【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ

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伴侶になろう(Request)




 月の髪がさらさらするのも、淡い緑の瞳がきらめくのも、きらい。

 皆が、顔しか見ないから。


「とてもいいお話があるんだ」
「お金持ちなんだよ、贅沢させてもらえるよ」

 にやにやした両親が12歳のノチェに差しだしたのは、伴侶契約だった。

 売られるんだ。
 あんぽんたんな両親と、あんぽんたんな先祖のせいで。

 借金まみれのバチルタ家に生まれたノチェは、将来はお金持ちの貴族の伴侶という名の慰みものになることを運命づけられていた。
 それがまさか今日だなんて思いもしなかった。

 家を飛び出したノチェは、木枯らしの吹き荒ぶなか目深に衣をかぶり、下町へと懸命に駆けた。

 吐き気がする。

 自分の家が借金まみれなことも、お金持ちにもてあそばれることになるのだろう将来にも、そんな未来を叩き潰して切り拓いてゆく力が何にもないことにも。

 くやしくて、なさけなくて、下町の隅にうずくまる。

 このまま死んじゃっても、困るのは両親くらいだ。
 それもノチェがいなくなるから、さみしいんじゃない。
 借金の形がなくなってしまうことを、嘆くだけだ。

「……俺のことなんて、誰も見てない」

 顔を見られる。
 姿かたちを見られる。
 ノチェの考えやノチェの思いを知りたいと思ってくれる人なんて、ひとりもいない。

 なら

「……死んじゃっても、一緒なのかな」

 未来に希望なんて、ひとつもないなら。

 ここで消えても、いいのかもしれない。


 ぎゅうっと唇を噛み締めたときだった。

「どうしたの? だいじょうぶ?」

 やさしい声が降ってきた。

 顔をあげたノチェは、息をのむ。

 蜜をとかしたような陽の髪が、木枯らしのなかで光のように輝いた。
 心配そうな青の瞳が、もうすぐ冬の空を映してる。

 とくん

 心の臓が、音をたてる。


『俺は、きみのものだ』

 浮かんだ言葉に、びっくりした。


 恥ずかしくなったノチェは立ちあがる。

「だ、だいじょうぶ」

 長い間座り込んでいたからだろう、冷えて動かなくなった身体がよろけるのを、伸びた手が支えてくれた。

「……だいじょうぶじゃ、ないよね」

 やさしい声だった。

「…………う……ぁ……」

 抱きしめてくれたら、あふれる涙が、止まらない。
 下町の子はお風呂にあまり入れないと聞くのに、その子はとても、いい匂いがした。

 ずっと、ふるえる肩を抱きしめて
 涙に揺れる背を、さすってくれた。


「……俺、両親の借金の形に、えろいおじいちゃんに売られるんだ」

 言ってもどうしようもないのに、ただ『かわいそうに』頭を撫でて欲しくて口にした言葉に、少年は目を剥いた。

「じゃあ僕と、伴侶になろう!」

「…………え?」

「伴侶になったら、誰もきみに手出しなんてできないよ!」

 ノチェは、茫然と少年の空の瞳を見あげる。

「……俺の家は、借金まみれで……」

「大変だね」

「俺の伴侶になったら、きみにも債務が……」

「さいむって何?」

「きみまで、俺の家の借金を返せって言われることになる」

 首を傾げた少年は笑う。

「きみのたすけになれるなら、うれしい」

「借金、大変なんだぞ──!」

 泣いたノチェを、少年の腕が抱きしめる。

「だからきみが売られることになった。そんなの絶対、ゆるさない」

 おでこをくっつけて、笑ってくれる。


「ひと目見て、わかったよ。きみが、僕の伴侶だって。きみは?」


 ノチェは、あざやかな青の瞳を見あげる。

「……だって、俺は、きみを莫大な借金に巻き込むことに……」

「きみは?」

 やさしい指が、髪を、頬を撫でてくれる。

「……言っても、いいの……?」

「もちろん!」

 透きとおる瞳で、笑ってくれる。

 燃える頬で、告げた。


「……俺は、きみの、ものだよ。……ひと目で、わかった」


「伴侶になろう」

「でも……!」

「伴侶に、なろう」

 微笑んで、抱きしめてくれたら


「……はい」

 しか、言えない。



「あ、そうだ、名前! 僕はユィク。きみは?」

「ノチェ・バチルタ」

「ノチェ! さっそく伴侶契約しちゃおう! ノチェが売られちゃう前に!」

 手を引いてくれる。
 笑ってくれる。

「……ごめ……ごめん、なさい……! ひどい、ことに、巻き込む、のに……きみの手を……離したく、ない……!」

 あふれる涙と叫んだら、ユィクが抱きしめてくれる。

「ノチェといっしょなら、どんなに酷いことだって、乗り越えてゆける」

 やさしい声が、かさなる胸から響いてく。

「僕がノチェをしあわせにしてあげる。だからノチェは、僕をしあわせにしてね。
 簡単だよ。隣で笑ってくれるだけでいいんだから!」

 空の瞳で、笑ってくれる。


 ひどいことに巻き込んで、ごめんなさい。

 なのに、売られそうになったから、ユィクを手に入れられた。

 そう思ったら、首を絞める莫大な借金まで、たまらなくあまい。


「俺をたすけてくれるつもりなら、今だけでいいから。すぐ離縁して構わないから──」

「絶対しない!」

 ユィクが笑って、手を引いてくれる。


「伴侶になってから、お互いを知って、すきになってもいいはずだよ。
 僕はもう、ノチェが大すきだけど」

 ノチェの頬が、燃える。


「……俺も……ユィクが……」


 だいすき


 ささやきは、唇に溶けた。








────────────

 読んでくださって、ありがとうございます!

 maril様のリクエストで、ノィユの両親の伴侶契約エピソードでした!

 あんまり甘くないお話になってしまいましたが、ノチェとユィクの出会いはこんな感じです(笑)

 話が長くなってしまうので書きませんでしたが、伴侶契約を先王が承認してくれた際に両親の悪事が発覚、爵位剥奪のうえ借金返済のための強制労働従事者となりました。
 すぐにノチェがバチルタ家当主となり、借金にあえぎながらユィクと頑張っています(笑)

 これでリクエストいただいた分終了です!
 おつきあいくださいまして、ありがとうございました!


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