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ゆめ
僕の頭をなでなでしてくれたムニャが、僕と手をつないでくれる。
「雪かきは、してくれているけれど、地面が凍ってるから、気をつけて。ころばないようにね」
「あい! むーちゃんもね」
ぎゅ
手をにぎったら、こわばった頬で、ムニャがうなずく。
「う、うん。が、がんばるよ!」
ふたりで手をつないで、おっかなびっくり、そーっと歩く、つるつるの冬の道は、わくわくする。
あの人が家にいても、いつだって、ひとりぽっちな気がした暗い日々は、どこに行くにも、あんまり楽しくなかった。
ひとりきりが、楽しいことも、たくさんある。
ひとりが、だいすきな人も、たくさんいる。
……でも僕は、いつも、さみしかった。
誰かと、手をつないで歩く。
誰かと、笑いあう。
それはまるで、あたたかな幻のような、僕の、夢だった。
今、むーちゃんが、隣にいてくれる。
僕といっしょに、笑ってくれる。
つながる指が、あったかくて、むーちゃんを見あげるだけで、僕の口が、笑ってる。
「夢みたい」
ぽやんと、つぶやいたら、瞬いたムニャが、うなずいた。
「僕も」
つながる指を、ぎゅうぎゅうする。
とくとく鳴る鼓動と、火照る頬で、そっと願う。
──夢ならどうか、さめないで。
モァフおじいちゃんが紹介してくれた薬草組合は、にぎやかな鐘の塔の広場から1本裏に入ったところにあった。
薬草の絵の看板と、ひかえめな王家の紋章が掲げられている。
じっと紋章を見つめたムニャが、微笑んだ。
「ちゃんとしてる」
じっと見つめた僕も、ちいさな指をかかげる。
「ばんごぅ、ありゅ」
ちゃんと『や』から、はじまる番号だ。
「入ってみる?」
やさしく聞いてくれるムニャに、うなずいた。
薬草の紋章が刻まれた大きな扉に、手をかける。
「こにちは」
ちいさな両手で扉を開けると、夜色のとんがり帽子をかぶった、おじいちゃんの、しわのまぶたの向こうの瞳が、まるくなる。
「ほうほう、こりゃまた、ちいさいお客さんじゃの」
楽しそうに僕を見つめながら、白いおひげをしごいた。
僕は、ちいさな手をあげる。
「こにちは。
ここに、はえてゆ、やくそぅの、しゅるぃと、いらぃ、おしえて、くだしゃい」
ていねいにあいさつして、胸に手をあてる僕に、おじいちゃんが、ふしぎそうに後ろに立つムニャを見つめた。
「おおう、お兄ちゃんじゃなくて、きみが薬草を、つんでくれるのか」
「あい!」
誇らしく胸を叩く僕に、おじいちゃんが、やわらかに目をほそめる。
「そうか、そうか。年齢制限は、ないのでな、子どもが稼ぐには、よい職だ。
ナヒカ街で唯一の、正規の薬草組合に、ようこそ」
微笑むおじいちゃんの、とんがり帽子が揺れて、しわのお顔が、いかめしくなる。
「よい職じゃがの、森の奥には野獣がいたり、盗賊がいたりするからな、気をつけなされ」
「ありがとぅ」
やさしいおじいちゃんに、僕は胸に手をあてる。
心からの気もちを表すんだよ。
「これが、ここらで生えてる薬草の種類じゃ。こっちが依頼じゃの」
後ろの棚を探ったおじいちゃんが、高価な羊皮紙に描かれた絵を見せてくれる。
「なゆほろ」
ひとつ、ひとつ、薬草を確認してゆく僕に、後ろのムニャが息をのむ。
「ぽて、わかるの?」
目をまるくするムニャに、こっくりうなずいた。
「じぶんの、ごはん、じぶんで、かしぇぐ!」
むん!
力こぶを作ってみた!
……あんまり盛りあがらなかった。
しょんもりする僕を励ますように、おじいちゃんが笑ってくれる。
「おお、えらいな」
ほめてくれる、おじいちゃんに、これが自主的なら──……思った僕は、首をふる。
捨てられる前の僕は、父親に働かされていると思っていた。
子どもは養育されるもので、働くものではないと。
働いている僕は、とっても特別で、とっても、かわいそうな子なんだと。
でも養ってもらえるのは、恵まれた環境に生まれた人の話だ。僕にとっては、おとぎ話のように遠い世界の話だ。
それがほんとうに恵まれたことなのかは、一生をかけて、ようやく分かることなのかもしれない。
あの人のおかげで、僕にはたくさんの知識がある。
ムニャを、たすけられる。
自分のごはんを、自分で稼げる。
殴られたり蹴られたりすることはさみしく、つらいことだ。きっと、ないほうがいい。
それでも、捨てられたから、僕はムニャに逢えた。
ムニャが僕をひろってくれた。
なにより、しあわせなことに思えるんだ。
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