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ぼくの
「まいどあり!」
うれしそうに破顔した、おじちゃんが、僕の顔をのぞきこむ。
「じゃあ、ちっちゃいのは、すぐ着替えたほうがいいな」
ちっちゃいけれど!
僕には、ちゃんと、お名前があるんだよ。
「ぼく、ぽて」
胸を張る僕に、おじちゃんは頭をかいた。
「おお、そうか。すまんすまん。俺はゴタ、こっちは息子のゴナ」
前に押しだされたゴナは、はずかしそうに、ちょこっと胸に手をあてた。
「ゴナです」
おそろいみたいに、ムニャもちょこっと胸に手をあてる。
「僕はムニャです」
微笑むムニャと僕に、おじちゃんの栗色の瞳がやさしく細くなる。
「どうぞ、仕立屋ゴタを、ごひいきに」
うやうやしく胸に手をあてたゴナが笑った。
「じゃあ、ぽて、着替えるか。寒いだろ」
心配してくれるゴタに、僕は首をふる。
「へぃき。おみせ、ぬくい」
仕立屋さんだから、火を燃やすと危ないし、服に煙の匂いが移ってしまうのを避けるために奮発しているのかもしれない。暖炉に置かれたちいさな不思議な赤い石から、あふれるぬくもりが、お店全体をあたためていた。
「いや、その服を見てるだけで、仕立屋としては辛いよ」
ゴナに、しょんぼりされてしまう服に、僕も申し訳なくて、しょんぼりしちゃう……!
「こっちの服に着替えて。
俺の腕だって、なかなかなんだぜ!」
誇らしそうに胸を張ったゴナが持ってきてくれたのは、お金もちな平民が着るような、生地も縫製もしっかりした服だった。
「り、りっぱ……! ぼ、ぼく、もっと、ふつーの……」
あわあわ、お断りする僕に、ゴタもゴナも、首をふる。
角度も速度も、おそろいで、おそろいの栗色の髪が、ほわほわ揺れた。
「いや、これくらいが、この街では、ふつーだよ」
ゴナの言葉にうなずいたゴタが、声を低める。
「あんまりみすぼらしい服を着てると、それはそれで、ひでえのが寄ってくるんだよ。
さらって、売りさばくようなのが」
こわーい顔をするゴタに、僕も、ムニャも、ぷるぷるだ。
ナヒカの街、表通りも、裏通りも、危険がいっぱい──!
「こ、この服で──!」
真っ青な顔で叫ぶムニャの足元で、僕も、こくこくうなずいた。
「お、おねがぃ、しましゅ……!」
り、立派だけれど……!
むーちゃんに、申しわけないけれど……!
でもでも、さらわれて、売られちゃって、むーちゃんと離れ離れになっちゃうなんて、絶対、だめ……!
涙目になる僕とムニャに、やさしい顔で笑ったゴタが、たくさんタコのある大きな手で、僕の頭をなでてくれた。
ムニャの頭もなでようとした手が、あわてたように止まる。
照れくさそうに、鼻の頭をこすったゴタが、笑った。
「まかせとけ!
ゴナ、ぽてを着替えさせてやってくれ。そのあいだに、ムニャさまは、採寸しましょうか」
にこにこするゴタに、ムニャが首をふる。
「さまも、敬語も、なしで。僕は平民です。いつもどおりに、してください」
微笑むムニャに、ゴタの目がまるくなる。
「……ほんとに、いつもどおりに、なっちまうぞ?」
そうっと聞いたゴタに、ムニャは薄い胸を叩いた。
「望むところです」
ムニャが笑って、ゴタも笑う。
「よっし! じゃあムニャ兄ちゃんは採寸だ。
ぽては着替え。行ってこい!」
「あい!」
立派な服を受けとった僕は、どきどきしながら、お着換え室で、ボロボロの服を脱いだ。
僕の身体を覆ってくれていたことが嘘のように、ぼろきれみたいに、うずくまる布と、ゴナが縫ってくれた服が、おなじ『服』だと思えない。
ぴかぴか輝くようにさえ見える服を、そうっと広げた。
「ぼくの、おふく……!」
まだ誰も袖を通したことがない、あたらしい服だ。
僕の服……!
夢みたい……!
そうっと、そうっと、かぶってみた。
新しい布の香りがする。
ちょんちょんと、すそを引っぱって、くるりと回ってみた。
どこにも、穴が開いていない。
どこにも、つぎが当たっていない。
「ほわぁ……!」
跳びあがって喜ぶ僕に、ゴナが首をかしげる。
「どした?」
「こんなに、りっぱな、おふく、はじめて……! ありがとぅ、ゴナ!」
熱い頬で笑ったら、真っ赤になったゴナが笑う。
「お、おおおおおう……!」
つんつんの栗色の髪が、ぽわぽわ揺れた。
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