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しあわせのときも
お野菜も、骨も、お肉も洗ったよ。
その前に洗っておかなきゃだった!
あわあわ僕は、ムニャを見あげる。
「むーちゃん、ぉなべも、ありゃうの!」
「お水がいるんだね。出すね」
ムニャが、しゅわしゅわ出してくれるお水で、ぴかぴかの魔導具をていねいに洗う。
「なかにも、おみず、くだしゃい」
「はい!」
しゅわしゅわ入れてくれたら、きれいに洗った骨を、どぼん!
「むーちゃん、おなべ……まどぅぐ、あっため、られゆ?」
「やってみるね」
きらきらの壺についた、ふしぎな赤い石に、ムニャの長い指がふれる。
パァアアア──!
赤い光が舞いあがった、次の瞬間
グラグラグラ──!
「も、もぅ、わいちゃた!」
びっくりする僕に、ムニャがうなずく。
「水を沸かす魔導具だからね。これでいいのかな?」
ふるふる僕は、首をふる。
「よわび! えとえと、かねちゅを、よわく、ちーさく、してくだしゃい!」
「はい、ぽて博士!」
笑ったムニャが、指からあふれる光を押さえてくれる。
赤い光が弱くなり、ことこと壺のなかで骨が煮えてゆく。
「わあ……! いい匂い」
ムニャの高い鼻が動いて、僕は笑う。
「コゾのぉにく、ほにぇも、しんしぇん、なの! くしゃく、ないね。よかた!」
骨をことこと煮ながら、僕は洗った野菜を、ぴかぴかの短剣で切り分けた。
「あくをー、しゅくうー……おたま! と、しょっき! きゃ──!」
あわあわする僕に、首をかしげたムニャが、影に指をのばす。
ぴかぴかの宝玉のついたちいさな器が現れた。
「これ?」
「きゃ──!」
短剣と、おそろいの、ぴっかぴっか!
のけぞる僕に、ムニャの眉が、さみしげに下がる。
「ちがった?」
「う、うぅん! ご、ごぅかで、ぼく、びっくり、したの……」
……むーちゃん、ましゃか、これを、お玉に……?
宝石、ぴっかぴっかだよ……?
「飾りがちょっと邪魔だけど、使えるんじゃないかな」
にこにこするむーちゃんが、じゃまって言った……!
「はぅう……!」
「だめ?」
ぶんぶん僕は首をふる。
「え、えと、えと……じゃあ……」
ぴかぴかの宝石のついたお椀を、ムニャが出してくれた水でていねいに洗ってから、アクをすくいました……
宝玉が、アクまみれに……!
「洗えば落ちるよ」
むーちゃんが、にこにこしてる!
「むーちゃん、つよつよ……!」
驚嘆する僕に、ムニャの瞳が瞬いた。
「そ、そうかな? 僕、つよつよ?」
「とっても!」
ムニャを抱っこして、ふたりで笑った。
「おぉ? にゃんか、よく、にえてゆ、きが、すゆ!」
お鍋……魔導具のなかをのぞきこんだ僕は、首をかしげる。
「いいこと?」
ムニャも僕と一緒のほうに首をかしげて、僕はこっくりうなずいた。
「じたん! しゅごぃ、むーちゃん!」
「時短? すごいね、ぽて!」
ふたりで手をつないで、ふわふわ笑う。
切ったお野菜を入れて、しばらく煮てから、お肉を入れる。
「たぶん、しゃっと、にた、ほうが、やーらかくて、おいしーの。いっぱい、にちゃうと、かすかす、に……!」
「さすが、ぽて博士!」
「えへへ」
浮かんでくるアクを、宝石の器で、とりとりして、ムニャに水を出してもらって、洗う。
「よかった。使い道があって」
アクとりになった器に、むーちゃんが、満足そうです……!
さすが、むーちゃん!
「おお、はやぃ! もう、にえて、きたよ」
こっくり煮えてきたお肉とお野菜の香りが、辺り一帯にくゆりはじめる。
「いい匂い」
ムニャが笑ってくれたら、どきどきする。
「とろとろ、にえたら!」
さっき、むーちゃんの、すごわざのおかげで摘めた香草を入れる。
さわやかな香りが立ちのぼる。
「わあ……!」
ムニャの瞳が輝いた。
さっと煮えたら、できあがり!
「むーちゃん、たべて」
きらきらのお椀で、すくったら、ムニャが首をふる。
「ぽてが先」
「むーちゃんが、さきにゃの!」
ふたりで、ぷっくりして、ふたりで、笑う。
「じゃあ、いっしょに食べよう!」
ふたりで、ほっぺをくっつけて、ふたりで、お椀を傾けた。
「あちち……!」
ふたりで、目をみはる。
「おいし──!」
あちあちのほっぺで、ふたりで笑った。
「コゾのぉにく、おじちゃんの、おやさい、おいしー!」
「ぽてが摘んでくれた香草が、とっても香り高いよ。お野菜もお肉も、あまくなるみたい」
きっと高価な食事を食べ慣れているだろうに、お野菜とお肉を切って煮ただけのお料理に、とろけるようにムニャが笑ってくれる。
「ふぇえ……!」
「ど、どうしたの、ぽて……!」
泣きだした僕に、びっくりしたみたいに、ムニャが抱っこしてくれた。
むーちゃんの香りが、沁みてくる。
むーちゃんの、ぬくもりが、沁みてくる。
「……ぼく、うれしぃ……」
あなたの、隣が、うれしくて
涙が、あふれた。
かなしいとき、くるしいときばかりじゃない。
しあわせなときも、涙はあふれるんだね、むーちゃん。
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