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おとな
「じゃあ麦の粉を、やっすいの大きなの一袋と、うまたか小さなのをひと袋──」
ふところを、じゃらじゃらさせるムニャを、僕のちいさな手が止める。
「おにーさん、ふたふくろ、かったら、ぉとくに、なりましゅか!」
きらきらの目で見あげてみた。
「おお、商売上手だなあ、僕!」
わしゃわしゃ頭をなでてくれる。
そう『ぼく』
ぼくなんだけど、僕には、名前があるんだよ。
「ぼく、ぽて」
自分を指して見あげたら、お兄さんも笑う。
「俺は、ニコ。
もう、おにーさんに声かけたり、しないから。
ニコの粉屋を、よろしくな!」
僕の頭をなでて、笑ってくれる。
「僕はムニャ。これからも、よろしくね」
ふうわり笑うムニャに、ニコが真っ赤になった!
お胸が、きゅーっとするのです。
首をかしげたら、ムニャも首をかしげる。
「どうしたの、ぽて。どこか痛い?」
抱きあげて、顔をのぞきこんでくれたら、せつない痛みが溶けてゆく。
「おむね、きゅーって、したの。
ぼく、びょーき?」
眉をさげたら、ムニャが跳びあがる。
「たいへん! ニコ、よい医士を知ってる!?」
叫ばれたニコは、僕とムニャを見つめて、ちいさく笑う。
「なあ、ぽて。
俺とムニャが仲よくしてたら、胸が、きゅーっとした?」
「……ぅん」
「抱っこしてくれてる今は、何ともない?」
「うん」
こっくり、うなずいて、むーちゃんの胸に、おでこをくっつける。
むーちゃんの大きな手が、僕の頭をなでなでしてくれたら、きゅーっとした痛みが消えてゆく。
「それ、やきもちだよ」
ニコが笑う。
「ほへ?」
「だいすきなムニャを、取られちゃったら、どうしよう!
だいすきなムニャが、自分以外を、すきになっちゃったら、どうしよう!
くるしくなっちゃうのが、恋だな」
うむうむしてる!
「こ、こここここぃ……!」
いけない大人な言葉を聞いた気がする……!
僕のうえで、むーちゃんも、真っ赤になってる!
「……し、心配は、ない、のか、な……」
耳まで真っ赤なムニャが、もごもごするのに、ニコはうなずく。
「たぶん。しばらく様子を見て、それでも胸が痛いんだったら医士にかかればいいと思う。
でもなあ、ナヒカの街にいるのは、領主の息のかかった悪徳医士ばっかなんだよ」
ニコが声をひそめる。
「めっちゃくっちゃ、たっかい金を取られるのに、まっっっったく! 治らねえって評判だぞ!」
「ゃばい!」
ぴょこんと跳びあがった僕に、ニコは重々しくうなずいた。
「ナヒカで医士を探すのは、あきらめたほうがいい。
変な薬草を飲まされて、よけいに悪化するらしいぞ──!」
「きゃ──!」
「病気になったら、おしまいってことだね……!」
跳びあがる僕といっしょに、隣のムニャも、真っ青だ。
「や、やっすい麦の粉を、大きなの、ふた袋で! おやすくなりますか!」
青くなりながらも、ちゃんとお得を考えてくれるようになったムニャが、進化してる!
「ふたつなら銀貨1枚だけど、ちっと、おまけするよ。
うまたかの、ちいさい袋、ひとつつけてあげよう!」
ぷるぷるした僕とムニャが、抱きあって首をふる。
「やっすいの、ちいさい袋、ひとつでお願いします!」
「ぉねがぃ、しましゅ!」
「え、いや、ほら、うまたかって、もしかして、あんまり身体にいいことない、のかも? っていう推測だから──!」
「お願いしますぅう──!」
ふたりで、泣いてしまいました!
こわい街、ナヒカ!
でもでも、暮らしているのは、モァフおじいちゃん、ホーおじいちゃん、ゴナ、ゴタ、ニコ、僕の頭をなでなでして、笑ってくれた、やさしい人たちなのです。
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