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しゅっぱつ!
「あしゃ、ごはん!」
両手をあげる僕に、ほっとしたようにムニャが微笑む。
「うん! これ、使う?」
にこにこムニャが、きらきら魔道具と、ぴかぴかの短剣と、ぴかぴかの食器を、自分の影からするする出してくれる。
長い指がひらめくたび、闇のなかを星が舞うようにきらめいて、魔法のひかりが、ちらちら揺れる。
「むーちゃん、しゅごぃ!」
ぱちぱち拍手したら、ムニャが照れくさそうに笑う。
「……ぽてが、ほめてくれるから。……僕は、はじめて、この力が、いいものかもしれないと思うようになった」
「むーちゃん、しゅごぃの。しゅてき、なの!」
きゅう
抱きついたら
ぎゅうう
抱きしめてくれる。
「ありがとう、ぽて」
ふわふわ紅い頬で微笑んだムニャが、お野菜を、きらきらの影から出してくれる。
「これも、いるかな」
にこにこするムニャの手で、お野菜はまるで、もぎたてみたいに、みずみずしく輝いた。
「おやさぃ、しゃんと、してゆ!」
「お野菜は、いつも、しゃんとしてるんじゃないのかな?」
首をかしげるムニャに、首をふる。
「ぉいて、おくと、しなしなに、なちゃう!」
「そうなの? ぴんとしてるね?」
ふたりで首をかしげる。
「しゅてき!」
「すてきだね!」
ふたりで、よいことにした!
「これも」
にこにこムニャが出してくれた骨つき肉は、まるで今、さばかれたかのように、つやつやの赤でたたずんだ。
「いま、きった、みたぃ?」
首をかしげる僕に、ムニャもうなずく。
「つやつやしてるね。よかった。食べられそうかな?」
「あい!」
骨つき肉とお野菜とおなべ……魔導具をきれいに洗う。
ぴかぴかの剣で、骨から、お肉と脂を削ぎとって、脂を魔導具に入れた。
「むーちゃん、あちあち、に、してくだ、しゃぃ!」
「はい、ぽて博士!」
「はかしぇ!」
熱い頬でくねくねしながら、きれいに洗ったお野菜を、ぴかぴかの剣で切る。
脂がじゅわじゅわしてきたら、お野菜を入れて、おなべをやさしく振りながらいためるのです!
お野菜がしんなりしてきたら、お肉を入れる。
「わあ、いい香り!」
ムニャが笑ってくれたら、とびきりのしあわせが、降ってくる。
「あちあち!」
ふたりで笑って、ふたりで食べた朝ごはんは、とびきりおいしい。
「……僕、ご飯をおいしいと思って食べたこと、ほとんどなかった気がする」
ぴかぴかの器のなかの、野菜とお肉をいためただけのご飯に、ムニャは目をみはる。
「……ぽてがつくってくれるご飯、すごく、おいしい。元気がでる。
朝、起きたときに思ったんだ。すごく、身体がかるいなって」
首をかしげた僕は、ふわふわ笑う。
「きのぅ、むーちゃんが、ゆき、しまってくれて、ちゅんだ、ふわふわぐさ、しょーか、たしゅけて、げんきに、なゆ、くさ、なの!」
「……そ、そうなの?」
こっくり、僕はうなずいた。
「むーちゃん、げんきに、なゆ、よぅに!」
夜空の瞳が、揺れる。
「……ありがとう、ぽて」
抱きしめてくれるムニャを、抱きしめる。
これくらいなら、きっと、誰にもできるから。
もっと、もっと、むーちゃんをたすけたい。
もっと、もっと、むーちゃんの役に立って。
僕がいないと、困るように、なってくれたらいい。
願うのは、なんて、浅ましくて、すがるようで、はずかしくて
なのに
あなたを想う気もちは、止まるどころか
あふれてく。
「じゃあ、お腹も、ぽんぽんになったから、香草つみに、しゅっぱつ!」
にこにこするムニャが抱っこしてくれて、僕はしょんぼり眉をさげる。
「ぼく、おもくて、ごめんなしゃい、むーちゃん」
「ぽては、とっても軽いよ。森は危ないから、抱っこで行こうね」
『ひとりで、へーき!』元気に駆けたら、ズボォ……! ってなって、『はにゃー!』となる未来しか見えない。
2回したので、学習したよ!
なので、僕が冬の森を進むには、むーちゃんの抱っこが必須なのです……!
「ふぇ……むーちゃん、ありがとぅ」
「いい子いい子」
ムニャが頭をなでてくれる。
ぽわぽわ頬が熱くなる。
「出発!」
笑ってくれるムニャと一緒に、ちいさな手をあげる。
「しゅっぱちゅ!」
冬の朝のひかりの降る森に、さくり、雪を踏む音が響く。
ちいさな、りすが、びっくりしたように駆けるしっぽが、ほわほわ揺れた。
ふたりで顔を見あわせて、笑う。
「どこを探すか、教えてね」
「あい!」
ふたりで森の探索、はじまりです!
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