【完結】残念な悪役の元王子に転生したので、何とかざまぁを回避したい!

  *  ゆるゆ

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ほんとうの世界




「…………リユィ」

 ディゼが、泣いてる。


 泣いたところなんて、見たことのないディゼが
 めちゃくちゃかっこいー顔を、くしゃくしゃにして

 泣いてる。


「……リユィを、滅茶苦茶にしても、それでも……俺を、……愛して、くれないかって……
 リユィに……愛され、たくて……この上ないほど……愛されたくて……俺、は…………っ……最低な、こと……」


 ちいさな顔が、歪む。


「──ご、めん……なさ、い……っ
 ゆるして欲しいなんて、言えない、けど……っ
 ……傍に、いさせて欲しいなんて……言えない、けど……
 俺は……っ……おかしくなるくらい……」


 ディゼの瞳から、涙があふれ落ちる。


「……リユィを、愛してる……」


 ささやきに、ふるえた。



「…………ほんとの、ディー?」

 緋の瞳が、瞬いた。


「……強制力は?
 ほんとの、ほんとに、思ってる?」


「リユィを、あいしてる」


 すがるように囁くディーに、息をのむ。



 ほんとうに、想ってくれる?

 強制力で、言わされてる?


 わからない…………!


 かあちゃん、見たらわかるって言ってくれたのに!

 嘆いた俺は、目を瞠る。


 ああ、そうだ。

 これが、ほんとうの世界なのかもしれない。


「強制力がなくなったら、世界が変わると思ってた。
 ここまでが強制力の世界、ここからが強制力のない世界。
 皆が、今までと全然ちがう、ほんとうの自分になるんだって」


 でも、世界は変わらず、ここにあって。

 ディーは、ディーのままで。

 俺は、俺のままだ。


「かあちゃんと親父が、俺を救って、生かしてくれた。
 かあちゃん、強制力がなくなったか、見たらわかるって言ってた。
 何のことか、ちょっとわかった」

 首を傾げるディゼに、微笑んだ。



 強制力がなくなったら。
 誰の心のゆく先も、解らない。


 誰かをすきになっても、すきすきメーターは上がらないし、ぴんくの髪を見つけても、いじわるメーターは上がらない。

 誰が、誰を、ほんとうはどう思っているか、誰にも、わからない。

 溺愛エンドと闇エンドにぱっきり分かれることはなく、ハッピーエンドのその先が、続いてく。

 愛してるの次の日に、急激に冷めて離れた心で、さよならを告げる日さえ、やってくる。

 決められた台詞、決められたイベント、リセットボタンを押せる繰り返しの日々は、やってこない。



 明日がどうなるか、誰にもわからなくて。

 だからこそ、この手が、明日をつくってゆける。


 ほんとうの気持ちは、誰の目にも見えなくて。

 でも俺の鼓動は、とくとく跳ねる。



 俺の、ほんとうの気持ちがどこにあるかなんて、俺にさえ、わからない。
 俺の心のゆく先が、どこに向かうかなんて、俺にさえ、わからない。


 でも俺は、ディーを見つめるだけで、胸があったかくなって、鼓動が跳ねる。

 抱っこして、笑ってほしいと思うんだ。


 ずっと、ずっと、傍にいたいと思うんだ。


 どんな、悲哀の時も。
 どんな、歓喜の時も。

 一緒に、手をつないで、ずっと、ずっと。

 闇のディーも、抱きしめて、生きていきたいと思うんだ。





 ディーの涙を、抱きしめる。


「ディーを、ゆるしてあげるために、俺は帰ってきたんだよ」


 あふれ落ちる涙を、抱きしめる。



「真っ暗なディーも、愛してる」


 見開かれたディゼの瞳から、音もなく流れ落ちる涙に、手を伸ばす。


「俺も、ディーに無理矢理、お尻いじらせたから。
 お相子。
 ね?」


「…………リ、ユィ……──っ」

 あふれる涙とともに、抜き放った剣で、ディゼは自らの角を叩き斬った。


「ディ──っ!」

 俺の悲鳴を遮るように、ディゼは俺の前に膝をつき、折った角を捧げる。


「我が魔力、我が命、我が心のすべてを、リユィに」

 ディゼの言葉とともに、折られたディゼの角が光り輝き、俺の胸に吸い込まれて、消えてゆく。


 魔族の、至高の、愛の誓いだ。


 親父は、かあちゃんが愛しくてたまらなくて、魔力の根源である角を、かあちゃんに捧げた。

 だから親父には、角がない。
 魔界一立派な親父の角は、かあちゃんが持ってる。

 かあちゃんが死んだら、親父の魔力は消え、命さえも消えてしまう。

 角を捧げる親父も、受けたかあちゃんも、すごいと思った。
 かあちゃんと親父に憧れて、うらやましくて、でも俺は無理だろうと思ってた。

 親父ほど顔がものすごくなく、かあちゃんほど尻は絶品でなく、頭弱く、魔力最低、筋力もない、何をしたってだめだめな俺は、魔王の息子を振り翳してさえ、残念な悪役だったから。

 誰かに、そこまで愛されるなんて、思ってもみたこと、なかった。


 前世の俺の、最愛の推し。
 赤ちゃんの時に、初めて逢ったときから、大すきなディー。

 手に入れたくて、できないなら傍にいたくて、それだけでしあわせだったのに。



 愛だけじゃない。

 魔力も、命も、心もくれた。


 あふれた涙に、ディゼのちいさな顔が歪む。


「……いらない……?」

「あんぽんたんなディーを、愛してる────!!」


 ぎゅうぎゅうディゼを抱きしめたら、涙を零したディゼが、そっと、そっと、俺を壊さないように、抱きしめてくれる。


「……ごめん、なさい……!
 ごめんなさい────……!」

 泣きじゃくるディゼを、抱きしめる。



 トエが、そっと、手を差し出してくれる。

 てのひらの上には、俺のちいさな角がきらめいた。


「……ごめん、なさい……」

 こぼれるトエの涙に頷いて、俺の角を受け取った。



 俺の瞳のなかに、紫紺の光が走る。

 唇に、魔力が籠もる。



「我が魔力、我が命、我が心のすべてを、ディゼに」

 ちいさな角が、輝く紫紺の光になり、ディゼの胸に吸い込まれて、消えてゆく。


「……リユィ……っ」

 ディゼの瞳から、あふれる涙を、抱きしめる。



「愛してるじゃ、足りないくらい、愛してる」


 
 くちづけは、とろけるようにあまくて、ちょっぴりしょっぱい、涙の香りがした。





 メファは、仕方ないなって、笑って。
 アルフォリアは、吐息して。
 イォは、ぐしゃりと髪を掻きあげて。
 キーザとジェミは、微笑んで。
 レイトはぴんくの髪を逆立てて、鼻を鳴らして。
 トエは深紅の瞳をやわらかに細めて、笑ってくれた。


「僕はもう、ゲームマスターじゃないから。
 終わりの祝福じゃなく、はじまる未来に」

 トエの指が、弧を描く。


 あふれる虹と、きらめく光と、ほんとうの世界が、降ってくる。
















─────────────────


 最後まで読んでくださって、心からありがとうございます!


 あなた様に、輝く虹のさいわいがありますように!




 次のお話から、ハッピーエンドのその先の、おまけのお話です。




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