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ゆうやけこやけ
朝よりは、つるつるしなくなった冬の道を、ふたりで歩く。
溶けた雪で濡れた地面の隣で、うずたかく雪が積みあげられていた。
「きゃ──!」
ちいさな子たちが笑って、雪玉を投げている。
あちこちでたたずむ雪だるまが、野菜の鼻で笑ってる。
「かわいー!」
ぴょこんと跳ねたら、つながった手を引かれたムニャが笑う。
「ぽてが」
「むーちゃんが!」
見あげたムニャは、夕やけ色に染まってる。
むーちゃんに逢ってから、まだ1日も経っていないのに。
もう、僕の手が、むーちゃんの手に繋がっていないと、いやだなんて。
ふたりで歩かないと、いやだなんて。
僕は、なんて、欲張りになってしまったのだろう。
「むーちゃん」
声をかけたら、僕の手をにぎる指に、力がこもる。
「なあに、ぽて」
僕の名を呼んで、笑ってくれる。
むーちゃんと歩くなら、泥にまみれた雪の道さえ、きらきらだなんて。
やっぱり、夢みたいだ。
「お、街を出るのか?」
大きな街ナヒカの門には、槍をかかげた衛士たちが立っていた。
「夕の鐘とともに、閉門だぞ」
「すぐ帰ってくるのか?」
閉門するために集まっていたのだろう衛士たちが、ちいさな僕とムニャに、目をまるくする。
「郊外に家が」
ムニャの言葉に、衛士たちは顔を見あわせた。
「……そうか。ちいさい子がいるなら、できるなら街壁のなかに住んだほうがいいけどな……」
「色々あるよな」
心配してくれたみたいです?
「もうすぐ暗くなる。夜は野獣が出るぞ」
「気をつけてな!」
手をあげて笑ってくれた。
門を越えたら、すぐ、雪かきしてくれている道が終わる。
馬車のわだちが幾つかあるだけの、真白な雪が広がった。
「ぼく、あゆく、よ!」
かっこよく、手をあげて歩きだした僕は
「ほにゃ!」
うもれた!
「ぽて!」
あわあわムニャが僕を抱きあげてくれる。
「けが、しなかった?」
「へぃき。むーちゃん、ごめんなしゃい……」
しょんぼりする僕に、ムニャが首をふる。
「ぽてが謝ることなんて、なんにもない!」
夕やけに染まる頬で、笑ってくれる。
「よいしょ」
ムニャが僕を抱っこしてくれる。
「むーちゃん、おもたぃ? ごめん、なさぃ」
「あやまらないの。
ぽて、とっても、かるいよ。心配だから、たくさん食べようね」
骨と皮の腕を、いたましそうに、さすってくれた。
ムニャの足が、雪を踏む。
さくり、さくり。
踏みしめられた雪は、ムニャの足の形に凹んで影のように跡を刻んだ。
赤い夕陽が降りてくる。
すべてが朱く染まってゆく。
闇色の髪も、ムニャの頬も、指先も。
輝く輪郭が、透きとおる。
「むーちゃん、きれぃ」
そっと、ひかりの髪に手をのばしたら、きょとんとしたムニャが瞬いた。
「ぽて、まっかで、かわいー」
ふわふわ笑ってくれたら、鼓動が跳ねる。
夕陽に染まるだけじゃない、ほっぺが熱く火照ってく。
ムニャのちいさな家は、街からかなり歩いたら見えてくる森の近く、誰も来ないところにある。
真っ白な雪に覆われていて分かりにくいけれど、近くに家はないみたいだ。
わだちもなくなり、雪深くなるころには、朝にムニャがかき分けて作った道が、ほそい、ほそい硬い道になって、たたずんでいた。
「おお! たどれるね!」
「むーちゃん、すごぃ! あさ、がんばったの!」
ちいさな頭をなでなでしたら、ムニャがとろけるように笑ってくれる。
「よし、いこう!」
元気になったムニャが足を踏みだした瞬間
「わ!」
僕を持ってくれているムニャの足が、滑った。
すこし溶けた雪が、また凍って、つるつるになっていたらしい。
宙へと舞いあがった僕は──
ぽふん!
「はにゃ!」
雪に落ちて、すっぽり、うもれた。
「ご、ごめん、ぽて!」
真っ白な雪にまみれながら、ムニャが僕を掘り起こしてくれる。
昨日の夜は、雪にうもれたら、それきりだった。
ひとりで雪のなかで、つめたくふるえた。
息が白くなくなるまで。
なのに、今は、むーちゃんが手をのばしてくれる。
あたたかな手を、にぎり返す指が、熱い。
「むーちゃん、ありがとぅ」
見あげるほっぺも、あちあちだ。
「ごめんね、ぽて。けが、しなかった?」
「へぃき! ぼく、つぉいこ、なの!」
ぷるぷる髪についた雪を払って、笑った。
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