【完結】お義父さんが、だいすきです

  *  ゆるゆ

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ふるえる

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「……トェル……?」

 リィフェルは、庵の外に出た。

 こもれびの降りる辺りを見回したが、トェルがいない。

 庵の裏に回ってみたが、トェルはいなかった。

「たまには森に探検に行きたいんだろう」

「トェルも、ちょこっとおっきくなったしね。歩けるようになったんでしょ?」

 アライアとノォナの言葉に、リィフェルは眉をしかめる。

「心配だ、すぐさがしに──」

「過保護は、きらわれるぞ」

 びくりと音を立てるように、リィフェルは止まった。



『きらわれる』

 どうでもいいと思っていた誰かの感情が刺さるなんて、思ってもみなかった。


『トェルに、きらわれる』

 は

『世界が、終わる』

 とおなじ気さえした。



 ふるえる。

 精霊の力が、引いてゆく。

 手足の先が、冷たくなっていく気さえした。

 ──精霊には、血も涙もないのに。


 こんな思いをしたことなど、はじめてだ。



 トェルはいつも、リィフェルを揺さぶる。

 出逢ったときからずっと、ちいさな手足で、赤い頬で、微笑みで、リィフェルを根底から、くつがえしてしまう。

 心が、きしむ。

 なのにどうしてだろう、その痛苦を取り払いたいとは思えなかった。


 トェルがとろけるように笑って抱きついてくるたび、あまやかに胸を縛りあげる痛みを、いとおしくさえ思った。


 トェルを拾ったリィフェルは、おかしくなった。

 なのにトェルがいない生活に戻りたいとは、欠片さえ思えない。

 トェルのいない生など、想像することさえ、おぞましかった。


「……リィフェル、大丈夫か?」

 のぞきこむアライアの顔に、リィフェルの吐息がふれそうだ。

「近い」

 ぐぃい。

 てのひらでアライアの凛々しいかんばせを押しのけてから、トェルが顔を近づけたときは、もっと近づきたくなることに気づいた。

 そればかりではない。

 トェルには自分から、近づきたかった。

『ちゅう』

 ねだってくれないことを、さみしく思うことさえあった。

 思いだすだけで、精霊の力が瞬く。

 恥ずかしさと照れくささと、心をしめあげる痛みに、めまいがする。



「おいおい、ほんとに大丈夫か。力があふれてるぞ、めずらしい」

 あきれたようにアライアがリィフェルの肩をたたいた。

「疲れてるんだよ。精霊樹の実を食べた、魔族の血が入った人間が、精桃の種を芽吹かせるなんて」

 ノォナのため息が、昼さがりの庵を揺らす。

 何もしないリィフェルに代わりアライアがいれてくれた茶をすすって、ノォナは続けた。

「精霊樹は別格だけれど、精桃も精霊たちに崇められる樹だ。清浄で高い力を誇る。
 芽吹かせるためには、緑の精霊が百巡ものあいだ力を注ぎ続けなければならない」

 そこまで大変だとは思っていなかったリィフェルは、息をのむ。

 緑の精が植えないと決して芽吹くことのない樹を、トェルが芽吹かせただけだと思っていた。

 緑のきみから桃をもらうのは申しわけないから、家の裏に桃の木があったらいいと、ただそれだけでトェルはあの種を植えたのだろうに。

「魔族の血が混じった人間が、たったの7日で精桃を芽吹かせたなんて広まってみろ。
 トェルが殺されるだけじゃない、精桃さえ、けがらわしいと滅せられるかもしれない。
 ずっと精霊界を支えつづけてくれた樹が──!」

 ノォナの嘆きは、よくわかる。

 まだ若造と言われるが、リィフェルとて356巡、生きてきた。人間にとっては、遥かなる時だろう。精霊界のことは多少なりとも、わかるつもりだ。


 トェルは、精霊界を引っくり返す。

 精霊界にとっても、トェルにとっても、よくないことだ。



 ──……ただ、ひそやかに、トェルと生きていきたいだけなのに

 ただ、きみのそばにいたくて

 ただ、きみを抱きしめたくて

 ただ、きみが笑ってくれるのを見ていたい

 きみと一緒に、笑いたい

 ちいさな、ちいさなきみが、ほんのすこしずつ、すこしずつ、おおきくなっていくのを、誰よりもいちばん近くで見守りたい

 ただ、そう願っているだけなのに


 ただ、きみのそばにいたいだけなのに


 …………どうして







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