僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

文字の大きさ
27 / 98

ぼくの




「まいどあり!」

 うれしそうに破顔した、おじちゃんが、僕の顔をのぞきこむ。

「じゃあ、ちっちゃいのは、すぐ着替えたほうがいいな」

 ちっちゃいけれど!
 僕には、ちゃんと、お名前があるんだよ。

「ぼく、ぽて」

 胸を張る僕に、おじちゃんは頭をかいた。

「おお、そうか。すまんすまん。俺はゴタ、こっちは息子のゴナ」

 前に押しだされたゴナは、はずかしそうに、ちょこっと胸に手をあてた。

「ゴナです」

 おそろいみたいに、ムニャもちょこっと胸に手をあてる。

「僕はムニャです」

 微笑むムニャと僕に、おじちゃんの栗色の瞳がやさしく細くなる。

「どうぞ、仕立屋ゴタを、ごひいきに」

 うやうやしく胸に手をあてたゴナが笑った。

「じゃあ、ぽて、着替えるか。寒いだろ」

 心配してくれるゴタに、僕は首をふる。

「へぃき。おみせ、ぬくい」

 仕立屋さんだから、火を燃やすと危ないし、服に煙の匂いが移ってしまうのを避けるために奮発しているのかもしれない。暖炉に置かれたちいさな不思議な赤い石から、あふれるぬくもりが、お店全体をあたためていた。

「いや、その服を見てるだけで、仕立屋としては辛いよ」

 ゴナに、しょんぼりされてしまう服に、僕も申し訳なくて、しょんぼりしちゃう……!

「こっちの服に着替えて。
 俺の腕だって、なかなかなんだぜ!」

 誇らしそうに胸を張ったゴナが持ってきてくれたのは、お金もちな平民が着るような、生地も縫製もしっかりした服だった。

「り、りっぱ……! ぼ、ぼく、もっと、ふつーの……」

 あわあわ、お断りする僕に、ゴタもゴナも、首をふる。
 角度も速度も、おそろいで、おそろいの栗色の髪が、ほわほわ揺れた。

「いや、これくらいが、この街では、ふつーだよ」

 ゴナの言葉にうなずいたゴタが、声を低める。

「あんまりみすぼらしい服を着てると、それはそれで、ひでえのが寄ってくるんだよ。
 さらって、売りさばくようなのが」

 こわーい顔をするゴタに、僕も、ムニャも、ぷるぷるだ。

 ナヒカの街、表通りも、裏通りも、危険がいっぱい──!


「こ、この服で──!」

 真っ青な顔で叫ぶムニャの足元で、僕も、こくこくうなずいた。

「お、おねがぃ、しましゅ……!」

 り、立派だけれど……!
 むーちゃんに、申しわけないけれど……!

 でもでも、さらわれて、売られちゃって、むーちゃんと離れ離れになっちゃうなんて、絶対、だめ……!


 涙目になる僕とムニャに、やさしい顔で笑ったゴタが、たくさんタコのある大きな手で、僕の頭をなでてくれた。
 ムニャの頭もなでようとした手が、あわてたように止まる。

 照れくさそうに、鼻の頭をこすったゴタが、笑った。

「まかせとけ!
 ゴナ、ぽてを着替えさせてやってくれ。そのあいだに、ムニャさまは、採寸しましょうか」

 にこにこするゴタに、ムニャが首をふる。

「さまも、敬語も、なしで。僕は平民です。いつもどおりに、してください」

 微笑むムニャに、ゴタの目がまるくなる。

「……ほんとに、いつもどおりに、なっちまうぞ?」

 そうっと聞いたゴタに、ムニャは薄い胸を叩いた。

「望むところです」

 ムニャが笑って、ゴタも笑う。

「よっし! じゃあムニャ兄ちゃんは採寸だ。
 ぽては着替え。行ってこい!」

「あい!」

 立派な服を受けとった僕は、どきどきしながら、お着換え室で、ボロボロの服を脱いだ。
 僕の身体を覆ってくれていたことが嘘のように、ぼろきれみたいに、うずくまる布と、ゴナが縫ってくれた服が、おなじ『服』だと思えない。

 ぴかぴか輝くようにさえ見える服を、そうっと広げた。

「ぼくの、おふく……!」

 まだ誰も袖を通したことがない、あたらしい服だ。

 僕の服……!

 夢みたい……!


 そうっと、そうっと、かぶってみた。

 新しい布の香りがする。

 ちょんちょんと、すそを引っぱって、くるりと回ってみた。

 どこにも、穴が開いていない。
 どこにも、つぎが当たっていない。


「ほわぁ……!」

 跳びあがって喜ぶ僕に、ゴナが首をかしげる。

「どした?」

「こんなに、りっぱな、おふく、はじめて……! ありがとぅ、ゴナ!」

 熱い頬で笑ったら、真っ赤になったゴナが笑う。


「お、おおおおおう……!」

 つんつんの栗色の髪が、ぽわぽわ揺れた。







感想 60

あなたにおすすめの小説

もう一度、その腕に

結衣可
BL
もう一度、その腕に

姉は不要と判断された~奪うことしか知らない妹は、最後に何も残らなかった~

ゆめ@マンドラゴラ
恋愛
妹にすべてを奪われ続けてきた姉。 ついには婚約者まで狙われ、「不要とされた」。 それは、誰にとっての「不要」だったのか。 「不要とされた」シリーズ第二弾。

三人の孤児の中から聖女が生まれると言われましたが、選ばれなかった私が“本物”でした

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
フクシア神教国では、聖女になることは最高の誉れとされている。 ある日、予言者は三人の孤児を指してこう告げた。 「この中から、一人は聖女になる」と。 長女カヤ、次女ルリア、そして三女ケイト。 社交的で人望のある姉たちは「聖女候補」として周囲に期待され、取り巻きに囲まれていた。 一方でケイトは、静かで目立たず、「何にもなれない」と言われる存在。 ――だが。 王族が倒れ、教会の治癒でも救えない絶望の中。 誰にも期待されていなかった少女が、ただ「助かってほしい」と願った瞬間――奇跡は起きた。 その日、教会は“本物”を見つける。 そして少女は、まだその意味も知らないまま、聖女として迎えられることになる。 これは、誰にも選ばれなかった少女が、神に選ばれるまでの物語。

グラジオラスを捧ぐ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
憧れの騎士、アレックスと恋人のような関係になれたリヒターは浮かれていた。まさか彼に本命の相手がいるとも知らずに……。

運命の番なのに別れちゃったんですか?

雷尾
BL
いくら運命の番でも、相手に恋人やパートナーがいる人を奪うのは違うんじゃないですかね。と言う話。 途中美形の方がそうじゃなくなりますが、また美形に戻りますのでご容赦ください。 最後まで頑張って読んでもらえたら、それなりに救いはある話だと思います。

追放された役立たず聖女、実は国家の回復システムでした。私が消えた途端に国は崩壊、今さら泣いても戻りません。元勇者の魔王様に独占されています

唯崎りいち
恋愛
「役立たずの聖女はいらない」と国王に追放された私。 だがその瞬間、国中の“宿屋で一晩寝れば全回復する仕組み”は崩壊した。 ――それは、私の力で成り立っていたから。 混乱する人間たちをよそに、私は元勇者だった魔王様に連れ去られる。 魔王様はかつて勇者として魔物を虐げていた過去を持ち、 今は魔物を守るために魔王となった存在だった。 そして私は気づく。 自分の力は、一人を癒すだけでなく――世界そのものを支えていたのだと。 やがて回復手段を失った勇者たちは崩壊し、 国王は失脚、国は混乱に陥る。 それでも私は戻らない。 「君は俺のものだ。一生手放さない」 元勇者の魔王様に囲われ、甘やかされ、溺愛されながら、 私は魔王城で幸せに暮らしています。 今さら「帰ってきて」と言われても、もう遅いのです。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。