【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ

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紫の瞳

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 伴侶(予定)なネィトを守るキーアの背に、ちいさな声があたる。

「……きーちゃん……♡」

 ちっちゃい、真白なうさぎが、ふるふるしながら見あげてくれるみたいなネィトを抱っこしたくなって、困る!

「……キーア……?」

 ルゥイ殿下の目が、こわいです。

『紫の目が、魔物の目というのは迷信だ』キーアの進言に、緑の瞳を瞬いた大公は、首を振った。

「いや、迷信というわけではない。ロデア大公国では有名な話なんだが──」

 前のキーアが、ダラダラ変な汗をかいてる。

 何にも勉強しなかったからね。
 知ってる。

 まあでも、BLゲームの強制力があったのも大きかったと思う!
 いくらなんでも、ほんとにトマのどーなつを食べることだけに命を懸けてたわけじゃないよね……?

 ………………。

 まるい背中がぷるぷるしてる。

 ………………前のキーアも紀太も、たぶん一緒の人なので、あまり突っこむのはやめておこう。うん。

 困るキーアをわかってくれたのだろう、眉をさげたルゥイが教えてくれる。

「紫の目というのは、非常に高い魔力を持つ者に現れることが多いんだ。紫の目をしているということは、魔力が高いと思って間違いないほどに」

 紀太はBLゲームの記憶を思いだす。
 確か主人公は光の魔力が、悪役令息ネィトは闇の魔力が高くて、いつもバチバチ決闘してた。
 ゲームでは可愛い主人公と、もっさりな悪役令息との戦いで、いかに悪役令息をぽこぽこにするか、が楽しかったのだけれど。

 ネィトが、かわいい。
 びっくりするくらい、かわいい。

 このふたりが戦うなんて、ねこぱんちみたいだよ!

 かわい──!
 是非見たい!

 じゃなかった!

 そう、悪役令息なネィトは、魔力が高かった。
 魔法のお勉強を怠ると、主人公がぽこぽこにされちゃうくらいに。

 紀太が大すきだったBLゲーム『悪役令息と決闘だ!』のネィトは、主人公と堂々と戦える、ハイスペック悪役令息なのです。

 主人公と戦えるんだから、魔力も相当高いと思う!

「髪の色は、自分の魔力を反映することが多い。闇の髪に、紫の瞳、ネィトは高い闇の魔力を持っていると思う。大公立学園、魔法科の入学試験では、どうだった?」

 ルゥイの問いに、ネィトは紫の目を伏せた。

「……闇の魔法の適性が……魔力は、膨大って……」

 ちいさくなるネィトを励ますように、キーアは胸を叩く。

「だいじょうぶ、ネィト! 俺もおそろいだよ!」

「そ、そうなの……!? きーちゃん、僕のこと、こわく、ない……?」

「当たり前だよ! ネィトは俺の伴侶(予定)なんだから!」

「きーちゃん──!」

 抱きついてくるネィトを、ぎゅっと抱きとめたら、目の前のルゥイと、後ろのレォから、凍気があふれた。

 ……大公殿下からまで、凍気があふれてくる気がするんだけど、気のせいかな……?

「大公殿下の御前だ。控えなさい、ネィト」

 ルゥイの声が、地を這ってる。

「……はぁい」

 ぷくりとふくれたネィトがキーアに抱きつく腕をほどいて、きゅっと手を握ってくる。

 キーアのほうが、ちょこっとだけ背が高いから、ほんのり上目遣いで見あげてくれるネィトの頬が、ほわほわ赤い。

 かわいい。

 伴侶(予定)が、かわいいです──!

 もだもだしたら、凍気が刺さってきたので、キーアはあわてて背を正した。

「ネィトは魔力が高いというだけで、魔物であるわけではありません! 魔力が高いことは賞賛されるべきもので、卑下されたり、差別されるべきものではないと思います」

 まっすぐ告げるキーアに、ルゥイも大公殿下も頷いた。

「紫の目を持つ者は、魔物に愛されるんだ」

 ルゥイの言葉が、魔族に聞かれることを恐れるように、ひそやかに落ちた。

「…………え……?」

 キーアの手を握る、ネィトの指が、ふるえてる。

「闇の髪に、紫の瞳を持つ者には、魔物が寄ってくる。魔王の愛を受けることさえある。──迷信ではなく、建国してほどないロデア大公国で魔王にさらわれた者がいる。紫の目の者を守ろうとした者たちが魔王の逆鱗にふれ、村ひとつが亡んだ。……150年ほど前の話だ」

 広やかな大公宮が『魔王』の名におびえるように、静まりかえる。

「だから、無力なあがきかもしれなくても、紫の目を持つ者は、目を隠すんだ。魔王に、さらわれることのないように。周りの者を滅ぼさないように」

 だから『何かあった時のために』ネィトは、ひっそり、潰れそうな離れに押しこめられて、暮らしてた……?

 うつむこうとするネィトを、キーアは抱きしめる。

『悪役令息と決闘だ!』は主人公と悪役令息の戦いを楽しむゲームであって、魔王とか勇者とか、そういうRPGゲームじゃなかった。
 BLゲームだよ。

 だから、きっと、だいじょうぶ!

「それは『魔王に愛された者が、たまたま紫の目で、魔王に反逆した人たちが滅ぼされた』という事実であって『紫の目を持つ者が、魔王に愛される』わけではありません!」

 目の色で、このみなんて決まらないよ!
 たぶん。
 魔王のこのみは、わからないけど。紫の目は特別おいしいとか、可愛いとかあるのかもしれないけど、違うんじゃないかなあ。たぶんね!

「さらに『紫の目は、魔物の目』だなんて、酷い言い掛かりです! ネィトにそんなこと、もう絶対言わないでください」

 キーアは、残念ながら今はちっちゃな胸を張った。

「ネィトを悪く言うなら、大公殿下だって、俺が、ぽこぽこにしちゃいますから!」

 ちっちゃな拳を掲げた。

「……きーちゃん……」

 紫の瞳から、あふれる涙を、抱きしめる。

「俺が、ネィトを守るから」

 伴侶(予定)だからね。
 予定は未定だけど。

「魔王には、さすがに負けちゃうかもしれないけど。魔王さま、意外にいい魔族かもしれないよ?」

 だいたい悪役令息とくっつく魔王は、誤解されてる、いい魔族なんだよ!
 魔王×悪役令息とか、最高じゃない?

 異種族伴侶だよ、最高──!


「…………きーちゃん…………?」


 不穏な空気を感じとったらしいネィトの目が、うろんになってる。






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