくったつもりだったけど、今のキーアには負けると思う。
 服は着る人を引き立たせるものなのに、着る人に引きたててもらう服だなんて、ほんとにごめん。最初に謝っておく」

「ヤエさまの服を着られるだけで、至福ですから──!」

 ぴょこんと飛び跳ねて両手を掲げるキーアに、トマとヨニの、ヤエの目も、3歳のお子さまを、やさしく見守る目になってる。


 ヤエは、プロだった。

 わー♡ きゃー♡ しながら、着つけてくれて、メイクをしてくれ、髪のスタイリングをしてくれる。

「……はー、かんぺき。……すごい。芸術」

 渾身の力作が完成したように拍手するヤエに、ヨニもトマも拍手して、キーアも一緒に拍手した。

 鏡のなかの自分が、なんか、違う自分になってる。


「……ヤエさま、すごい……」

 これが鬼課金の実力か──!

 あれだよ、使用前 → 使用後

『別人だろぉおオ──!』クオリティ!


「これ、今から馬車とか乗るんだよね?」

 首を傾げるヤエのベージュの髪が、ふわふわ揺れた。

「はい」

「大公宮に行って、踊ったりするんだよね?」

 そうだよ、トマとヨニと一緒に、ダンスの練習も、ちゃんとしたんだよ!

 ……前のキーアは、ダンスなんて、ちっともしなかった。
 踊ったこともなかったし、ダンスを覚える気さえなかった。
 舞踏会に行っても、壁面にしつらえられたバイキングに夢中で、両手にケーキを持って、食べかすをくっつけてたよ。

 そりゃ、伴侶(予定)やだって言われるよ──!

 前のキーアがちっちゃくなってる。
 一緒に反省しような。

「踊れるようになりましたー!」

 えへん!

 胸を張るキーアに、とろけるように笑ったヤエが、顔を引き締める。

「俺も、ついてっていいかな?」

「え?」

「舞踏会。キーアの従者として。謝罪するんだろ? 直前に、乱れてたら意味がないから。最高のキーアにしてあげる」

「……え、え、迷惑、なんじゃ……」

 あわあわするキーアに、ヤエが微笑む。

「こんなに可愛いキーアの隣にいられるなんて、しあわせしかない」

 とろけるようなあまい声で囁かないでください──!

 ヤエさまルートがないのは、やっぱり運営、最大の手落ちだ──!


「従者は3人まで連れてきてよいとのことですので、一緒に参りましょう」

 ヨニが微笑んで、ちょっと唇を尖らせたトマも頷いてくれた。
 トマが、かわいい。

「キーアおぼっちゃまを、可愛くしてくださるから、ですからね」

「わかってるよ、トマ。もー、かわいーんだから♡」

 トマの頬に ちゅ♡ しそうなヤエを、ちっちゃな身体を押しこんで、あわあわ阻む。

「ヤエさま! トマは俺の大事な大事な従僕ですから! お遊びとか、真剣に絶対にだめですから──!」

 両の拳を握って叫んだ!

 きょとんとしたヤエが吹きだして笑って、真っ赤になったトマが、とろけそうに笑ってくれる。

「ありがとうございます、キーアおぼっちゃま。お仕えできて、しあわせです」

「俺も、トマがいてくれて、とってもしあわせだよ! 勿論、ヨニも!」

 3人でぬくぬく抱きあって、笑った。


「はいはい、こういう時にね、俺が要るんだな」

 乱れた髪や服を、しゃしゃっと戻してくれる。

 さすがプロ!


「じゃあ、大公宮へ?」

 首を傾げるキーアに、スーパー執事ヨニが首を振る。

「いえ、高位貴族であられるトリアーデ家へ。伴侶(予定)のネィトさまをお迎えに参ります」


 来た──!

 久しぶりの、再会です──!





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