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てんびん
下町で、皆にたくさん教えてもらった、大人な僕は、知っているのです!
時の鐘の塔の広場の奥には、てんびんの絵を描いた、両替商が、必ずある。
『いかさまをしない、国に認められた店は、ちゃんと認定証ってのを掲げてるんだよ。王家の紋が入ってる。ここ以外で両替すると、ちょろまかされちまうから、気をつけな』
『紋章が偽物のこともあるからな。気をつけろ』
『両替してくれたら、悪気はなくても間違うこともあるからな、絶対に数えろ!』
近くに住んでいたお兄さんや、おじちゃんたちが、ひとりで何でもしている僕に教えてくれたのを、覚えているのです!
料理を作れと言われて、あの人の稼ぎのなかからご飯代をもらって、両替して、いちばん新鮮で、やさしい価格で売ってくれるお店を見つけて、お買い物をするのも、僕でした。
ここは経験のある僕が、がんばるのです。
「むーちゃんを、まもゆよ!」
ちっちゃな胸を叩いたら、むーちゃんが笑ってくれる。
あなたが、隣で、笑ってくれる。
それだけで、僕は、なんでもできる気がするのです。
大きな広場に面した通りには、てんびんの絵を掲げたお店が立ち並んでいた。
なかでも一等地に建つ、いちばん立派な店構えの、王家の紋章を見あげる。
「……これは……」
ムニャが眉をひそめて、僕も、こっくりうなずいた。
「にしぇもの」
目をまるくしたムニャが、口をあける。
「この紋章、葉が1枚足りない。それがわかるなんて、ぽて、すごいね……!」
僕も、ぽかんと口を開けた。
「むーちゃん、はっぱ、いちまぃ、なぃの、わかゆの?」
「う、うん。毎日見てたから、ちょっとでも、おかしいと分かるんだ。ぽても?」
首をかしげるムニャに、首をふる。
「ほんもの、にんかの、ばんごう、あゆの」
「ば、番号?」
こっくりうなずいた僕に、ムニャがぽかんと口を開ける。
……お互いに、お互いの知識にびっくりしたみたいです?
葉っぱが一枚足りないらしい紋章をみあげたムニャが、声を落としてささやいた。
「王家の紋章を偽造するなんて、大罪だよ」
「こわぃ、やくにん、きたら、はずしゅの」
ムニャの頬が、ひきつってる。
お店の前に立って、こそこそ話していたのがよくなかったらしい、扉が開いて、筋骨隆々な、いかめしいお兄さんが眉をあげた。
「お客さま、当店にご用でしょうか?」
身なりのよいムニャと、ぼろぼろの服の僕を見た店員が不審そうに眉をしかめて、あわてて僕はムニャの手をひいた。
「みてた、だけ!」
僕の手をにぎりかえしてくれたムニャと一緒に、あわてて店を離れる。
豪華な紋章を飾って、店構えが立派なのに紋章が偽物なのは、危険な店だ。
貴族や領主が黙認して、ちょろまかしている場合と、悪徳な商会や犯罪組織が経営している店がある。
絶対に近づいてはいけない店だ。
ほんとうに王家の認可を受けた店には、紋章の下に認可番号が刻まれていて、正式なものにはちゃんと決まりがある。
両替商の場合は、必ず頭に『り』の文字がつく。
店のなかに王家からの認可の書状を掲げなくてはならない。
たいせつなのは、店のなかの認可証に、王家の魔紋が輝いているかどうかだ。
知らないと、立派な店構えや、立派な紋章にだまされてしまう。
偽造された通貨をつかまされたり(だいたい黒幕が強権なので、しかられるのは、使った人)本来より低い変換率だったり、高い手数料を取られたり、やばい店だと気づいて出ようとすると、ムキムキお兄さんに『困りますねえ、お客さん』こわい対応をされちゃう!
僕はてんびんの絵の掛かった店を次々見あげた。紋章の下に認可番号を刻んでいる店もあるが、数字からはじまっていたり『り』から、はじまっていなかったりする。
「……これは……またずさんな紋章を……」
ムニャの顔が、どんどん青くなってる。
表通りの店があやしさ満開だったので、一本奥に入ってみた。
虚飾がなりをひそめ、落ちついた路地が広がる。昔ながらの店が多いのだろう、古びた看板の隣で、雪のしたから白い花が咲いていた。
てんびんの看板には、ちいさな王家の紋章があり、『り』からはじまる番号が刻まれている。
「ああ、これは」
やわらかに唇をほころばせるムニャの手をにぎる。
「はぃって、みゆ?」
「うん」
ムニャが扉を開けてくれる。
ちいさな鐘の音が響いた。
店の奥からおじいちゃんが白いおひげをしごきながら顔をのぞかせた。
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