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ほんとうの世界
「…………リユィ」
ディゼが、泣いてる。
泣いたところなんて、見たことのないディゼが
めちゃくちゃかっこいー顔を、くしゃくしゃにして
泣いてる。
「……リユィを、滅茶苦茶にしても、それでも……俺を、……愛して、くれないかって……
リユィに……愛され、たくて……この上ないほど……愛されたくて……俺、は…………っ……最低な、こと……」
ちいさな顔が、歪む。
「──ご、めん……なさ、い……っ
ゆるして欲しいなんて、言えない、けど……っ
……傍に、いさせて欲しいなんて……言えない、けど……
俺は……っ……おかしくなるくらい……」
ディゼの瞳から、涙があふれ落ちる。
「……リユィを、愛してる……」
ささやきに、ふるえた。
「…………ほんとの、ディー?」
緋の瞳が、瞬いた。
「……強制力は?
ほんとの、ほんとに、思ってる?」
「リユィを、あいしてる」
すがるように囁くディーに、息をのむ。
ほんとうに、想ってくれる?
強制力で、言わされてる?
わからない…………!
かあちゃん、見たらわかるって言ってくれたのに!
嘆いた俺は、目を瞠る。
ああ、そうだ。
これが、ほんとうの世界なのかもしれない。
「強制力がなくなったら、世界が変わると思ってた。
ここまでが強制力の世界、ここからが強制力のない世界。
皆が、今までと全然ちがう、ほんとうの自分になるんだって」
でも、世界は変わらず、ここにあって。
ディーは、ディーのままで。
俺は、俺のままだ。
「かあちゃんと親父が、俺を救って、生かしてくれた。
かあちゃん、強制力がなくなったか、見たらわかるって言ってた。
何のことか、ちょっとわかった」
首を傾げるディゼに、微笑んだ。
強制力がなくなったら。
誰の心のゆく先も、解らない。
誰かをすきになっても、すきすきメーターは上がらないし、ぴんくの髪を見つけても、いじわるメーターは上がらない。
誰が、誰を、ほんとうはどう思っているか、誰にも、わからない。
溺愛エンドと闇エンドにぱっきり分かれることはなく、ハッピーエンドのその先が、続いてく。
愛してるの次の日に、急激に冷めて離れた心で、さよならを告げる日さえ、やってくる。
決められた台詞、決められたイベント、リセットボタンを押せる繰り返しの日々は、やってこない。
明日がどうなるか、誰にもわからなくて。
だからこそ、この手が、明日をつくってゆける。
ほんとうの気持ちは、誰の目にも見えなくて。
でも俺の鼓動は、とくとく跳ねる。
俺の、ほんとうの気持ちがどこにあるかなんて、俺にさえ、わからない。
俺の心のゆく先が、どこに向かうかなんて、俺にさえ、わからない。
でも俺は、ディーを見つめるだけで、胸があったかくなって、鼓動が跳ねる。
抱っこして、笑ってほしいと思うんだ。
ずっと、ずっと、傍にいたいと思うんだ。
どんな、悲哀の時も。
どんな、歓喜の時も。
一緒に、手をつないで、ずっと、ずっと。
闇のディーも、抱きしめて、生きていきたいと思うんだ。
ディーの涙を、抱きしめる。
「ディーを、ゆるしてあげるために、俺は帰ってきたんだよ」
あふれ落ちる涙を、抱きしめる。
「真っ暗なディーも、愛してる」
見開かれたディゼの瞳から、音もなく流れ落ちる涙に、手を伸ばす。
「俺も、ディーに無理矢理、お尻いじらせたから。
お相子。
ね?」
「…………リ、ユィ……──っ」
あふれる涙とともに、抜き放った剣で、ディゼは自らの角を叩き斬った。
「ディ──っ!」
俺の悲鳴を遮るように、ディゼは俺の前に膝をつき、折った角を捧げる。
「我が魔力、我が命、我が心のすべてを、リユィに」
ディゼの言葉とともに、折られたディゼの角が光り輝き、俺の胸に吸い込まれて、消えてゆく。
魔族の、至高の、愛の誓いだ。
親父は、かあちゃんが愛しくてたまらなくて、魔力の根源である角を、かあちゃんに捧げた。
だから親父には、角がない。
魔界一立派な親父の角は、かあちゃんが持ってる。
かあちゃんが死んだら、親父の魔力は消え、命さえも消えてしまう。
角を捧げる親父も、受けたかあちゃんも、すごいと思った。
かあちゃんと親父に憧れて、うらやましくて、でも俺は無理だろうと思ってた。
親父ほど顔がものすごくなく、かあちゃんほど尻は絶品でなく、頭弱く、魔力最低、筋力もない、何をしたってだめだめな俺は、魔王の息子を振り翳してさえ、残念な悪役だったから。
誰かに、そこまで愛されるなんて、思ってもみたこと、なかった。
前世の俺の、最愛の推し。
赤ちゃんの時に、初めて逢ったときから、大すきなディー。
手に入れたくて、できないなら傍にいたくて、それだけでしあわせだったのに。
愛だけじゃない。
魔力も、命も、心もくれた。
あふれた涙に、ディゼのちいさな顔が歪む。
「……いらない……?」
「あんぽんたんなディーを、愛してる────!!」
ぎゅうぎゅうディゼを抱きしめたら、涙を零したディゼが、そっと、そっと、俺を壊さないように、抱きしめてくれる。
「……ごめん、なさい……!
ごめんなさい────……!」
泣きじゃくるディゼを、抱きしめる。
トエが、そっと、手を差し出してくれる。
てのひらの上には、俺のちいさな角がきらめいた。
「……ごめん、なさい……」
こぼれるトエの涙に頷いて、俺の角を受け取った。
俺の瞳のなかに、紫紺の光が走る。
唇に、魔力が籠もる。
「我が魔力、我が命、我が心のすべてを、ディゼに」
ちいさな角が、輝く紫紺の光になり、ディゼの胸に吸い込まれて、消えてゆく。
「……リユィ……っ」
ディゼの瞳から、あふれる涙を、抱きしめる。
「愛してるじゃ、足りないくらい、愛してる」
くちづけは、とろけるようにあまくて、ちょっぴりしょっぱい、涙の香りがした。
メファは、仕方ないなって、笑って。
アルフォリアは、吐息して。
イォは、ぐしゃりと髪を掻きあげて。
キーザとジェミは、微笑んで。
レイトはぴんくの髪を逆立てて、鼻を鳴らして。
トエは深紅の瞳をやわらかに細めて、笑ってくれた。
「僕はもう、ゲームマスターじゃないから。
終わりの祝福じゃなく、はじまる未来に」
トエの指が、弧を描く。
あふれる虹と、きらめく光と、ほんとうの世界が、降ってくる。
─────────────────
最後まで読んでくださって、心からありがとうございます!
あなた様に、輝く虹のさいわいがありますように!
次のお話から、ハッピーエンドのその先の、おまけのお話です。
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