僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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ほしょい




 僕は、ほっそりしたムニャの背に、手をまわす。

「むーちゃんも、たべなぃ、と、だめなの」

 きょとんとしたムニャが、首をふる。

「僕は、ふつう」

「ほしょいの……!」

 ぎゅう。

 抱っこしたら、うれしそうに抱っこを返してくれるムニャが、かわいくて、やさしくて、どきどきする。

 ふわふわ笑ったムニャは、僕とおでこをくっつけて、首をかしげた。

「そうかな? ぽてのほうが、ずうっと細いよ」

 ふるふる首をふる。

「ぼくのは、ひんみんの、ふつー」

 いたましそうに顔を歪めたムニャが、抱きしめてくれる。

「ふたりで、ご飯をたべて、おっきくなろう」

 ?

「……ぼくも?」

「ぽても! いっしょなら、いいでしょう?」

 ちょん。

 僕の鼻の頭に、ムニャの指がふれる。

「ね?」

 むーちゃんが、僕の顔をのぞきこんでくれたら

「う、うん……!」

 しか、言えないのです……!


 むーちゃん、かわいー!


 お胸が、きゅんきゅんしちゃうのです。




「……えーと、それで、買う……?」

 見守ってくれていたらしいお兄さんが、生あたたかい目になってる……!

「あ、あの、おねがぃ、しましゅ!」

「うまたかで!」

 拳をにぎるムニャに、お兄さんが笑った。

「まいどあり! おっきい袋、ひと袋買ってくれたら、お得だよ。
 まずは、ちっちゃいのから、試してみる?」

「お得だって、ぽて!」

 ムニャの目が、きらきらしてる。

『しぇつやく、しぇつやく!』叫んでいた僕に感化されちゃった?


「……し、しっぱぃ、したら、たぃへん、なの……!」

 こしょこしょムニャにささやいた僕は、お兄さんを見あげる。


「あの、あの、ししょく、ありましゅか」

「あるよ! ちっと待ってて」

 後ろの袋をごそごそしたお兄さんが、ちいさな茶色い欠片を僕とムニャの手ににぎらせてくれた。

「水と混ぜて焼いた、麦焼きだよ。今渡したのが、やすいの。こっちが、うまたか」

 さらに小さな欠片を、僕とムニャに渡してくれる。
 やすいのより、雪の色に近い。

 うまたかは、あまい香りがする。
 やすいのは、素朴な麦の香りがする。

「おぉお! ありがとぅ、おにーさん」

 胸に手をあてる僕の隣で、ムニャの目がまるくなる。

「し、試食とか、あるんだね……! ぽて、すごい──!」

 夜の瞳が、きらきらだ。
 僕はムニャを手招きした。

 かがんでくれるムニャの耳に、唇を寄せる。

「ししょく、して、くれゆ、おみせ、じしん、あゆの。してくれにゃい、おみせ、じしん、ない」

 こそっと、ささやいたつもりだったのに、お兄さんの目が光る。

「めちゃくちゃ自信あるよ! うまたかは!
 やっすいのは、まあ、それなりだよ」

 うむうむしてる。

「やすいのから食べて」

「あい!」

 そうっと麦焼きの茶色い欠片を口に含む。
 息をのんだ僕は、目をみはる。

「おぃし──!」

「……え、そ、そう?」

 てれてれのお兄さんの顔が、ほんのり赤くなる。
 隣のムニャも、茶色い欠片を口にふくんだ。

「わあ……! 麦の香りがする!」

 お兄さんはうなずいた。

「やすいのと、うまたかは、品種がちっと違うし、精製方法も違うんだ。
 やすい麦の粉は、皮も実も一緒に、石うすで、ひいちまう。
 手間もないしな、ちいさい麦でもできるから、まあ『なんだって、ひいてやるぜ!』って感じだよ」

「なゆほろ」

「うまたかは、皮をむいてから、石うすで、ひくんだ。
 麦がまるくて、おっきくて、皮が薄い品種じゃないと、できないんだよ。
 ちっちゃい麦だと、皮をむいたら中身がない! ってなるだろ?」

「なゆ!」

「だから、やすいのは、ばりばりひいた、やすい麦。
 うまたかは『品種も特別だし、手間もかかってるぜ!』ってことで、3倍の値段だけど、うまいんだよ。色も白っぽいから、お貴族さまには人気なんだ」

「おぉ!」

 拍手する僕に、お兄さんが得意そうに胸を張る。

「うまたか、食ってみな」

 ほんのり茶色い欠片を口に含んだ僕は、ぴょこんと跳びあがる。

「おかし、みたぃ!」

 隣でいっしょに食べたムニャも、うなずいた。

「なるほど」

 僕は、こしょっと、ムニャを手招く。
 耳を寄せてくれるムニャに、そうっと聞いた。

「むーちゃん、いつも、たべてたの、こっち?」

「あまり味わったことがなかったんだけれど……こんな感じだった気がする……」

 あんまり覚えていないみたいです。

 さすが、むーちゃん!





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