僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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ゆめ




 僕の頭をなでなでしてくれたムニャが、僕と手をつないでくれる。

「雪かきは、してくれているけれど、地面が凍ってるから、気をつけて。ころばないようにね」

「あい! むーちゃんもね」

 ぎゅ

 手をにぎったら、こわばった頬で、ムニャがうなずく。

「う、うん。が、がんばるよ!」

 ふたりで手をつないで、おっかなびっくり、そーっと歩く、つるつるの冬の道は、わくわくする。


 あの人が家にいても、いつだって、ひとりぽっちな気がした暗い日々は、どこに行くにも、あんまり楽しくなかった。

 ひとりきりが、楽しいことも、たくさんある。
 ひとりが、だいすきな人も、たくさんいる。

 ……でも僕は、いつも、さみしかった。


 誰かと、手をつないで歩く。

 誰かと、笑いあう。


 それはまるで、あたたかな幻のような、僕の、夢だった。


 今、むーちゃんが、隣にいてくれる。

 僕といっしょに、笑ってくれる。

 つながる指が、あったかくて、むーちゃんを見あげるだけで、僕の口が、笑ってる。


「夢みたい」

 ぽやんと、つぶやいたら、瞬いたムニャが、うなずいた。

「僕も」


 つながる指を、ぎゅうぎゅうする。

 とくとく鳴る鼓動と、火照る頬で、そっと願う。


 ──夢ならどうか、さめないで。

 



 モァフおじいちゃんが紹介してくれた薬草組合は、にぎやかな鐘の塔の広場から1本裏に入ったところにあった。
 薬草の絵の看板と、ひかえめな王家の紋章が掲げられている。

 じっと紋章を見つめたムニャが、微笑んだ。

「ちゃんとしてる」

 じっと見つめた僕も、ちいさな指をかかげる。

「ばんごぅ、ありゅ」

 ちゃんと『や』から、はじまる番号だ。

「入ってみる?」

 やさしく聞いてくれるムニャに、うなずいた。
 薬草の紋章が刻まれた大きな扉に、手をかける。

「こにちは」

 ちいさな両手で扉を開けると、夜色のとんがり帽子をかぶった、おじいちゃんの、しわのまぶたの向こうの瞳が、まるくなる。

「ほうほう、こりゃまた、ちいさいお客さんじゃの」

 楽しそうに僕を見つめながら、白いおひげをしごいた。
 僕は、ちいさな手をあげる。

「こにちは。
 ここに、はえてゆ、やくそぅの、しゅるぃと、いらぃ、おしえて、くだしゃい」

 ていねいにあいさつして、胸に手をあてる僕に、おじいちゃんが、ふしぎそうに後ろに立つムニャを見つめた。

「おおう、お兄ちゃんじゃなくて、きみが薬草を、つんでくれるのか」

「あい!」

 誇らしく胸を叩く僕に、おじいちゃんが、やわらかに目をほそめる。

「そうか、そうか。年齢制限は、ないのでな、子どもが稼ぐには、よい職だ。
 ナヒカ街で唯一の、正規の薬草組合に、ようこそ」

 微笑むおじいちゃんの、とんがり帽子が揺れて、しわのお顔が、いかめしくなる。

「よい職じゃがの、森の奥には野獣がいたり、盗賊がいたりするからな、気をつけなされ」

「ありがとぅ」

 やさしいおじいちゃんに、僕は胸に手をあてる。
 心からの気もちを表すんだよ。

「これが、ここらで生えてる薬草の種類じゃ。こっちが依頼じゃの」

 後ろの棚を探ったおじいちゃんが、高価な羊皮紙に描かれた絵を見せてくれる。

「なゆほろ」

 ひとつ、ひとつ、薬草を確認してゆく僕に、後ろのムニャが息をのむ。

「ぽて、わかるの?」

 目をまるくするムニャに、こっくりうなずいた。

「じぶんの、ごはん、じぶんで、かしぇぐ!」

 むん!
 力こぶを作ってみた!

 ……あんまり盛りあがらなかった。

 しょんもりする僕を励ますように、おじいちゃんが笑ってくれる。

「おお、えらいな」

 ほめてくれる、おじいちゃんに、これが自主的なら──……思った僕は、首をふる。


 捨てられる前の僕は、父親に働かされていると思っていた。
 子どもは養育されるもので、働くものではないと。

 働いている僕は、とっても特別で、とっても、かわいそうな子なんだと。

 でも養ってもらえるのは、恵まれた環境に生まれた人の話だ。僕にとっては、おとぎ話のように遠い世界の話だ。
 それがほんとうに恵まれたことなのかは、一生をかけて、ようやく分かることなのかもしれない。


 あの人のおかげで、僕にはたくさんの知識がある。

 ムニャを、たすけられる。

 自分のごはんを、自分で稼げる。


 殴られたり蹴られたりすることはさみしく、つらいことだ。きっと、ないほうがいい。

 それでも、捨てられたから、僕はムニャに逢えた。

 ムニャが僕をひろってくれた。


 なにより、しあわせなことに思えるんだ。






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