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じゅわじゅわ
市場の屋台を、ひとつひとつ、じっくり見ていたら、夕方になっちゃう!
背中とお腹が、くっついちゃうよ。
「ここは決断の時だね」
真剣な面持ちのムニャに、こっくり僕は、うなずいた。
「むーちゃんが、えらぶ!」
「ぽてが選んで。僕の師匠だよ」
「ししょー!」
聞いたことがある!
薬草組合で、薬草のことを教えてくれたお兄さんが『師匠だぞ、うやまえ!』ふんぞり返ってた。
うやまう、が、分からなかったよ。
お兄さん、しょんぼりしてたよ。
ししょーは、きっと、教えてあげる、えらい人のこと!
ぴょこんと跳びあがった僕が、熱い頬で笑う。
「はじめて、の、やたぃ、は、むーちゃんの、しゅきなの、が、いーの」
あかぎれの小さな手で、ムニャの大きな手をにぎる。
にぎり返してくれたムニャは、ふわふわ朱い顔で市場の露店を見回した。
「うしろがきれい、服がきれい、おんなじ顔の行列は危険」
呪文のように唱えたムニャは、僕の手をひいて、いい香りのする方へと足を進める。
鐘の塔の広場のはずれ、市場の端っこに、ちいさな屋台があった。
はちまきをした、いかついおじちゃんが、黙々とお肉の串を焼いている。
「おいちゃん、ひとつ!」
10代になったばかりだろう、ちいさな、でも僕よりずっと大きな男の子が駆け寄って、おかね3枚を差しだした。
「あいよ」
いかついおじちゃんが、焼きたての肉の串を渡す。
笑顔も『ありがとうございます』もなかった。
僕と、むーちゃんが顔を見あわせるなか、串を受けとった男の子が、ぶあついお肉にかぶりつく。
「あちち……!」
あふれる肉汁が、男の子の唇を濡らした。
男の子の顔が、とろける。
「うまあ!」
はじけるように、笑った。
店主のいかめしい顔が、ほんのりほころぶ。
「ありがとな」
「おいちゃん、もちょっと愛想よくしろよ」
肉汁につやつやの唇を、男の子がとがらせるのに、いかついおじちゃんは、鼻を鳴らした。
「できてたら屋台じゃねえよ」
吹きだした男の子が手をあげる。
「また、おかねが、たまったら来てやるよ!」
「無理すんな」
ほころぶ唇で、おじちゃんが手をあげた。
見つめたムニャが、つながる僕の手をにぎる。
「あのお店がいい」
微笑むムニャの手を、にぎり返す。
「ぼくも!」
ぴょこんと飛び跳ねたら、ムニャが笑ってくれた。
「ふたつ、お願いします」
おかね6枚を差しだすムニャに、おいちゃんの目が、まるくなる。
「……いや、お貴族さまが喰うようなもんじゃ、ねえんだけど……」
とまどうような、おじちゃんに、ムニャが微笑む。
「とても、おいしそうです。2つお願いします」
差しだされた、おかねを前に、おじちゃんの瞳が、左に右にさまよって、ムニャから目をそらすように、うつむいた。
「……その、後で文句言われても、困る、んだが……」
ムニャの凛々しい眉が、わずかにあがる。
「言うように見えますか」
しずかに聞くムニャに、おじちゃんは、はちまきの頭をかいた。
「すまねえ。失礼、しやした」
胸に手をあて、ひざを折ろうとする店主を、ムニャの手が止める。
「僕は平民です。それは、なしで」
目をまるくしたおじちゃんが、ようやくムニャの足元にいる僕に気づいたように息をのむ。
「わ、わかった。重ね重ね、わるかった」
ジュワワ──!
肉汁が炎に落ちて、赤い火を噴きあげる。
「っと、あぶね……!」
くるりと引っくり返された串は、焦げる寸前の、したたり落ちるような、つやに輝いた。
「おいしそぅ……!」
じゅわじゅわの、お口で、ぴょこぴょこ跳ねる僕の頭をムニャがなでなでしてくれて、いかついおじちゃんの唇がほころぶ。
ムニャの手から、6枚のおかねを受けとった、ぶあつい手が、焼きたての串を選んだ。
「ど、どうぞ」
いちばん、おいしそうな、タレがちいさな泡をふくらませて、分厚いお肉を彩る串を、ふたつ渡してくれた。
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