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ふーいん!
しおりを挟む吹きつけるすさまじい瘴気まで、魔王さまが、やさしい方だとわかっただけで、やわらかになった気がする。
気もちひとつで、世界は変わる。
気もちひとつで、人は変われるように。
顔をあげたキーアに、深紅の瞳が瞬いた。
『名前ハ?』
ふしぎな声だ。
頭の奥に響くように、深く、低く、揺れて、たわみ、世界を揺らし、染みとおる。
恐ろしかった声まで、やさしく聞こえる。
「キーア・キピアです、魔王さま。愛称は、きーちゃんです!」
名乗ったキーアは、深く頭をさげる。
「ネィトとゼァル将軍に、祝福をありがとうございます」
お礼と
「今までの非礼と無礼を、心からお詫びします」
謝罪に、深く、深く、こうべを垂れた。
「紫の目の人を、ロデア大公国の皆で守ります。
もう二度と、魔王さまが心配しなくてもいいように!」
胸に手をあて、膝をつき、頭をさげて最敬礼するキーアの頭に、巨大な鉤爪が、ぽふりと乗る。
『きーニ、祝福ヲ』
闇が噴く。
あたたかな、やさしい闇が、きらめくように舞いあがる。
すさまじい力だった。
呑みこまれたら自分じゃなくなってしまうような、畏怖をおぼえる力が噴きあがる。
こわい、なのに、あたたかで、やさしい。
魔王さまみたいに。
キーアを守るように輝いた闇が、世界に溶けて、消えてゆく。
「あ、ありがとうございます、魔王さま!」
顔も名前も声もないモブなのに!
悪役令息なネィトとゼァル将軍のおまけで、魔王さまの祝福をいただいてしまいました……!
『ザィハのしゅくふくー! よかったねー、きー!』
みーが、前足で、ぽふぽふしてくれる!
かわいー♡
もちろんぎゅむぎゅむ、抱っこです!
魔王さまのお名前は、ザィハさまみたいだよ。
「よかったー! 祝福、うれしい! ありがとうございますザィハさま!」
深紅の瞳が、瞬いた。
きらきらしてる。
ちょっと喜んでくれたみたいだ。うれしい。
『ザィハ、ぼく、きーと、いっしょ、こっち、いるー』
しっぽをぽふぽふした、みーが、前足をあげる。
「みー、ほんとに帰らなくてだいじょうぶ?
魔界の門、あんまり開けないから、長い間帰れないかもしれないよ」
『まかい、きー、いないー』
「うわあん! みー!」
ぎゅむぎゅむ抱きしめたら、おっきなしっぽで包んでくれました。
「一緒にいようね」
『きーと、いっしょー!』
おでこをくっつけて、笑う。
ふあふあのみーの、前足としっぽに、つつまれる。
至福だ……!
うっとりするキーアの向こうで、深紅の瞳が、心配そうに瞬いた。
『石化、人間、ビビル。殺シニクル。気、ツケテ』
『せきか、ふーいん! きーと、いっしょ、だいじょーぶ!』
ぽふぽふしっぽを振るみーの向こうで、深紅の瞳が、きらめいた。
『も、限界……!』
ふるえる闇さまの向こうで、魔界へと繋がる門が、閉じてゆく。
「わあ! ご、ごめんなさい、闇さま……!」
あわあわキーアは闇さまと一緒に手をかかげる。
ネィトもあわあわ戻って、一緒に手を繋いだ。
「心配と祝福を、ありがとうございます!
みーも、ネィトも、ゼァル将軍も、皆といっしょに、しあわせになります──!」
大きく手を振って、笑った。
深紅の瞳が、輝いた。
闇の魔力が、闇さまから、キーアから、ネィトからあふれてく。
吸いこまれるように、喉を圧しひしぐほどの瘴気が、消えてゆく。
異界のすべてが、遠くなる。
魔界へと繋がる門が、閉じてゆく。
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