僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
8 / 98

てんびん




 下町で、皆にたくさん教えてもらった、大人な僕は、知っているのです!

 時の鐘の塔の広場の奥には、てんびんの絵を描いた、両替商が、必ずある。

『いかさまをしない、国に認められた店は、ちゃんと認定証ってのを掲げてるんだよ。王家の紋が入ってる。ここ以外で両替すると、ちょろまかされちまうから、気をつけな』

『紋章が偽物のこともあるからな。気をつけろ』

『両替してくれたら、悪気はなくても間違うこともあるからな、絶対に数えろ!』

 近くに住んでいたお兄さんや、おじちゃんたちが、ひとりで何でもしている僕に教えてくれたのを、覚えているのです!

 料理を作れと言われて、あの人の稼ぎのなかからご飯代をもらって、両替して、いちばん新鮮で、やさしい価格で売ってくれるお店を見つけて、お買い物をするのも、僕でした。

 ここは経験のある僕が、がんばるのです。

「むーちゃんを、まもゆよ!」

 ちっちゃな胸を叩いたら、むーちゃんが笑ってくれる。


 あなたが、隣で、笑ってくれる。

 それだけで、僕は、なんでもできる気がするのです。




 大きな広場に面した通りには、てんびんの絵を掲げたお店が立ち並んでいた。
 なかでも一等地に建つ、いちばん立派な店構えの、王家の紋章を見あげる。

「……これは……」

 ムニャが眉をひそめて、僕も、こっくりうなずいた。

「にしぇもの」

 目をまるくしたムニャが、口をあける。

「この紋章、葉が1枚足りない。それがわかるなんて、ぽて、すごいね……!」

 僕も、ぽかんと口を開けた。

「むーちゃん、はっぱ、いちまぃ、なぃの、わかゆの?」

「う、うん。毎日見てたから、ちょっとでも、おかしいと分かるんだ。ぽても?」

 首をかしげるムニャに、首をふる。

「ほんもの、にんかの、ばんごう、あゆの」

「ば、番号?」

 こっくりうなずいた僕に、ムニャがぽかんと口を開ける。


 ……お互いに、お互いの知識にびっくりしたみたいです?


 葉っぱが一枚足りないらしい紋章をみあげたムニャが、声を落としてささやいた。

「王家の紋章を偽造するなんて、大罪だよ」

「こわぃ、やくにん、きたら、はずしゅの」

 ムニャの頬が、ひきつってる。

 お店の前に立って、こそこそ話していたのがよくなかったらしい、扉が開いて、筋骨隆々な、いかめしいお兄さんが眉をあげた。

「お客さま、当店にご用でしょうか?」

 身なりのよいムニャと、ぼろぼろの服の僕を見た店員が不審そうに眉をしかめて、あわてて僕はムニャの手をひいた。

「みてた、だけ!」

 僕の手をにぎりかえしてくれたムニャと一緒に、あわてて店を離れる。


 豪華な紋章を飾って、店構えが立派なのに紋章が偽物なのは、危険な店だ。
 貴族や領主が黙認して、ちょろまかしている場合と、悪徳な商会や犯罪組織が経営している店がある。

 絶対に近づいてはいけない店だ。

 ほんとうに王家の認可を受けた店には、紋章の下に認可番号が刻まれていて、正式なものにはちゃんと決まりがある。
 両替商の場合は、必ず頭に『り』の文字がつく。
 店のなかに王家からの認可の書状を掲げなくてはならない。

 たいせつなのは、店のなかの認可証に、王家の魔紋が輝いているかどうかだ。

 知らないと、立派な店構えや、立派な紋章にだまされてしまう。

 偽造された通貨をつかまされたり(だいたい黒幕が強権なので、しかられるのは、使った人)本来より低い変換率だったり、高い手数料を取られたり、やばい店だと気づいて出ようとすると、ムキムキお兄さんに『困りますねえ、お客さん』こわい対応をされちゃう!

 僕はてんびんの絵の掛かった店を次々見あげた。紋章の下に認可番号を刻んでいる店もあるが、数字からはじまっていたり『り』から、はじまっていなかったりする。

「……これは……またずさんな紋章を……」

 ムニャの顔が、どんどん青くなってる。

 表通りの店があやしさ満開だったので、一本奥に入ってみた。

 虚飾がなりをひそめ、落ちついた路地が広がる。昔ながらの店が多いのだろう、古びた看板の隣で、雪のしたから白い花が咲いていた。

 てんびんの看板には、ちいさな王家の紋章があり、『り』からはじまる番号が刻まれている。

「ああ、これは」

 やわらかに唇をほころばせるムニャの手をにぎる。

「はぃって、みゆ?」

「うん」

 ムニャが扉を開けてくれる。
 ちいさな鐘の音が響いた。

 店の奥からおじいちゃんが白いおひげをしごきながら顔をのぞかせた。






感想 60

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

姉は不要と判断された~奪うことしか知らない妹は、最後に何も残らなかった~

ゆめ@マンドラゴラ
恋愛
妹にすべてを奪われ続けてきた姉。 ついには婚約者まで狙われ、「不要とされた」。 それは、誰にとっての「不要」だったのか。 「不要とされた」シリーズ第二弾。

三人の孤児の中から聖女が生まれると言われましたが、選ばれなかった私が“本物”でした

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
フクシア神教国では、聖女になることは最高の誉れとされている。 ある日、予言者は三人の孤児を指してこう告げた。 「この中から、一人は聖女になる」と。 長女カヤ、次女ルリア、そして三女ケイト。 社交的で人望のある姉たちは「聖女候補」として周囲に期待され、取り巻きに囲まれていた。 一方でケイトは、静かで目立たず、「何にもなれない」と言われる存在。 ――だが。 王族が倒れ、教会の治癒でも救えない絶望の中。 誰にも期待されていなかった少女が、ただ「助かってほしい」と願った瞬間――奇跡は起きた。 その日、教会は“本物”を見つける。 そして少女は、まだその意味も知らないまま、聖女として迎えられることになる。 これは、誰にも選ばれなかった少女が、神に選ばれるまでの物語。

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

運命の番なのに別れちゃったんですか?

雷尾
BL
いくら運命の番でも、相手に恋人やパートナーがいる人を奪うのは違うんじゃないですかね。と言う話。 途中美形の方がそうじゃなくなりますが、また美形に戻りますのでご容赦ください。 最後まで頑張って読んでもらえたら、それなりに救いはある話だと思います。

追放された役立たず聖女、実は国家の回復システムでした。私が消えた途端に国は崩壊、今さら泣いても戻りません。元勇者の魔王様に独占されています

唯崎りいち
恋愛
「役立たずの聖女はいらない」と国王に追放された私。 だがその瞬間、国中の“宿屋で一晩寝れば全回復する仕組み”は崩壊した。 ――それは、私の力で成り立っていたから。 混乱する人間たちをよそに、私は元勇者だった魔王様に連れ去られる。 魔王様はかつて勇者として魔物を虐げていた過去を持ち、 今は魔物を守るために魔王となった存在だった。 そして私は気づく。 自分の力は、一人を癒すだけでなく――世界そのものを支えていたのだと。 やがて回復手段を失った勇者たちは崩壊し、 国王は失脚、国は混乱に陥る。 それでも私は戻らない。 「君は俺のものだ。一生手放さない」 元勇者の魔王様に囲われ、甘やかされ、溺愛されながら、 私は魔王城で幸せに暮らしています。 今さら「帰ってきて」と言われても、もう遅いのです。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。