僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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しあわせ




 笑顔で見あげる僕に、ムニャはまぶしそうに目をほそめた。
 僕を抱きしめる腕に、力がこもる。

「……僕も、ぽてみたいに、強い子になりたい」

 ちいさな声が、僕のつむじに落ちてきた。
 僕を抱っこしてくれているムニャの手に、指を重ねる。

 揺れる夜の瞳を見あげる。

「つぉく、なりたい、じゃ、なぃの」

 首をふる。
 きょとんとするムニャに、笑う。


「『ぼく、は、つぉい』となぇて、むねを、はったら、もぅ、つぉい!」

 夜の瞳が、まるくなる。


「……そ、そうなの?」

 ぽかんとするムニャに、うなずく。


 僕は3歳で、ちいさくて、骨と皮の、よわよわで。
 でも『よわよわ』自分まで思ってしまったら、生きられなかった。

 嘘でもいい。
 まやかしでいい。
『つよつよ!』
 となえて、拳をかかげるだけで、身体にも、心にも、力が満ちた。

 言葉は、傷つけたり、くるしめたりできる。
 言葉は、元気づけたり、自分でも思わぬ力を引きだしてくれる。

『だいしゅき』

 ささやいたら、とろけるような、しあわせが降るように。


 僕は、知ってる。



「ことばに、ちから、ありゅの。からだに、ちから、ありゅの」


 自分が思うのの、ひゃくまん倍、きっと、自分は、すごい。

 たくさんの、たくさんの可能性を潰すのは『そんなのむり』いつだって自分だ。

『もうできない』

 くずおれても、はいあがれる。

 何度だって。

 立ちあがれる。


 ムニャの手を、にぎる。


「胸を、はって、『つよつよ!』となぇたら、つよつよ!」


 ものすごく、ふしぎそうに、ムニャが胸を張る。

「つよつよ!」

 夜空の瞳が、瞬いた。


「むーちゃん、つよつよ!」

 ぺちぺち拍手したら、ふうわり赤くなったムニャが笑う。

「……ほんとに、ちょこっと、強くなった気がした」

 ふわふわの僕の髪に顔をうずめたムニャの頬が、朱くなる。

「まいにち、すりゅの。
 つよつよ、ふりつもったら、むーちゃん、つよつよ!」

「つよつよ!」

 ふたりで胸を張って、笑う。
 照れくさそうに、はずかしそうに、ムニャが笑う。

「やってみるよ、ぽて。一緒にしてくれる?」

「もちりょん!
 ひとりで、できたら、もっと、つよつよ」

 手をのばしたら、かがんでくれる。
 ムニャのさらさらの髪をなでたら、くすぐったそうに、うれしそうに笑ってくれる。


 さくり、さくり。

 雪を踏んで、ムニャが歩いてくれる。

 ムニャの腕のなかで見あげる、茜に染まる世界が、輝いた。


 昨日の夜は、真っ暗に押しつぶされて、冷たく凍えて息絶えようとしていたのに。
 世界のすべてが、僕の敵のような気さえしたのに。


 むーちゃんと一緒に見る世界は、なんてきらめいて。

 なんて、やさしくて。

 さいわいに、満ちているのだろう。




「……僕、捨てられたのに。ぽてが来てくれて、めちゃくちゃ、しあわせになっちゃった」

 僕の髪に、朱い頬をうずめたムニャが、ぽそぽそつぶやく。
 ムニャの吐息が、僕の髪をくすぐった。

「ぼく、ぼくも!」

 あちあちのほっぺで、とろけて笑う。


「むーちゃんが、ひろって、くれて、ぼく、しあわせ!」

 抱きついたら、抱きしめてくれる。

 あたたかな腕につつまれて、むーちゃんのやさしい香りにくるまれる。


「むーちゃん、だぃしゅき」

 ぽわぽわの頬で見あげたら、真っ赤になったムニャの抱きしめてくれる腕が強くなる。


「……ぼくも、だいすきだよ、ぽて」

 あちあちの頬に、むーちゃんの熱いほっぺが、くっついた。


 くすぐったくて、胸があったかくて、頬があつくて、鼓動がはねる。



 あなたと見あげたら、世界が、輝く。


 抱きしめたら、抱きしめ返してくれること。

 笑ったら、笑ってくれること。

 あなたと、指がつながること。



 きっと、あなたを、しあわせというのです。
  





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