【完結】最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

  *  ゆるゆ

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ちっちゃい勇者を、たすけたい!

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「こ、こんにちは。
 えと、エォナ?」


 デフォルトの勇者の名前は、エォナだった、はず!


 栗色の目が、見開かれる。


「──エォナは、弟だ。
 弟を知ってるのか?」


「あ、そっか、お兄ちゃんか。
 おっきくて、びっくりした」

 笑う僕に、勇者の兄が、真っ赤になった。


 うーん。
 僕、前世では、喋るな、触るな、気持ちわるい、しか言われなかったからな。

 2次元に生きてたからね。
 3次元の交流、ほぼ無だからね。

 年相応の落ち着きとか配慮とか知らない!

 コミュ障なんだよ。
 偵察に、不向き!


「えと、弟さんは、元気?」

「──いや、ちょっと、寝込んでて──……」


「うそ! どうしたの!」

 目を剥く僕に、勇者兄が、たじろいだ。

 うん。
 僕、距離感おかしいんだよね。
 知ってるけど、治し方が分からない!

「この間さ、やたら見目のいい人間が、村の外で怪我して倒れてて。助けたら、お世話になったお礼にって、見たことのない、いい匂いの果物くれたんだ。
 すっげえ美味くて、村の皆で食ったんだけど、それから弟の具合がおかしくて──朝から薬草摘んできたんだ」

 握り締められて、しおれ気味の薬草を掲げる勇者兄に、仰け反った。


 なんか、あからさまな罠に引っ掛かってる──!


 でも勇者を殺したら、元も子もなくない?
 あ、そっか、村人の魔法を、変な果物で封じて、村人を皆殺し作戦か!

 魔法が封じられなくても、体調が悪くなればいいのかも。
 そして生き残る子どもは、誰でもいいのかも!


「その果物の皮とか種とか残ってる? 見せて!」

「お、おう」

 勇者兄は、初対面の僕と、見るからに巨大でありえないサイズの犬クロを、家に案内してくれた。


 警戒心、無さ過ぎるから!

 僕が弟の名前を知ってることを、疑おうよ!


 村の人って、余所者が苦手だっていうのに、違うのかなあ。

 心配になってきたよ、勇者の村!





 勇者の村では、牧畜と農耕が盛んらしい。
 畑の畝が波をつくり、春の若芽が緑に萌えていた。

 鶏が、あちこちで、コッコ、コケッケ鳴いている。
 豚や牛、羊の、ブヒブヒ、モーモー、メーメーの声もする。

 のどかだ。

「あ、あのさ、あの、なんで、おひめさまが、俺の弟のこと、知ってんの?」

 お、警戒心が出てきたかな。
 よいことです。

 思わず笑みが零れたら、勇者兄の顔が真っ赤になった。


 前世の僕は、笑ったら、気持ちわるいって言われたんだよ。
 ジァルデもゼドもクロもやさしいから、僕に、そんなこと言わないけど。

 人間には、言われちゃうかもなあ。
 僕、しょんぼり。


「僕が、おひめさまじゃないからだよ」

「そ、そうなのか!」

 びっくりしたらしい勇者兄が、なるほど、と納得してる。

 え、そこで納得するの?
 大丈夫なの、勇者兄!


「ここが、俺ん家なんだ」

 勇者兄が案内してくれたのは、村の端にある、崩れ落ちそうな藁の家だった。
 薄暗い家のなかには、囲炉裏と、奥に布団で横たわる人影が見えた。


「エォナ! だいじょぶか!」

 勇者兄が、布団に駆け寄る。
 大きな煎餅布団で、ちいさな子どもが、真っ赤な顔で、うなされていた。


「……にい、ちゃ……」

 ちっちゃな手が、兄の手を握る。
 兄の瞳が、歪んだ。


「エォナ!」

 ちいさな手を、兄の手が握り締める。


「朝はこんなじゃなかったんだ、だから薬草を採りに行ったのに──
 急に悪くなってる──!」

 あわてて薬草を煎じようとする兄と、今にも息絶えそうな勇者に、僕は思わず叫んだ。

「ジア!」

 呼んだら、ジァルデが攻撃されちゃうかもとか、頭から吹っ飛んでた。

 たぶんジァルデなら、勇者兄を、一発でぽこれる。
 きっと大丈夫!


「どうした」

 空間を切り裂くように現れたジァルデに、勇者兄が、目を剥いた。
 勇者はたぶん、意識が朦朧としてて、気づいてない。


「勇者が、変な果物食べさせられて、死にそうになってる!
 危険! 危篤!」

 あわあわする僕の頭を、ジァルデの大きな掌が、わしゃわしゃ撫でた。
 僕の叫び声に、おとなしくしてたクロも、慌てて家の中に駆けこんでくる。


「ろー、どうした!」

「勇者が死んじゃう!」

 半泣きの僕と、突然現れた、角のある超絶美形と、喋る犬に、勇者兄は、あんぐり口を開けた。


「──えぇエぇえ?」

「変な果物の、皮と種は!?
 果物、まだ余ってる?」

 僕の叫びに、勇者兄が跳びあがる。


「お、おお?」

 勇者兄は、あわてたように、戸棚を漁った。


「こ、これ」

 茶色い果物から、甘い匂いがする。

 毒の匂いだ。

 ジァルデは、凛々しい眉を顰めた。


「ギキの実だ。
 エルフには毒だ。魔力を封じる。
 エルフの血が流れる者にも、毒になる。
 食えば、力のある子どもは、死んでしまう」


「勇者が、死んじゃう──!」

 悲鳴をあげる僕を、柘榴の瞳が覗き込んだ。


「この毒は、水を沢山飲めば尿や汗とともに排泄される。
 きれいな水を沢山飲ませ、たまに塩を嘗めさせろ。汗をこまめに拭け。
 転移に魔力を使うから、すぐには戻って来れない。
 俺が戻るまで、頑張れるな」

 息をのんだ僕は、顔を引き締め、頷いた。


 生まれたばかりの赤ちゃんには酷だと思うが、僕は前世から数えたら42歳!
 看護の経験はないけど、頑張ってみるよ。

 ジァルデの大きな手が、僕の頭を、わしゃわしゃ撫でてくれる。


「待ってろ」

 銀煤の爪が、空間を切り裂いた。
 ジァルデの姿が、掻き消える。


 時魔だけが使える伝説の魔法、と呼ばれるそれは、4次元の時空を開く魔法だ。
 だからジァルデは、思うところに、思う過去にゆける。

 が。
 時を止めながら、場所まで移動するのは、物凄く大変な力技で、下手すると命が削れるらしい。

 だから、時を止めるか、場所を移動するか、どちらか一方を使う。


 それでも、滅多にいない魔山羊のお母さんを連れてきてくれるの、めんどくさいのに、めちゃくちゃ早かったよ!

 片っぽだけでも、最強チートだと思うよ、ジア!


 そんなジァルデが殺されちゃうんだから、ゲームに掠りもしないヅァギは侮れない。


「ジアが、きっと、解毒を見つけてくれる。
 それまで僕が、頑張ります。
 きれいな水を、たくさん用意しましょう!」

「わ、わかった!」

 角のある超絶美形と、喋る犬を呼んだ僕を、信頼し過ぎじゃないかな、勇者兄。


 心配になりながら、ジァルデが持たせてくれていたハンカチで、勇者の汗を拭う。


「絶対、たすけるからね。
 一緒に、頑張ろうね」

 勇者のちっちゃな手を、握る。


「……おひめさま……?」

 兄とおそろいの、目のわるさだね。


「ちがうよ」

 僕は、訂正する。


「ロロ・ルル」

「ろー」


 ジアと、ゼドと、クロと一緒の呼び方に、笑った。

 勇者の顔が、赤くなる。



「熱が上がってきたかな。
 大丈夫。
 絶対、たすける!」


 ちいさな身体を抱えあげ、溢れる汗を拭いてあげた。









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