僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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ふにゃふにゃ




 この辺りに生えている薬草の一覧をめくった僕は、知っている薬草は名前を書いて、知らない薬草は、丁寧に葉っぱや、どこに生えているかを書き写してゆく。

「すごい! ぽて、絵も上手だね!」

 きらきらの星の瞳で拍手してくれるムニャに、照れ照れの熱い頬で笑う。

「えへへ。がんばったの」

 なぐり書きみたいな絵だと、葉っぱの形が間違っていて、間違った草を、つんできてしまうのです……!

『うーん、こりゃ、草じゃの』
『うーん、こりゃ、毒じゃの』

『あんまり間違えられると、買い取れなくなるぞ!』

 こわーい、お顔をされた僕は、涙目で絵を練習したのでした!

 どこに注目したらいいのかも、薬草組合ではちゃんと書いてくれているので、そこを大切に書き写すんだよ。

「ほうほう、よう描けておるの。
 お茶菓子もあるんじゃぞ。お茶と一緒に頼むと、銅貨5枚! 銅貨1枚お得じゃぞ!」

 ホーおじいちゃんが、ほめながら勧誘するという、高度な技法を使ってきた!

「おお、じゃあ、ぜひ、お茶とお菓子を一緒に……」

 ふところから、おかねを、じゃらじゃらさせる、むーちゃんに、僕は、ほっぺを引きしめる。

「むーちゃん!」

「だって、ぽてが、がんばってるから。ごほうび」

 頭をなでなでしてくれたら、ふにゃふにゃしちゃう……!

「で、でも、おかね、たいしぇつ……」

 もじもじしちゃう僕の顔を、ムニャがのぞきこむ。

「ぽては、たくさん食べないと、だめ。ね?」

「そうそう。じーちゃんが焼いた、うまーい、あまーいお菓子じゃぞ……!」

 とんがり帽子を揺らして、ホーおじいちゃんが、にこにこしてる……!

「ふにゅう……!」

 勧誘されちゃう、よわよわな僕……!

「お金がなくなったら、稼げばいい。
 ぽて となら、僕、がんばるよ!」

 むん!

 ムニャが二の腕に力をこめる。

 力こぶが──

 ……盛りあがらなかった……!

「うぷぷ」

 笑う、ホーおじいちゃんに、ムニャが涙目になっちゃった!

「こりゃ! いっしょー、けんめー、わらわ、なぃの!」

 ちっちゃな拳をにぎったら、おじいちゃんが、あわあわ頬を引きしめる。


「す、すまん、あんまり愛らしくての」

「はげしく、どうぃ」

 うむうむしちゃった僕に、涙目なムニャの眉がさがる。


「……ぽて……?」

 ちょっと心配そうな、むーちゃんが、今日も、とびきり、かわいいです!




「じゃあ、お茶とお菓子を一緒に、ひとつ、ぽて と半分こは?」

「はんぶんこ!」

 はじめての、はんぶんこ!

 わくわくする僕の頭を、ムニャの大きな手が、なでなでしてくれる。


「じゃあ、お茶とお菓子を一緒にひとつ、お願いします」

 ふところから、じゃらっとムニャが、おかねを5枚とりだした。

「ほいほい。まいどあり」

 にこにこしたホーおじいちゃんが、とんがり帽子を揺らして、後ろの部屋へと引き込んだ。

 こぽこぽ、お湯を沸かす音がする。

 ふうわり、お茶の香りが、くゆりはじめる。

 ほうわり、あまい香りが、立ちのぼる。

「ほわあ……!」

 椅子から立ちあがろうとして、足がつかなくて、あわあわする僕が落ちないように抱っこしてくれたムニャが、ちいさく笑う。

「いい香りだね」

 ぶんぶんうなずく、僕のほっぺは、はじめてのお菓子に、あちあちだ。

「ほいほい、焼きたてお菓子と、淹れたてのお茶じゃよ。
 ちょこっと大きいのに、してやったぞい」

 片目をつぶってくれる、ホーおじいちゃんに、ふたりで笑う。

「ありがとぅ、ホーおじいちゃん!」

「ありがとう」

 受けとったお菓子もお茶も、白い湯気をたてていた。

 あまい香りが、鼻をくすぐる。

 ぜいたく品すぎて、僕は、お菓子を食べたことがない。

「は、はじめて……!」

 目を見開く僕に、いたましそうに夜の瞳をふせたムニャが、ふかふかの焼き菓子を長い指で半分にしてくれる。

「はい、ぽて。
 はんぶんこ」

 微笑んでくれるムニャを見あげる。


「はんぶんこも、はじめてなの」

 ムニャの瞳が、まるくなる。
 夜の髪が、さらさら揺れた。


「……僕も、はんぶんこ、はじめてだ……」


『はんぶんこ、しようね』
 やさしく笑ってくれる相手がいないと、はんぶんこは、できない。


 僕は、ぎゅっと、むーちゃんの手をにぎる。

 むーちゃんの手が、ぎゅっと、僕の手をにぎってくれる。


「これから、は、いちゅでも、できゆ!」

 見あげたら、星の瞳が揺れた。


「……ずっと、僕と、はんぶんこ、してね、ぽて」

 ぎゅうぎゅう、抱きしめてくれるから。

 ぎゅうぎゅう、抱きしめて、笑う。


「あい!」


 僕とむーちゃんの頭を、ホーおじいちゃんのしわの手が、なでなでしてくれる。


「冷める前に、食べなされ」

「あい!」

 むーちゃんと、ふたりで、食べる。


「はむ!」

 ほわわわわ

 口のなかで、あまい香りが、溶けてゆく。


「わぁ……! ふ、ふかふか……! あ、あまあま……!」

 きゃ──!

 跳びあがって、踊りそうな僕の隣で、ムニャの瞳もまるくなる。


「おいしい……!」

 はんぶんこな、ふたりで、とろけて笑う。


「ふふふん。じいちゃんの、愛が入っておるからの!」

 とんがり帽子を揺らして、笑ってくれた。






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