【完結】悪役令息の伴侶（予定）に転生しました

門

「はー♡　みー、かわい──♡　ふあふあ、もふもふだよ！」

　抱っこして、もしゃもしゃ、なでなでするキーアに、みーがくすぐったそうに耳をぴこぴこ揺らしてる。

『えへへ。なでなでー？』

　おお！　ちっちゃくなって、キーアの魔力に包まれて、瘴気を放たなくなったみーの声が、うわんうわん、不思議な響きが消えて、聞こえやすくなったよ。

　キーアと契約してくれて、魔力が段々なじんできたからかもしれない。

　ちっちゃくなってくれても、キーアからすると充分おっきなふわふわもふもふな、みーに、とろける顔で笑う。

「なでなで！」

　ぎゅむぎゅむ抱っこしたら、みーのしっぽが、ぽふぽふ揺れる。

『……きー？』

「うん！　きーちゃん。キーア・キピア。
　みーのともだち。よろしくね！」

『ともだち……！』

　みーの目が、きらきらしてる。

「もしかしたら、俺のはじめてのともだちかも……！　きゃー！」

『みーも、ともだち、はじめて！　きゃ──！』

　ふあふあの前足で抱っこしてくれました！


「みー、かわいー！　だいすき！」

『きー、だいすきー！』

　ぎゅむぎゅむ、ふあふあのみーを抱っこして笑ったら、ネィトもルゥイもレォも、何ともいえない顔になってる。かわいい。


『……なんか、誰も突っこまないから、俺が突っこむんだけど。……きー、魔物と契約するのも、すんごいけど。
　魔物とともだちって、かなりありえないことしてる自覚、ある？』

　風さまの目が、遠くなってる。


『みー、かわいー！』

　炎さまの火花が、ぱちぱちしてる。




「……え、はじめてのともだちって……」

　ルゥイがしょんぼり眉をさげるのに跳びあがる。


「え、あ、あのあの、ともだちって、思っても、いい、のか、な……？」

　そうっと聞いたキーアの前で、ルゥイの肩に手を置いたレォが首を振る。


「ともだち認定は、範疇外通告に等しいぞ」

「ぐぅ……！」

　うなったルゥイが、キーアの手を両の手で握ってくれる。


「ともだち以上になれるように、がんばる」


　……ともだち以上……親友……！？


『きゃー♡　きゃー♡』しそうになったキーアは、あわあわ止まる。


「えへへ。親友になれたら、めちゃくちゃうれしい」

　とろけて笑ったら、ルゥイもレォも、ネィトまで、複雑な顔になってる。





『魔界に帰るの、もういませんかー！』

　呼びかけてくれる闇さまの輪郭が、びよびよだよ！


　そうでした、大変な魔法の最中でした！　ごめんなさい！

　あわあわキーアも声を張る。


「魔界への門、閉じますよ──！　魔界に帰りたい方は、おはやくどうぞ──！」

　大声で叫ぶキーアの肩から、風さまが舞いあがる。


『声を届けてやる！』

　ヒュアァア──！

　風が、吹く。

　やわらかに、なめらかに、キーアの声が、のびてゆく。


「魔界への門、閉じますよ──！　魔界に帰りたい方は、はやく来てね──！」

　風さまの力で、キーアの声が、世界を渡ってゆく。



　ゴゴゴゴゴ……！

　山が、動いた。

　地獄の天蓋と呼ばれる、エベレストを越えそうな山脈の向こうから、真っ暗な波のように魔物が駆けてくる。

　ドドドドドド──！

　地響きを立てて、世界が揺れる。

　地さまがちょっと眉をしかめて、光さまが目印みたいに手を挙げてくれた。


　押し寄せてくるたくさんの、たくさんの魔物たちは、魔界に帰れなくて困ってたみたいだ。かわいそうに！

　波のようにやってきた魔物たちが、魔界の門を越えてゆく。


『ありがと──！』

『あな──！』

『またね──！』

　前足や、触手や、枝を振ってくれた。



「またね──！」

　大きく手を振りかえすキーアの頭のうえで、闇さまの輪郭はびよびよだ！


『閉じるよ、きー！』

「はい！　ネィト、もうひとふんばり！」

「がんばる！」

　闇さまと、ネィトとキーアは手をつなぐ。

　皆といっしょなら、どんなことだって、できる気がするんだ。


　キュアァアァ──！

　闇の力が、吹きあがる。

　魔界の門が、閉じようと動きはじめた時だった。

　門の向こうに、巨大な深紅の目が、開く。


「ぎゃあぁアア──！」

　思わずびっくりしたキーアの向こう、ネィトを、深紅の目が射た。


　巨大な眼球が、こちらの世界を覗いた。


　ただそれだけで、甚大な瘴気が噴いた。

　この世界を、魔界へと塗りかえるほどの、すさまじい瘴気が世界を染める。



『……ムラサキ、目』


　低く、低く、歪み、たわむ声が、世界を揺らした。