99 / 155
Request
伴侶になろう(Request)
月の髪がさらさらするのも、淡い緑の瞳がきらめくのも、きらい。
皆が、顔しか見ないから。
「とてもいいお話があるんだ」
「お金持ちなんだよ、贅沢させてもらえるよ」
にやにやした両親が12歳のノチェに差しだしたのは、伴侶契約だった。
売られるんだ。
あんぽんたんな両親と、あんぽんたんな先祖のせいで。
借金まみれのバチルタ家に生まれたノチェは、将来はお金持ちの貴族の伴侶という名の慰みものになることを運命づけられていた。
それがまさか今日だなんて思いもしなかった。
家を飛び出したノチェは、木枯らしの吹き荒ぶなか目深に衣をかぶり、下町へと懸命に駆けた。
吐き気がする。
自分の家が借金まみれなことも、お金持ちにもてあそばれることになるのだろう将来にも、そんな未来を叩き潰して切り拓いてゆく力が何にもないことにも。
くやしくて、なさけなくて、下町の隅にうずくまる。
このまま死んじゃっても、困るのは両親くらいだ。
それもノチェがいなくなるから、さみしいんじゃない。
借金の形がなくなってしまうことを、嘆くだけだ。
「……俺のことなんて、誰も見てない」
顔を見られる。
姿かたちを見られる。
ノチェの考えやノチェの思いを知りたいと思ってくれる人なんて、ひとりもいない。
なら
「……死んじゃっても、一緒なのかな」
未来に希望なんて、ひとつもないなら。
ここで消えても、いいのかもしれない。
ぎゅうっと唇を噛み締めたときだった。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
やさしい声が降ってきた。
顔をあげたノチェは、息をのむ。
蜜をとかしたような陽の髪が、木枯らしのなかで光のように輝いた。
心配そうな青の瞳が、もうすぐ冬の空を映してる。
とくん
心の臓が、音をたてる。
『俺は、きみのものだ』
浮かんだ言葉に、びっくりした。
恥ずかしくなったノチェは立ちあがる。
「だ、だいじょうぶ」
長い間座り込んでいたからだろう、冷えて動かなくなった身体がよろけるのを、伸びた手が支えてくれた。
「……だいじょうぶじゃ、ないよね」
やさしい声だった。
「…………う……ぁ……」
抱きしめてくれたら、あふれる涙が、止まらない。
下町の子はお風呂にあまり入れないと聞くのに、その子はとても、いい匂いがした。
ずっと、ふるえる肩を抱きしめて
涙に揺れる背を、さすってくれた。
「……俺、両親の借金の形に、えろいおじいちゃんに売られるんだ」
言ってもどうしようもないのに、ただ『かわいそうに』頭を撫でて欲しくて口にした言葉に、少年は目を剥いた。
「じゃあ僕と、伴侶になろう!」
「…………え?」
「伴侶になったら、誰もきみに手出しなんてできないよ!」
ノチェは、茫然と少年の空の瞳を見あげる。
「……俺の家は、借金まみれで……」
「大変だね」
「俺の伴侶になったら、きみにも債務が……」
「さいむって何?」
「きみまで、俺の家の借金を返せって言われることになる」
首を傾げた少年は笑う。
「きみのたすけになれるなら、うれしい」
「借金、大変なんだぞ──!」
泣いたノチェを、少年の腕が抱きしめる。
「だからきみが売られることになった。そんなの絶対、ゆるさない」
おでこをくっつけて、笑ってくれる。
「ひと目見て、わかったよ。きみが、僕の伴侶だって。きみは?」
ノチェは、あざやかな青の瞳を見あげる。
「……だって、俺は、きみを莫大な借金に巻き込むことに……」
「きみは?」
やさしい指が、髪を、頬を撫でてくれる。
「……言っても、いいの……?」
「もちろん!」
透きとおる瞳で、笑ってくれる。
燃える頬で、告げた。
「……俺は、きみの、ものだよ。……ひと目で、わかった」
「伴侶になろう」
「でも……!」
「伴侶に、なろう」
微笑んで、抱きしめてくれたら
「……はい」
しか、言えない。
「あ、そうだ、名前! 僕はユィク。きみは?」
「ノチェ・バチルタ」
「ノチェ! さっそく伴侶契約しちゃおう! ノチェが売られちゃう前に!」
手を引いてくれる。
笑ってくれる。
「……ごめ……ごめん、なさい……! ひどい、ことに、巻き込む、のに……きみの手を……離したく、ない……!」
あふれる涙と叫んだら、ユィクが抱きしめてくれる。
「ノチェといっしょなら、どんなに酷いことだって、乗り越えてゆける」
やさしい声が、かさなる胸から響いてく。
「僕がノチェをしあわせにしてあげる。だからノチェは、僕をしあわせにしてね。
簡単だよ。隣で笑ってくれるだけでいいんだから!」
空の瞳で、笑ってくれる。
ひどいことに巻き込んで、ごめんなさい。
なのに、売られそうになったから、ユィクを手に入れられた。
そう思ったら、首を絞める莫大な借金まで、たまらなくあまい。
「俺をたすけてくれるつもりなら、今だけでいいから。すぐ離縁して構わないから──」
「絶対しない!」
ユィクが笑って、手を引いてくれる。
「伴侶になってから、お互いを知って、すきになってもいいはずだよ。
僕はもう、ノチェが大すきだけど」
ノチェの頬が、燃える。
「……俺も……ユィクが……」
だいすき
ささやきは、唇に溶けた。
────────────
読んでくださって、ありがとうございます!
maril様のリクエストで、ノィユの両親の伴侶契約エピソードでした!
あんまり甘くないお話になってしまいましたが、ノチェとユィクの出会いはこんな感じです(笑)
話が長くなってしまうので書きませんでしたが、伴侶契約を先王が承認してくれた際に両親の悪事が発覚、爵位剥奪のうえ借金返済のための強制労働従事者となりました。
すぐにノチェがバチルタ家当主となり、借金にあえぎながらユィクと頑張っています(笑)
これでリクエストいただいた分終了です!
おつきあいくださいまして、ありがとうございました!
あなたにおすすめの小説
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
【完結】双子の兄が主人公で、困る
* ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……!
表紙は、Pexelsさまより、Julia Kuzenkovさまによる写真をお借りしました。ありがとうございます!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
処刑されたくない悪役宰相、破滅フラグ回避のため孤独なラスボス竜を懐柔したら番として溺愛される
水凪しおん
BL
激務で過労死した俺が転生したのは、前世でやり込んだBLゲームの悪役宰相クリストフ。
しかも、断頭台で処刑される破滅ルート確定済み!
生き残る唯一の方法は、物語のラスボスである最強の”魔竜公”ダリウスを懐柔すること。
ゲーム知識を頼りに、孤独で冷徹な彼に接触を試みるが、待っていたのは絶対零度の拒絶だった。
しかし、彼の好物や弱みを突き、少しずつ心の壁を溶かしていくうちに、彼の態度に変化が訪れる。
「――俺の番に、何か用か」
これは破滅を回避するためのただの計画。
のはずが、孤独な竜が見せる不器用な優しさと独占欲に、いつしか俺の心も揺さぶられていく…。
悪役宰相と最強ラスボスが運命に抗う、異世界転生ラブファンタジー!
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
【完結。一気読みできます!】悪役令息に転生したのに、ヒーローもヒロインも不在で、拾って育てた執事が最強なんだが……なんで?!
はぴねこ
BL
前世の弟が好きだったゲームの世界に、悪役令息として転生してしまった俺。
本来なら、ヒロインをいじめ、ヒーローが活躍するための踏み台になる……
そんな役割のはずなのに、ヒーローともヒロインとも出会えない。
いじめる対象すら見つけられない新米悪役令息とか、ポンコツすぎないだろうか?
そんな俺に反して、子供の頃に拾って育てた執事は超優秀で、なぜか「悪役執事スキル」を着実に磨いている。
……いや、違う!
そうじゃない!!
悪役にならなきゃいけないのは俺なんだってば!!!