僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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じゅわじゅわ

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 市場の屋台を、ひとつひとつ、じっくり見ていたら、夕方になっちゃう!

 背中とお腹が、くっついちゃうよ。

「ここは決断の時だね」

 真剣な面持ちのムニャに、こっくり僕は、うなずいた。

「むーちゃんが、えらぶ!」

「ぽてが選んで。僕の師匠だよ」

「ししょー!」

 聞いたことがある!
 薬草組合で、薬草のことを教えてくれたお兄さんが『師匠だぞ、うやまえ!』ふんぞり返ってた。

 うやまう、が、分からなかったよ。
 お兄さん、しょんぼりしてたよ。

 ししょーは、きっと、教えてあげる、えらい人のこと!

 ぴょこんと跳びあがった僕が、熱い頬で笑う。

「はじめて、の、やたぃ、は、むーちゃんの、しゅきなの、が、いーの」

 あかぎれの小さな手で、ムニャの大きな手をにぎる。
 にぎり返してくれたムニャは、ふわふわ朱い顔で市場の露店を見回した。

「うしろがきれい、服がきれい、おんなじ顔の行列は危険」

 呪文のように唱えたムニャは、僕の手をひいて、いい香りのする方へと足を進める。

 鐘の塔の広場のはずれ、市場の端っこに、ちいさな屋台があった。
 はちまきをした、いかついおじちゃんが、黙々とお肉の串を焼いている。

「おいちゃん、ひとつ!」

 10代になったばかりだろう、ちいさな、でも僕よりずっと大きな男の子が駆け寄って、おかね3枚を差しだした。

「あいよ」

 いかついおじちゃんが、焼きたての肉の串を渡す。
 笑顔も『ありがとうございます』もなかった。

 僕と、むーちゃんが顔を見あわせるなか、串を受けとった男の子が、ぶあついお肉にかぶりつく。

「あちち……!」

 あふれる肉汁が、男の子の唇を濡らした。
 男の子の顔が、とろける。

「うまあ!」

 はじけるように、笑った。
 店主のいかめしい顔が、ほんのりほころぶ。

「ありがとな」

「おいちゃん、もちょっと愛想よくしろよ」

 肉汁につやつやの唇を、男の子がとがらせるのに、いかついおじちゃんは、鼻を鳴らした。

「できてたら屋台じゃねえよ」

 吹きだした男の子が手をあげる。

「また、おかねが、たまったら来てやるよ!」

「無理すんな」

 ほころぶ唇で、おじちゃんが手をあげた。

 見つめたムニャが、つながる僕の手をにぎる。

「あのお店がいい」

 微笑むムニャの手を、にぎり返す。

「ぼくも!」

 ぴょこんと飛び跳ねたら、ムニャが笑ってくれた。

「ふたつ、お願いします」

 おかね6枚を差しだすムニャに、おいちゃんの目が、まるくなる。

「……いや、お貴族さまが喰うようなもんじゃ、ねえんだけど……」

 とまどうような、おじちゃんに、ムニャが微笑む。

「とても、おいしそうです。2つお願いします」

 差しだされた、おかねを前に、おじちゃんの瞳が、左に右にさまよって、ムニャから目をそらすように、うつむいた。

「……その、後で文句言われても、困る、んだが……」

 ムニャの凛々しい眉が、わずかにあがる。

「言うように見えますか」

 しずかに聞くムニャに、おじちゃんは、はちまきの頭をかいた。

「すまねえ。失礼、しやした」

 胸に手をあて、ひざを折ろうとする店主を、ムニャの手が止める。

「僕は平民です。それは、なしで」

 目をまるくしたおじちゃんが、ようやくムニャの足元にいる僕に気づいたように息をのむ。

「わ、わかった。重ね重ね、わるかった」

 ジュワワ──!

 肉汁が炎に落ちて、赤い火を噴きあげる。

「っと、あぶね……!」

 くるりと引っくり返された串は、焦げる寸前の、したたり落ちるような、つやに輝いた。

「おいしそぅ……!」

 じゅわじゅわの、お口で、ぴょこぴょこ跳ねる僕の頭をムニャがなでなでしてくれて、いかついおじちゃんの唇がほころぶ。

 ムニャの手から、6枚のおかねを受けとった、ぶあつい手が、焼きたての串を選んだ。

「ど、どうぞ」

 いちばん、おいしそうな、タレがちいさな泡をふくらませて、分厚いお肉を彩る串を、ふたつ渡してくれた。






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