22 / 42
じゅわじゅわ
しおりを挟む市場の屋台を、ひとつひとつ、じっくり見ていたら、夕方になっちゃう!
背中とお腹が、くっついちゃうよ。
「ここは決断の時だね」
真剣な面持ちのムニャに、こっくり僕は、うなずいた。
「むーちゃんが、えらぶ!」
「ぽてが選んで。僕の師匠だよ」
「ししょー!」
聞いたことがある!
薬草組合で、薬草のことを教えてくれたお兄さんが『師匠だぞ、うやまえ!』ふんぞり返ってた。
うやまう、が、分からなかったよ。
お兄さん、しょんぼりしてたよ。
ししょーは、きっと、教えてあげる、えらい人のこと!
ぴょこんと跳びあがった僕が、熱い頬で笑う。
「はじめて、の、やたぃ、は、むーちゃんの、しゅきなの、が、いーの」
あかぎれの小さな手で、ムニャの大きな手をにぎる。
にぎり返してくれたムニャは、ふわふわ朱い顔で市場の露店を見回した。
「うしろがきれい、服がきれい、おんなじ顔の行列は危険」
呪文のように唱えたムニャは、僕の手をひいて、いい香りのする方へと足を進める。
鐘の塔の広場のはずれ、市場の端っこに、ちいさな屋台があった。
はちまきをした、いかついおじちゃんが、黙々とお肉の串を焼いている。
「おいちゃん、ひとつ!」
10代になったばかりだろう、ちいさな、でも僕よりずっと大きな男の子が駆け寄って、おかね3枚を差しだした。
「あいよ」
いかついおじちゃんが、焼きたての肉の串を渡す。
笑顔も『ありがとうございます』もなかった。
僕と、むーちゃんが顔を見あわせるなか、串を受けとった男の子が、ぶあついお肉にかぶりつく。
「あちち……!」
あふれる肉汁が、男の子の唇を濡らした。
男の子の顔が、とろける。
「うまあ!」
はじけるように、笑った。
店主のいかめしい顔が、ほんのりほころぶ。
「ありがとな」
「おいちゃん、もちょっと愛想よくしろよ」
肉汁につやつやの唇を、男の子がとがらせるのに、いかついおじちゃんは、鼻を鳴らした。
「できてたら屋台じゃねえよ」
吹きだした男の子が手をあげる。
「また、おかねが、たまったら来てやるよ!」
「無理すんな」
ほころぶ唇で、おじちゃんが手をあげた。
見つめたムニャが、つながる僕の手をにぎる。
「あのお店がいい」
微笑むムニャの手を、にぎり返す。
「ぼくも!」
ぴょこんと飛び跳ねたら、ムニャが笑ってくれた。
「ふたつ、お願いします」
おかね6枚を差しだすムニャに、おいちゃんの目が、まるくなる。
「……いや、お貴族さまが喰うようなもんじゃ、ねえんだけど……」
とまどうような、おじちゃんに、ムニャが微笑む。
「とても、おいしそうです。2つお願いします」
差しだされた、おかねを前に、おじちゃんの瞳が、左に右にさまよって、ムニャから目をそらすように、うつむいた。
「……その、後で文句言われても、困る、んだが……」
ムニャの凛々しい眉が、わずかにあがる。
「言うように見えますか」
しずかに聞くムニャに、おじちゃんは、はちまきの頭をかいた。
「すまねえ。失礼、しやした」
胸に手をあて、ひざを折ろうとする店主を、ムニャの手が止める。
「僕は平民です。それは、なしで」
目をまるくしたおじちゃんが、ようやくムニャの足元にいる僕に気づいたように息をのむ。
「わ、わかった。重ね重ね、わるかった」
ジュワワ──!
肉汁が炎に落ちて、赤い火を噴きあげる。
「っと、あぶね……!」
くるりと引っくり返された串は、焦げる寸前の、したたり落ちるような、つやに輝いた。
「おいしそぅ……!」
じゅわじゅわの、お口で、ぴょこぴょこ跳ねる僕の頭をムニャがなでなでしてくれて、いかついおじちゃんの唇がほころぶ。
ムニャの手から、6枚のおかねを受けとった、ぶあつい手が、焼きたての串を選んだ。
「ど、どうぞ」
いちばん、おいしそうな、タレがちいさな泡をふくらませて、分厚いお肉を彩る串を、ふたつ渡してくれた。
920
あなたにおすすめの小説
記憶を無くしたら家族に愛されました
レン
BL
リオンは第三王子で横暴で傲慢で侍女や執事が少しでも気に入らなかったら物を投げたり怒鳴ったりする。家族の前でも態度はあまり変わらない…
家族からも煩わしく思われたていて嫌われていた… そんなある日階段から落ちて意識をなくした…数日後目を覚ましたらリオンの様子がいつもと違くて…
【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。
ivy
BL
⭐︎毎朝更新⭐︎
兄の身代わりで望まれぬ結婚を押しつけられたライネル。
冷たく「帰れ」と言われても、帰る家なんてない!
仕方なく寂れた村をもらい受け、前世の記憶を活かして“投資”で村おこしに挑戦することに。
宝石をぽりぽり食べるマスコット少年や、クセの強い職人たちに囲まれて、にぎやかな日々が始まる。
一方、彼を追い出したはずの旦那様は、いつの間にかライネルのがんばりに心を奪われていき──?
「村おこしと恋愛、どっちも想定外!?」
コミカルだけど甘い、投資×BLラブコメディ。
当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる
蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。
キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・
僕は当て馬にされたの?
初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。
そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡
(第一部・完)
第二部・完
『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』
・・・
エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。
しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス……
番外編
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』
・・・
エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。
『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。
第三部
『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』
・・・
精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。
第四部
『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』
・・・
ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。
第五部(完)
『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』
・・・
ジュリアンとアンドリューがついに結婚!
そして、新たな事件が起きる。
ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。
S S
不定期でマクシミとエリアスの話をあげてます。
この2人はきっといつまでもこんな感じなんだと思います。
番外編
『僕だけを見ていて』
・・・
エリアスはマクシミのことが大好きなのです。
エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃)
マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子)
♢
アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王)
ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃)
※扉絵のエリアスを描いてもらいました
※本編はしばらくお休みで、今は不定期に短い話をあげてます。
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
公爵家の次男は北の辺境に帰りたい
あおい林檎
BL
北の辺境騎士団で田舎暮らしをしていた公爵家次男のジェイデン・ロンデナートは15歳になったある日、王都にいる父親から帰還命令を受ける。
8歳で王都から追い出された薄幸の美少年が、ハイスペイケメンになって出戻って来る話です。
序盤はBL要素薄め。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる