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くゆくゆ!
「あ! ぉそと、くらく、なちゃう!」
夕陽が朱く沈んでゆく。
世界が紫に変わってゆく。
あわあわ立ちあがる僕に、ムニャが首をかしげる。
「どうしたの、ぽて」
「くらく、なったら、ぉりょーり、あぶにゃい!
あと、あとね、あの、かぉりの、くしゃが、はえてゆ、かも!」
夜の瞳が、ふしぎそうに瞬いた。
「くさ? でも、ここは雪だらけで──」
「ゆき、の、した、に、あゆ!」
ほっかむりをしたまま、ほこりの海を出ようとする僕を、ムニャが抱っこしてくれる。
「僕のほうが速い。家の外に出るんだね?」
「うん! でも、よるは、やじゅうで、あぶにゃい?」
心配そうにムニャは眉をさげる。
「遠くに行くのは止めたほうがいい。
家の近くに生えてそうな草なの?」
「たぶん!」
僕を抱っこしたムニャが、家の外へと出てくれる。
ムニャの抱っこの腕のなかから、僕はちいさな家の周りを見回した。
「むーちゃん、くゆくゆ!」
きょとんとムニャが首をかしげる。
「くるくる?」
「まわって、くだしゃい!」
「わ、わかった!」
ちょっとはずかしそうな朱い頬で、ムニャが、くるくる回ってくれる。
「むーちゃん、かわいー!」
「……もう、ぽて、僕を回したかっただけなの?」
すねたみたいに、唇をとがらせる、むーちゃんも、とっても可愛いのです!
「ちがぅにょ。ゆっくり、くゆくゆして、むーちゃん」
「はあい」
朱い頬で、僕をかかえたムニャが、ゆっくり回ってくれる。
雪が高く積もっているところ、薄いところ、風の向き、ひなたと、ひかげ。
確認した僕は、ちいさな指をかかげる。
「あしょこ!」
「わかった!」
僕を抱っこしたままのムニャが、果敢に雪をかき分けてくれる。
降りつもる雪の少ない軒下、風を避けられるところ、雪のすくない、日かげに、僕をおろしてくれた。
「ここ?」
「むーちゃん、ありがとぅ」
ふわふわ熱い頬で笑って、手に巻いていたボロを外す。
雪をさわると、びしょびしょになっちゃうから、外して、ちいさな袋に、ないないだよ。
ちいさな手で、地面の雪をかきわけた。
「ぅーん、と……うぅんと……」
雪は、つめたい。
ふわふわなのに、さわると楽しいのに、すぐに指先が痛くなるほど、つめたい。
でも、むーちゃんが、よろこんでくれるかもしれない。
思うだけで、凍えて、痛い指まで、しあわせの、はじまりになる。
「うんしょ、ぅんしょ」
雪をかき分ける僕と一緒に、かがんだムニャが手をのばす。
「手伝うよ、ぽて」
ふるふる僕は、首をふる。
「ちべたぃの。むーちゃんは、ゆっくり、してて」
「ぽてにだけ、冷たい思いをさせるなんて、いやだ!」
果敢に雪をかき分けてくれるムニャは、ちっとも、よわよわなんかじゃない。
「むーちゃん、つよつよ!」
夜の瞳が、まるくなる。
「……そ、そう、かな……」
「つよつよ!」
「つよつよ!」
ふたりで拳をかかげて、笑った。
いっしょに雪の下を探してみたけれど……ないのかな。
寒いから?
植生が、僕の住んでいたところと違う?
でも薬草組合で見た薬草は、知っているものも多かった。
そう思って、むーちゃんを、引っぱってきて
……僕はまた、しっぱいした……?
むーちゃんのためを思って、いらないことをして、むーちゃんの手を冷たくして、くるしめた……?
「ふにゃ……」
泣きそうになった僕に、すぐ気づいたムニャが抱っこしてくれる。
「ぽて──! どうしたの……!」
泣きそうな僕に、泣きそうになってくれる、やさしいムニャを見あげた僕のあたまが、ひらめいた!
「あにょ、あにょね、むーちゃん。もしかして、ゆきを、しまえゆ?」
「……え?」
きょとんとするムニャに、僕は降りつもる雪を指す。
「むーちゃんの、かげに、ぴょいって。ゆき、いれられ、ゆ?」
あんぐりムニャが、口を開けた。
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