僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ

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くゆくゆ!




「あ! ぉそと、くらく、なちゃう!」

 夕陽が朱く沈んでゆく。
 世界が紫に変わってゆく。

 あわあわ立ちあがる僕に、ムニャが首をかしげる。

「どうしたの、ぽて」

「くらく、なったら、ぉりょーり、あぶにゃい!
 あと、あとね、あの、かぉりの、くしゃが、はえてゆ、かも!」

 夜の瞳が、ふしぎそうに瞬いた。

「くさ? でも、ここは雪だらけで──」

「ゆき、の、した、に、あゆ!」

 ほっかむりをしたまま、ほこりの海を出ようとする僕を、ムニャが抱っこしてくれる。

「僕のほうが速い。家の外に出るんだね?」

「うん! でも、よるは、やじゅうで、あぶにゃい?」

 心配そうにムニャは眉をさげる。

「遠くに行くのは止めたほうがいい。
 家の近くに生えてそうな草なの?」

「たぶん!」

 僕を抱っこしたムニャが、家の外へと出てくれる。
 ムニャの抱っこの腕のなかから、僕はちいさな家の周りを見回した。

「むーちゃん、くゆくゆ!」

 きょとんとムニャが首をかしげる。

「くるくる?」

「まわって、くだしゃい!」

「わ、わかった!」

 ちょっとはずかしそうな朱い頬で、ムニャが、くるくる回ってくれる。

「むーちゃん、かわいー!」

「……もう、ぽて、僕を回したかっただけなの?」

 すねたみたいに、唇をとがらせる、むーちゃんも、とっても可愛いのです!

「ちがぅにょ。ゆっくり、くゆくゆして、むーちゃん」

「はあい」

 朱い頬で、僕をかかえたムニャが、ゆっくり回ってくれる。

 雪が高く積もっているところ、薄いところ、風の向き、ひなたと、ひかげ。

 確認した僕は、ちいさな指をかかげる。

「あしょこ!」

「わかった!」

 僕を抱っこしたままのムニャが、果敢に雪をかき分けてくれる。

 降りつもる雪の少ない軒下、風を避けられるところ、雪のすくない、日かげに、僕をおろしてくれた。

「ここ?」

「むーちゃん、ありがとぅ」

 ふわふわ熱い頬で笑って、手に巻いていたボロを外す。
 雪をさわると、びしょびしょになっちゃうから、外して、ちいさな袋に、ないないだよ。

 ちいさな手で、地面の雪をかきわけた。

「ぅーん、と……うぅんと……」

 雪は、つめたい。
 ふわふわなのに、さわると楽しいのに、すぐに指先が痛くなるほど、つめたい。


 でも、むーちゃんが、よろこんでくれるかもしれない。

 思うだけで、凍えて、痛い指まで、しあわせの、はじまりになる。


「うんしょ、ぅんしょ」

 雪をかき分ける僕と一緒に、かがんだムニャが手をのばす。


「手伝うよ、ぽて」

 ふるふる僕は、首をふる。

「ちべたぃの。むーちゃんは、ゆっくり、してて」

「ぽてにだけ、冷たい思いをさせるなんて、いやだ!」

 果敢に雪をかき分けてくれるムニャは、ちっとも、よわよわなんかじゃない。

「むーちゃん、つよつよ!」

 夜の瞳が、まるくなる。

「……そ、そう、かな……」

「つよつよ!」

「つよつよ!」

 ふたりで拳をかかげて、笑った。



 いっしょに雪の下を探してみたけれど……ないのかな。

 寒いから?
 植生が、僕の住んでいたところと違う?

 でも薬草組合で見た薬草は、知っているものも多かった。


 そう思って、むーちゃんを、引っぱってきて

 ……僕はまた、しっぱいした……?

 むーちゃんのためを思って、いらないことをして、むーちゃんの手を冷たくして、くるしめた……?


「ふにゃ……」

 泣きそうになった僕に、すぐ気づいたムニャが抱っこしてくれる。

「ぽて──! どうしたの……!」

 泣きそうな僕に、泣きそうになってくれる、やさしいムニャを見あげた僕のあたまが、ひらめいた!


「あにょ、あにょね、むーちゃん。もしかして、ゆきを、しまえゆ?」

「……え?」

 きょとんとするムニャに、僕は降りつもる雪を指す。


「むーちゃんの、かげに、ぴょいって。ゆき、いれられ、ゆ?」


 あんぐりムニャが、口を開けた。







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